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#7-3.ざわわ、ざわわだよ

私は慣れない布団で寝ていた所為か朝早く目が覚めた。

昨夜、瑞貴君に連れられて奥の座敷に行くとそこは2間続きになっていて別々に布団が敷いてあった。

すると、瑞貴君が布団を隣同士に並べてくれたの。

「ありがとう」

「いつもと寝床が違うと寝付かれないからね」

少しだけお喋りしていると私が眠くなって来たのを見計らっていつもの様に『おいで』と言ってくれる。

とても嬉しいのだけど時々どちらが年上なのか判らなくなる時がある。

それでも甘えてしまう自分が何だか恥ずかしい。


目を開けるとそこには瑞貴君の姿は無かった。

起き上がって窓の外を見るとまだ夜明け前で空が白み始めていた。

ふと隣の座敷の方から物音が聞こえる、襖を開けると音は座敷の向こうからだった。

「おはようございます」

「あぃ、早起きね。おはようさん」

座敷の向こうは台所で寿美子さんが朝食の準備をしていた。

「あのう、野神君は?」

「瑞貴ぃは浜に居るはずよ」

「浜ですか?」

「あぃ、あぃ。あんたが瑞貴ぃの大切な人ね? 確か一ノ瀬さん」

「は、はい、一ノ瀬凛子です」

うぅ、何でこんな早朝からハイテンションなんだろう……

「上等さぁ、瑞貴ぃにはもったいないくらい。あの子はょ、子どもの頃から辛い思いをいっぱいしているサーネ。でも一ノ瀬さんみたいな子が側に居るならイッペー上等さぁ」

「辛い思いですか」

「そう、あの子はあまり自分の事を話したがらんさぁ。でもアンマーもワッタァも肝苦しいかったけどょ。一ノ瀬さんみたいな上等の女の子が居るのなら安心さぁ。これからも瑞貴ぃの事を宜しくお願いしますねぇ」

