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#12-1.う、嘘だろ

私は今、機上の人となっている。

そして私が乗っている飛行機は旅客機ではなくプライベートジェットと言うかビジネスジェットとでも言うべき飛行機で……

藍花の応接室もかなり上品で好きだったがそれ以上に凄い機内になっている。

それは豪華なホテルのスィートルームが飛行機の中にあると考えた方が近いかもしれない。

落ち着いたベージュの本皮のソファーに座らされ、目の前ではオルガさんとエフィにルイスが寛いでいる。


何でこんな事になっているかというと私が会議室を飛び出して玄関ロビーに下りるとエフィに声を掛けられた。

恐らくオルガさんを待っていたのだと思う。

「ミス イチノセ。どうしたのですか?」

「エフィ?」

そして彼等なら瑞貴君の行き先を知っているのではないかと思った。

「エフィ。教えて瑞貴君は何処に居るの? ナイトは何処なの?」

「ナイト? ん~OK」

「ヘイヘイヘイ! ビショップ。貴様だけ汚いぞ」

「ハァ? ルーク? これが俺の役名だ」

そこにルイスが現れてエフィと言い争いになってしまった。

最初は日本語で言い合っていたのにヒートアップすると英語で顔を突き合せる様にしながら口喧嘩を始めてしまった。

それはまるで映画の一シーンの様だった。

玄関ホールにイギリス英語とアメリカ英語が飛び交いスタッフも行き交う人も遠巻きに見ている。

「Hurry up!」

その一声で玄関ホールが凍りついた。

黒いアルマーニのパンツスーツを着けたオルガさんが両手を腰にあてもの凄い形相でエフィとルイスを睨みつけている。

エフィとルイスはまるで子どもの様に肘でお互いに小突きあっていた。

それはまるで香蓮さんに怒られている瑞貴君と藤堂君の様に見えて思わず噴出して笑ってしまった。

「やっと笑ってくれたわね。リンコ」

「えっ? あっ!」

オルガさんに言われて自分が本当に笑っている事に気付いた。

周りに居た藍花の従業員からも驚きとどよめきがが上がっている。

思わず恥ずかしくなって俯いてしまうとオルガさんに腕を引っ張られてしまった。

「さぁ、急ぎましょう、プリンセス。ナイトが待っています」

「へぇ?」

素っ頓狂な声を上げた私なんかに構わずに、オルガさんが大きな車の後部座席に私を押し込んだ。

その車はドアが観音開きになっていて優に5メートルは超える大きな車だった。

ボンネットの先には、翼を持った女神像のスピリット・オブ・エクスタシーが鎮座するロールスロイスで……

車に驚いているとオルガさんが私の横に乗り込みルイスさんがドアを閉めてくれた。

専属の運転手でも居るのかと思っていたらルイスさんが運転席に着きエフィが助手席に座っていた。

「オルガさん、この車は?」

「あはは、この車は俺達が日本に居るときに使っている車だよ。ロールスロイスのゴーストって言うんだ」

「えっ、ルイスさん?」

私は隣に座っているオルガさんに聞いたのに運転席のルイスさんが楽しそうに話し始めて驚いてしまった。

会議室では谷野君に聞いたとおりの金髪の石像にしか見えなくて絶えず不機嫌そうな仏頂面をしていたから。

「うふふ、ルイスはねエフィにチェスで負けて藍花に潜入できなかったから不機嫌だったの。本当は見かけによらず優しい男なのよ」

「それってどう言うことですか? そう言えば情報漏えいは初期に判っていたって言っていたし」

「それはあなたよ」

「私ですか?」

「オフコース! ナイトの初恋相手の侍がどんな女の子なのか調べるのが目的だもの」

「そんな、情報漏えいは……」

オルガさんの言葉で一気に気が抜けて腰砕けになってしまう。

「ナイトに任せれば日本に居なくても一発で判るわよ。ナイトは超一流のハッカーよ。本来、ハッカーはネット上で繋がっていても共同で何かをするような事は殆ど無いわ。それは興味がある事を横取りされるのが嫌いだから」

「それじゃ何故? 会社なんかを?」

「ナイトに惚れたと言うのが本音かしら。私もルイスもエフィもね。彼は他人を寄せ付けないオーラを出していた。それでも私達は彼に付き纏い彼を巻き込んで言った。その結果、ナイトの初恋相手の両親をテロに巻き込んでしまった」

「それは……」

「本当にリンコには申し訳ないと思っている。リンコを日本に置いてアメリカに召喚されてしまった時にナイトは笑顔で居たわ。でも時々もの凄く寂しそうな瞳をして空を見ていたわ。私達の罪滅ぼしかしら1人でも多くテロによって傷付いた人を救いたいの。それにナイトが居なければ今の私達はないのだからね」

