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#12-3.『お・い・で』

羽田に着きモノレールに乗り浜松町から山手線に乗り換える。

東京は沖縄に比べて時差ではないけど1時間くらいの日の出日の入りの時間差がある。

山手線に乗る頃には既に暗くなり始めて居た、もう直ぐ私が降りる駅が近づいてくる。

瑞貴君が降りる会社の最寄り駅は私が降りる駅の2つ先だった。

「瑞貴君、私はここで降りるから」

「そうでしたね。引っ越しをしたんですね」

「う、うん」

恐らく私の事も藤堂君に聞いていたのだろう事が伺える。

「それじゃね」

「凛子さん、迎えに来てくれてありがとう」

そう言って瑞貴君が優しく抱きしめてくれた。

瑞貴君が名前を言ってくれて抱きしめてくれている。

それがただ嬉しかった。

これでお別れかもしれないのに。

『戻ってきて欲しい』

その言葉は最後まで聞けなかった。

当然だと思う、私も元には戻れないと思っているし瑞貴君の元に戻る気は無かったのだし。

私が原因で瑞貴君を傷付けた上に突き放したのだから。

それでも瑞貴君の温もりに触れる事が出来て涙が溢れてくる。

ドアが開き、瑞貴君の胸をトンと両手で弾いて電車から飛び降りた。

プシューと音がしてドアが閉まり電車が走り去ってしまう。

見送りもせずに涙も拭かず改札口に向い走り出した。


何処をどう歩いていたのか覚えていない。

それでも気付くとアパートの前に立って居た。

こんなに泣き腫らした目で明日は出勤出来るかな。

そんな事を考えながら階段を上がり2階の自分の部屋の鍵を開ける。

ドアを開けて手探りでスイッチを探して真っ暗な部屋に電気をつける。

蛍光灯が点滅を数回繰り返し部屋に明かりが灯ると、私は全身から力が抜けて玄関に座り込んでしまった。

信じられない光景が目に飛び込んできた。

目の前には何一つ無い空っぽの畳の部屋があるだけだった。

「どうしよう……」

玄関を飛び出してとりあえず公衆電話を探す。

携帯電話が普及して公衆電話は殆ど使われる事がなくなり見つけるのは至難の業だった。

それでも何とか見つけて電話ボックスに駆け込んで記憶にある香蓮さんの携帯に電話を掛けた。

「もしもし、香蓮さん」

「あら、凛子。あなた何をしているの早くいらっしゃい」

「いらっしゃいってどこにですか!」

「どうしたの。そんなに慌てて、何処ってあなたの家に決まっているじゃない。変よ、凛子」

香蓮さんの声の向こうからは花ちゃんや藤堂君の楽しそうな話し声が聞こえてくる。

そして香蓮さんが私の家と言うことはあそこしかない。

思わず受話器を放り出して電話ボックスを飛び出し直ぐにタクシーを拾って瑞貴君のマンションに向った。


エントランスホールを抜けてエレベーターに乗り込み恐る恐る認証装置に暗証番号を入力して指をスキャナーに当てると直ぐにエレベーターが動き出した。

最上階に着き玄関ホールを見ると私が育てていたポトス達が息も絶え絶えだった。

けれど今はそんな事に構っている余裕なんて無かった。

思い切ってドアを開けると中から声がした。

「お帰り、凛子」

「お帰りなさい。凛子さん」

香蓮さんと花ちゃんが笑顔で出迎えてくれる。

何が起きているのかさっぱり理解できない、部屋は私が暮らして居た時と同じように元通りなっている。

いつの間にか瑞貴君の姿を無意識に探していた。

居た、リビングのテーブルの前でいつもの優しい笑顔で両手を広げてくれている。

そして瑞貴君の口が動いた。

『お・い・で』

私は香蓮さんと花ちゃんの間をすり抜けて泣き叫びながら瑞貴君の胸にダイブしていた。

瑞貴君は私を受け止め尻餅をつく様にクッションに倒れこんだ。

「瑞貴君の馬鹿!」

「酷いよ、心臓が止まるかと思ったんだから」

「凛子さんゴメンね。でもこうでもしないと戻って来てくれないでしょ」

「う、う……」

「これでお相子だね。先輩、僕のお願いを聞いてくれる? 先輩とこれからもずっと一緒にいたいのだけど駄目かな?」

「だ、めじゃ、ない、ろぅ」

言葉にならない、気付くと瑞貴君にキスをしていた。

私の精一杯の気持ちを込めて。

すると優しく、そしてしっかりと抱きしめてくれる。

私が泣き止んで落ち着くまで待っていたのだろう、香蓮さんが突っ込みを入れてきた。

「もう、いい加減にしなさい。いつまで抱き合っているのつもりなの?」

「あはは」

香蓮さんに言われ瑞貴君が万歳と両手を広げるけど私は抱きついたままでいた。

「こら、凛子。いい加減に離れなさい」

「嫌らぁ、離れない!」

「もう、子どもじゃないんだから」

「子ろもで、良いらもん」

香蓮さんが私の襟を掴んで引き離そうとするのを私は瑞貴君の体にしがみ付いて阻止する。

「もう、良いわ。好きにしなさい。それじゃシャンパンで乾杯しましょう」

「シャンパン? 乾杯?」

思わず顔を上げるとテーブルの上には豪華な料理が美味しそうに湯気を立てていて、リビングの窓際には見事としか言いようが無いクリスマスツリーが綺麗に飾られイルミネーションが点滅している。

「後輩君! どう言う事なの?」

「先輩?」

「ちゃんと説明しなさい!」

「あはは、実は先輩が迎えに来てくれた時点で僕の気持ちは決まっていたんです。でも何を言っても先輩を責めているみたいで何も言えなかったんです。それと戻ってきて欲しいと言っても戻って来てくれない様な様な気がしてちょっと強引な手に出ました」

「どんな手を使ったの?」

「僕は先輩のアパートを知らないのでオルガ達に頼んだんです。そうしたら私達だけじゃ無理だから皆の力を借りるわよと言われて」

「それってまさか、空港でしてたメール?」

「はい」

「信じられない。それじゃこのお料理は?」

私の問いに瑞貴君は一枚のクリスマスカードを見せてくれた。

「To Samurai and Knight. 

       Happy Christmas!!        

             From N.O.E.L」

ご丁寧にオルガさんのキスマーク付きだった。

なんでも瑞貴君がマンションに帰ると香蓮さんに花ちゃんそれに藤堂君が部屋で待ち構えていて私がマンションに行く寸前まで尋問にあっていたらしい。



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