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#10-1.恋人ですか

突然の野神君の過呼吸症候群の発作には私の心臓の方が止まるかと思った。

双葉さんには年上のあなたがしっかりしないでどうするのと言われてしまったけど、野神君の事になると我をわすれてしまう。

そんな事があってから野神君の過去について触れる事が怖くなり同時に私の不安も少しずつ募り始めていた。

天気予報で今年の冬は早くから寒くなるなんて言っていたけれど11月に入るとあっという間に冬日が訪れていた。瑞樹君は相変わらず優しく包み込んでくれるし変らず私の側に居てくれる。

ただ、それが嬉しくって瑞貴君の過去なんて気にしないでいられた。

それに過去に何があろうと瑞貴君は瑞貴君なのだからと。

そして会社では一大プロジェクトが立ち上がろうとしていた。

それはライバル会社である住倉との合同プロジェクトで藍花にも住倉から出向のスタッフが送り込まれ営業一課や秘書課にも住倉のスタッフが入り、キャンペーンも大々的に行なう予定でキャンペンガールの選考なども近々行なわれる予定になっていた。

代表も今まで以上に精力的に動き回り必然として私もいつも以上に動き回っていた。

「一ノ瀬君、住倉から来ている谷野君はどんな感じなのかな」

「はい、彼は住倉の中原さんの右腕でかなりのやり手だと聞いていますが」

「そうか住倉のエースの右腕か腕前を拝見と行こうか」

車での移動中に代表は社内の事を少しでも知る為に色々と秘書である私達に色々と聞いてくることが常であった。

住倉の谷野君は瑞貴君や藤堂君と同期で中原さんの腹心なんて言われていて、かなりのやり手で住倉の評価は高かった。

だけど、中原さんの腹心というだけあって表面上は見繕っているものの藍花の営業とは水が合わず特に瑞貴君とは折がすこぶる悪くてお互い笑顔で嫌味の応酬をしていたりした。

私自身も中原さんや谷野君は要注意だと感じていたし、瑞貴君からも気をつける様に忠告されていた。

「あれは、1課の野神君じゃないか?」

「えっ」

会社近くの大きな交差点で車が止まると営業に向うのか歩道を歩いている瑞貴君の姿が目に入る。

しかし、瑞貴君の側には綺麗な女の子が纏わりついていた。

茶色いミデアムヘアーに大き目のサングラスを掛けてファーのついたキャメル色のムートンコートを着て白いミニスカートを穿いてコートと似た色のブーツを履いている。

大人っぽい見覚えがある様な女の子は親しげに瑞貴君の腕を掴もうとするが瑞貴君は邪険に扱い彼女の手を払い除けていた。

「一ノ瀬君、1課の課長にそれとなく本人に釘を刺すように伝えてくれないか?」

「は、はい。承知いたしました」

車が直ぐに動き出し、その後の2人の事は判らなかったけれど代表の言葉以上に心が苦しかった。


その日は今にも泣き出しそうな雲が空を覆い、体の芯まで寒さを感じる日だった。

社内ではキャンペンガールの選考会が予定されていて従業員や関係者が忙しそうに動き回っている。

私は別件で動かなければならず営業フロアーに向っていると瑞貴君と女の子の言い争うような声が階段の踊り場から聞こえてきた。

「いい加減にしてくれ。これ以上付き纏うな」

「瑞貴は酷いよ。会いにも来てくれないで」

「金輪際、俺に係わるな。それにこんな所で関係者と会っているのが判ったら選考から確実に外されるぞ」

「それは困るけど、やっと瑞貴を見つけたのに」

その女の子は先日瑞貴君に纏わりついていた女の子で瑞貴君の選考の言葉で誰だかはっきりと思い出した。

『御堂美希』

御堂財閥の令嬢にしてファッションブランドを立ち上げて、自らもモデルとして活躍していてファッション界の最先端を行く生粋のお嬢様だった。

瑞貴君がそんなお嬢様に呼び捨てにされて瑞貴君自身も彼女の事は知っていると言うかそれ以上の関係なのが直ぐに判った。

「瑞貴君?」

「り、凛子さん」

階段の上から声を掛けると瑞貴君が明らかに動揺していた。

「瑞貴、誰? この人」

「美希には関係ない。早く会場に行け」

「パパに言いつけてやるから!」

御堂さんがそんな事を言いながら私を一瞥して階段を下りていく。

すると瑞貴君が私の前まで階段を上がってきた。

「凛子さんに話したい事が」

「今は勤務中ですのでお話なら勤務外でお願い致します」

私は気がどうにかなりそうだった。

御堂さんは瑞貴君に対して誰が見ても判るほど親しみを感じている。

そんな御堂さんを瑞貴君はあからさまに拒絶している。

2人の関係は?