何とも言えない不思議な色をしたオルガさんの瞳が揺れて静かに目を閉じた。

「それは私も同じですあのテロで両親が亡くなって辛い思いも沢山しました。でもあのテロに瑞貴君が巻き込まれなかったから私は瑞貴君に再会する事が出来たんですから」

この気持ちはこれからもずっと変らないだろう。

それにオルガさん達に罪滅ぼしなんて思って欲しくないのが正直な気持ちだった。

何故? それは単なる予感なのだけどもっと良い関係になれそうな気がするから。

「再会か、ちょっと違うわね」

「ええ、何が違うんですか?」

オルガさんが意味ありげな微笑をするとエフィもルイスも肩を震わせていた。

「だってナイトはリンコを探し続けていたのよ」

「えっ! ええ!」

「あらゆる手段を使ってね」

「あらゆる手段ってまさか……」

「そう発覚すれば法律に触れる様な事をナイトは形跡なんか一切残さずにやってのけるの。そしてあなたを見つけ出した。でもそこには難関が待ち受けていたの」

「難関ってもしかしたら藍花商事に入社する事ですか?」

「あそこのカンパニーに入るためにはカレッジの証明が必要だった。ナイトはその証明を持っているけれど公にする事は出来なかった」

「それじゃどうやって入社したんですか? まさか学歴詐称?」

「ノー。カンパニーに救世主が居たの。これ以上は言えないわ、私達にも守秘義務があるから」

そんな会話をしているとあまり見る機会が無い場所に来ていた。

そこはダグラス・マッカーサーが降り立った飛行場の厚木基地だった。

ルイスはそんな事を気にしていないのか当たり前のように車を基地内に進め、ジェット機に乗せられて私は機上の人になっている。


落ち着かない、それが本音だった。

これでも一応、日本では名の知れた藍花商事の秘書をしていて私は代表に就いている。

色々な場所に代表と出向いた事はあるけどプライベートジェットなんて映画の中でしか見たことが無い、そんな世界に居るのだから当然なのかもしれない。

「あのう、どこに行くのですか?」

「あら? リンコはナイトを探しているんでしょ」

「はい」

「ナイトはね、宇宙にでも飛び出さない限り世界中の何処に居ても直ぐに判るようになっているの」

「そ、それってまさか監視されているって……」

「そう、でも方法はトップシークレットよ。こんな事を一般人に言っただけでも査問されちゃうのだからね」

もの凄い事をサラッと言い退けてオルガさんはウィンクした。

仕方が無いと言えば仕方が無いのかもしれない、瑞貴君はキーマンで何かあれば世界中が大変な事になってしまうのだから。

それ以上にそんな事をおくびにも出さない瑞貴君は凄いと思ってしまった。

普通に言われても信じられない話だし普通に考えたら人には言えない事だもんね。

本人も人には言え無い事だってあるって言っていたし。

「そうですか、そうですよね。でも皆さんは日本語がとてもお上手なんですね」

「ええ、日本が大好きだから。春・夏・秋・冬それぞれ違う顔を持ち京都や奈良に行けば古き日本を知ることが出来る。数え切れないほど私達は日本に来ているの、もちろんナイトには内緒よ。それに大好きなナイトの国だもの、勘違いは嫌よ。私にだって恋人がいるのだから。そうだ到着する前にこっちにいらっしゃい」

「は、はい?」

オルガさんの後について行くとそこには豪華なバスルームがあった。

シャワーを浴びてくるように言われて渋々シャワーを浴びる。

でも、とても素敵なバスルームでシャワーを浴びていると心が少しだけ解されて、縮こまっていた羽を少しだけ伸ばせたような気がした。

シャワーを浴びて出てくるとオルガさんの姿は無く私が着ていた物もすべて無くなっている。

そして新品の洋服と下着までも用意されていた。

思わずオルガさんを呼んだけど返事が無い。

これを着て出て行くしか私には選択の余地が残されていなかった。

下着をつけて次に目についたのはオフホワイトの裾にレースがあしらわれたワイドなパンツスカートとグレーぽいアンティークな色合いの花模様で、袖や胸元にクロシェレースが可愛らしいコットン素材のワンピースだった。

ワンピースと同じ様な色合いの胸元にレースがついているインナーを着てパンツスカートを穿きワンピースを着る。

靴はこげ茶色のしっかりとした作りのエンジニアブーツとフードつきでアイボリーの内側にボアがついていて、袖口や襟元やポケットにも同じボアが覗いている温かそうコートまで用意されていた。

仕方なくブーツを履いてコートを小脇に抱えてバスルームを後にした。

ソファーのある部屋に行くとオルガさんが直ぐに私に気付いた。

「わぉ! ビューティフル!」

「オルガさん、恥ずかしいです」

「自信を持ちなさい。世界一のナイトが好きになった女の子なのだからね」

そんな事を言われても困ってしまう。

瑞貴君に対する評価は間違っていないのかもしれない。

だって瑞貴君は世界を守るようなセキュリティーを作り出したのだから。

でも、私は……

オルガさんの反応とは引き換えにエフィとルイスさんは私の顔を見て固まっていた。

それは髪の毛をポニーテールにしていない所為かもしれない、瑞貴君の言っていたとおり髪の毛を下ろしている私って別人の見えるのかな。

そんな不安が過ぎった。

「はいはい、何を硬直しているの? エフィとルイスは?」

「だ、誰?」

「はぁ? エフィは今まで何を見てきたの? リンコに決まっているでしょ」

「う、嘘だろ」

「うう、何だか酷い言われ方をしている気がする」

「オウ、マイ、ガー。キャラまで違うよ!」

エフィが驚くのも仕方が無い事なのかもしれないと思った。

何故ならエフィは会社での私しか知らないのだから。

そこで疑問がオルガさんは何で驚かないんだろう。ルイスさんは再び金髪の石像になっていた。

「リンコ、その服は気に入ってもらえたかしら」

「は、はい。でもなんでサイズまでぴったりなの?」

「あら、そう言う服が好きなんでしょ。リンコは」

「えっ?」

「だって、ほら」

「ええ!」

私の方が度肝を抜かれて驚いてしまった。

オルガさんが差し出した写真は私が瑞貴君と2人で始めて行った会社の前の公園で、楽しそうに瑞貴君とお弁当を食べたり一緒に歩いている写真だった。

オルガさんに思わず詰め寄ってしまう。

『何度も日本に言ったことがあると言ったでしょ。私も一応ハッカーの端くれなのよ、他の3人には到底敵わないから経営の方が面白くて経営を任されているけどね』

何て事しか教えてもらえなかった。



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