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#11-1.もう、手遅れですよ

勇気を出して瑞貴君に近づこうとした初夏の季節が再び訪れた。

瑞貴君の覚悟の重さとは裏腹に自分の浅はかなで軽率な行動で大切な人を失ってしまった日に、双葉さんに言われた言葉は私の胸に深く突き刺さった。

「凛子は秘書の仕事をしている時は常に代表や仕事相手の立場を考えて動いているのに、自分の事になると駄目なのね。まぁ、恋愛している時は仕方が無いのかもしれないけれど少しだけ相手の身に自分を置き換えて考えなさい」

「もう、手遅れですよ」

「私はこれからの事を言っているつもりよ」

「そうですね。でもこれからなんて無いですから」

それ以上は何もいえなかった。

瑞貴君の留守中に引っ越しをした時にも香蓮さんには同じ事を言われていた。

そして瑞貴君ならばたとえどんな事情があっても私以外の女の人をマンションに入れる様な事は決してしないだろう。

私は自分自身を戒める為に心の中で諸刃の剣を帯刀し本当の侍になった。


「香蓮さん。凛子さん、本当に笑わなくなっちゃいましたね」

「仕事には差し障りが無いのだから強く言う事も出来ずに困っているのよね」

「鉄壁の営業スマイルで、ですか? 私達に対しても営業スマイルじゃ、あんまり酷いじゃないですか」

「仕事は一点の曇りも無いくらいに完璧にこなしているのに、それを止めろとは言えないわ」

「友達としてもですか?」

「判ったわよ、花。今度『vino』に誘って話をしてみましょう」

「はい」


香蓮さんと花ちゃんに誘われて久しぶりに『vino』に顔を出した。

マスターは相変わらずクネクネで皆を笑わせてくれる。

私も香蓮さんと花ちゃんとこうしているのは凄く楽しかった。

「本当に、凛子は楽しいの?」

「楽しいですよ、香蓮さんは変な事を言わないで下さい」

「凛子さん。私が見ても楽しそうに見えないのだけど。もう少し楽しいのなら笑ってよ」

「笑っているじゃないですか」

「「…………」」

私の言葉に香蓮さんと花ちゃんは驚いた様な顔をして息を呑んだ。

「凛子、最近の社内であなたが何て言われているか知っているの?」

「知っていますよ。冷血、冷酷、血の通わない侍ですよね」

「あなた。判っていて、なぜ? せめて私たちの前では営業スマイルじゃなくて」

「笑いたいですよ。でも出来ないんです」

「そんな……」

「凛子。一度ちゃんと診てもらいましょう」

「心療内科ですか? 何で笑えないのか自分自身が良く判っています。それを再確認しに行けと?」

香蓮さんと花ちゃんはそれ以上何もその事に関しては言わなくなった。2人も原因は判りきっている筈だ。

どんなに名医に診てもらったって同じ事を言われるに違いない。


営業スマイルで居れば仕事は完璧にこなせる、そして社内でも営業スマイルで居れば陰口を叩かれる事が多い。

どれだけ社内で瑞貴君の存在が大きかったのかが良く判り、全て私自身に返って来る。

私と瑞貴君の事は今でも社内には秘密にしている。

それでも私が社内のマスコットだった瑞貴君を追い出した事には変わりなく、辛辣を極める事もあるけど全て受け止めるつもりでいる。

それがせめてもの酬いだから、私は『営業スマイル』と言うに諸刃の剣を構え続ける。

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