堪らずに業務的に言い放って階段を駆け下りて営業フロアーに向かってしまった。

今までも何度と無く香蓮さんや花ちゃんには瑞貴君がらみで迷惑を掛けてしまっている。

これ以上迷惑を掛ける訳にはいかない、2人だって大きなプロジェクトに向って仕事をしているのだし仕事が終わってからゆっくりと話し合えば良い事だと思っていた。


「一ノ瀬さん、顔色が悪いですが大丈夫ですか?」

「何も問題はありません。ただ今日は一段と冷えるのでそう感じるだけだと思いますよ」

「それなら言いのですが」

今は住倉商事から出向で来ている谷野君を会社側が用意したマンションに案内をしていた。

谷野君の住まいは藍花商事には通うのには遠く、プロジェクトに専念してもらいたいと言う会社側の配慮だった。

マンションは会社の近くでこの界隈の地理に詳しい私が案内するように選考会に出席している代表に言いつけられていた。

しばらくすると今にも泣き出しそうな空が泣き始めてしまった。

冷たい雨が2人に容赦なく降り注ぐ。

会社の近くだと言う事で傘を持たずに出たのが裏目に出てしまった。

慌てて走り出すと私と瑞貴君のマンションが目に入りエントランスに駆け込んだ。

「タオルと傘を取ってくるのでここで待っていてもらえるかしら」

「えっ、ここって一ノ瀬さんのマンションなんですか?」

「はい、1人暮らしではないですけど」

「恋人ですか」

「おかしいですか?」

「いえ、出来れば体を温めたいので何か温かい物でも頂けると嬉しいのですが」

瑞貴君に対するやっかみが無かったと言えば嘘になるかもしれない、深く考えもしないで私は谷野君を部屋に案内してしまっていた。

「随分、セキュリティーが強固ですね」

「この街はそれなりに栄えているし私の恋人はネット関係の仕事もしているの。一つだけ言っておくけど勝手な行動は絶対にしない事いいわね」

「それは十分心得ています」

リビングに谷野君を座らせてキッチンに向かい紅茶でも入れ様とポットを火にかける。

すると谷野君が動く気配がした。

「一ノ瀬さん、トイレをお借りしたいのですけど」

「トイレなら玄関の左手よ」

しばらくするとお湯が沸きティーポットに茶葉を入れてお湯を注ぎ蒸らす。

「広い部屋ですね」

「勝手な事は……」

私が顔を上げると谷野君が瑞貴君の仕事部屋を開けようとしていた。

その部屋は恋人である私でさえ勝手に入ることは許されていない部屋だった。

慌ててキッチンを飛び出した拍子にナイフと小さなまな板が倒れ用意して置いたお気に入りのティーカップが床に落ちて砕け散ってしまう。

そんな事など構わずに谷野君に駆け寄った。

「いい加減にしなさい」

「凄いパソコンですね」

「触らないで」

私の制止を聞いてか聞かず、谷野君がパソコンに触れてしまった。

その瞬間、部屋中の照明が落ち『Warning!』と繰り返す警報と共に赤い非常灯が点く。

慌てて谷野君とルーフバルコニーに出ようとしてサッシを開けようとするけどロックされてしまい開けられなかった。

すると今度は窓と言う窓に台風用に付いていると言うシャッターが降りて来て部屋の中は赤い非常灯だけになってしまった。

玄関に向かい開けようとしたが完全にロックされて私と谷野君は完全に閉じ込められてしまった。

「そうだ携帯で、駄目だ。圏外になっている。すいませんでした。僕の所為で」

「起きてしまった事は仕方が無いわ。野神君が来るのを待ちましょう」

「え、それじゃ」

「私の恋人は営業1課の野神瑞貴君よ」



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