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#1-5.キリストの涙なのね。素敵

ここ数日色々な事があり真っ直ぐ帰る気になれず。

裏通りにある隠れ家的なワインバー『vino』 に寄ることにした。

この店は半地下になっていて奥には個室もあるが今日は1人なのでカウンターに座る。

「あら、今日は1人なの? 藤堂ちゃんは一緒じゃないの? つまらないわね」

「独りで悪かったな」

「あら、私はのっち一人でも嬉しいわよ」

「嘘つけ」

線の細い『vino』 のマスターがいつもの真っ白なスタンドカラーのシャツに黒いパンツに黒いソムリエエプロン姿で出迎えてくれた。

因みにここのマスターはそっち系の人だ。

それでもシニアソムリエの資格を持っていてその筋では結構有名な人らしい。

「今日はどうするの?」

「グラスは何?」

「白がヴェルデッキオ、赤がダブルッオ。そうそうラクリマクリスティーもあるわよ」

「それじゃ、それで」

「珍しいわね、赤なんて」

「色々あって泣きたい気分なんだよ」

「それで、キリストの涙なのね。素敵」

マスターはつまみにガーリックトーストとパルミジャーノレッジャーノを出してくれた。

会社の事や藤堂の事などを話しながらワインを飲みチーズを摘む。

3杯目でいい気分になってきた。

「そろそろ帰るわ」

「ええ、もう帰っちゃうの?」

「まだ、やらなきゃいけない事があるんだよ」

「ネットのお仕事?」

「そう、副業と言うか趣味」

「ワーカーホリックなんだから、体に気を付けてね」

「大丈夫、昼休みにちゃんと昼寝しているから」

そう言って店を出る。


副業と言ってもメールのチェックや連絡事項を報告するだけなのだが結構時間がかかったりする。

まぁ、最初は趣味のつもりだったが回りに流されていると言った方がいいのかもしれない。

この副業の所為で睡眠時間があまり取れないので、無駄な通勤時間を減らす為に会社の近くにマンションを借りている。

そのマンションに近づくとマンションの前に人影が見えた。

嫌な予感がしたが入り口はそこしかないのでそのまま歩いてその人影に近づいた。

その人影は俺に気が付いてこちらを見ていた。

やはり昨夜の彼女だったって……待てよ。何で俺の家を知っているんだ?

流石に昨今のニュースなんかを仕事柄チェックしているので少し怖くなってきた。

「こんばんは、あのう昨日はありがとう御座いました」

消えそうな声で彼女が俺に言ってきた。

「何故、君がここに居るんだ? それに何でここが俺の家だと?」

「あ、あのう。それは……」

彼女が困ったようにモジモジしていた。

「もし、昨日みたいに変な男に絡まれたらどうするんだ? 直ぐに帰りなさい」

俺が少し強く言うと彼女は俯いてしまった。

そして手に持っている手提げ袋に光る物が落ちた。

「えっ? ごめん。強く言い過ぎた」

すると彼女は何も言わず俺の横を走り抜けて行った。

その時、確かに頬を伝う涙が街灯で光っていた。

「俺が泣かせちゃったのか?」

一体何なんだ? 俺が泣きたい気分満載だよ……



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