「いえいえ。私こそ宜しくお願いします」

深々と頭を下げられて初めてそんな事を言われて恥ずかしくなってきたのと同時に瑞貴君の身内の人に認められて何だか嬉しかった。

「私、瑞貴君の所に行ってきます」

「直ぐ右の浜に居るからょ」

「はーい」

寝間着代わりのワンピースのまま、私は屋敷を飛び出した。


朝の空気が少しひんやりしていて気持ちが良かった。

直ぐ近くの浜に行くと瑞貴君が波打ち際で道着を着て空手か何かの稽古をしている。

近くにあった流木に腰をかけると瑞貴君が私をチラッと見たけれど稽古を続けている。

いつに無く真剣な表情にドキッとしてしまう。

しばらくすると島の反対側から太陽の光が差し込み始める。

瑞貴君の真剣な眼差し、そして迸る汗が朝日でキラキラ輝いていた。

見蕩れてしまっていると不意に名前を呼ばれた。

「凛子さん、おはよー」

目の前にはいつもの子どもの様な笑顔の瑞貴君が噴出す汗をタオルで拭きながら立っていた。

「おはよう。瑞貴君は空手をやっていたんだ」

「うん、空手と言うより古武道かな、子どもの頃に爺ちゃんに叩き込まれたんだ。周りの子より体が小さかったからね。まぁ、今もそんなに大きい方じゃないんだけどさ」

「マンションでも稽古はしていたの?」

「時々、気分転換にね。島に居る時は毎朝稽古をするようにしているんだ」

「明日も見に来て良い?」

「凛子さんが眠くないのなら」

「うん、全然平気」

眠いはずが無いだって大好きな人の知らなかった顔が見られるのだもの。

「それじゃ、朝ごはん食べに行こう。シャワーも浴びたいし」

「うん」

瑞貴君が少しだけ前を歩いている。彼の背中が何だか大きく見えた。


屋敷に帰ると、すっかり朝食の準備が整っていた。

先輩達と藤堂君を起こす。

双葉さんは寝起きが悪いのか不機嫌そうな顔をしている、花ちゃんと藤堂君は2人ともげんなりした顔をしていた。

恐らく双葉さんに事細かく説明を求められたのだろう。

私は瑞貴君の観察力の凄さに驚かされることがある、花ちゃんと藤堂君の事もそうだ。

それと、時々黒いオーラを放っている。昨日は常に黒っぽいオーラに包まれていた。

その結果が今朝の3人の表情に表れていた。

「いただきまーす」

「…………」

「皆、元気ないですね」

「…………」

「野神君、今日の予定は?」

「さぁ、勝手について来たんですからご自由に」

「そうだったわね、その仕打ちがこれな訳?」

「俺は何も藤堂達の事だって直に判る事だし早めにと思っただけですよ」

「何で君に花達の事が判るの!」

双葉さんが少しイライラしている。

「デートをしている時に見かけたんですよ、仲良く歩いているところを。で、ちょっと鎌を……」

「黒いな、野神は」

藤堂君がボソッと呟いた。

「俺は猫の下も猫だからね。それも『ケット・シー』猫の王様だから」

相変わらず瑞貴君は掴み所が無くユラリユラリとかわしていた。


朝食を食べておばさんと片づけを終えるとおばさんが手提げ袋と小菊の花束を渡してくれた。

「お墓参りに来てくれたんでしょう。瑞貴ぃと行っておいで」

「はい、ありがとうございます」

「あぃ、瑞貴ぃ。バケツに水を汲んでからょ、朝のうちに行ってくるといいサーネ」

「うん、判った」

箒とバケツを持って歩く瑞貴君の後を着いて行く。

しばらく屋敷の前の道を歩いていると背の高いサトウキビの畑の細い道に入っていった。

「うわぁ、なんかザワザワ鳴ってる」

「ザワワ、ザワワだよ」

「ああ、それ知ってる。哀しい歌だよね」

「沖縄戦の歌だからね。まぁ、この辺は関係なかったみたいだけど。着いたよ」

そこはサトウキビ畑の中にぽつんとあるコンクリートで作られた四角い箱みたいなお墓だった。

「これがお母さんのお墓なの?」

「う~ん、野神家のお墓かな。この箱みたいなお墓の中に先祖代々の骨壷が収められているんだ」

瑞貴君は説明しながら箒でお墓の上や周りを綺麗にしていた。

徐にバケツの水をお墓にかけて花瓶や茶碗を綺麗にして花瓶に水を入れた。

「バックをちょうだい」

「うん」

バックを渡すと中からサンピン茶と黒いお線香を取り出した。

「花を二つに分けてもらえるかなぁ」

「うん、判った」

花を渡すと花瓶に差して供えている。

「今日は、爺ちゃんがメインじゃないんでサンピン茶で我慢してくれ。美紅、お兄ちゃんが会いに来たぞ」

「えっ、お兄ちゃんて……」

「まだ、話して無かったね。実は妹も母と一緒の事故で亡くなったんだ」

「何歳だったの?」

「6歳かな入学式を楽しみにしていたのに。未だに妹の事を考えると辛くって」

「でも、一応妹がって……」

「それは、俺の事を引き取った親父だという人の娘。丁度同い年で名前も一字違い、あり得ないでしょ。だからあまり会いたくないんだ」

「そうだったんだ」

「うん、でも凛子さんが気にする事じゃないからね。ここに来て」

瑞貴君が左手で地面を叩いた。

私が瑞貴君の横に座ると黒いお線香を半分にして火を着けて手向けて目を閉じた。

私も目を閉じて手を合わせる。少しして目を開けると隣の瑞貴君はまだ目を閉じたままだった。

「何をお話しているの?」

「色々、凛子さんの紹介とか見守ってくださいって。凛子さんは」

「宜しくお願いしますって」

「じゃ、帰ろうか」

瑞貴君が手を差し出してくれた。

「うん!」

彼の手を取って歩き出す。

今はこんなに明るくって(時々黒いけど)ムードメーカーなのに彼の過去は知れば知るほど哀しいものだった。

これがおばさんの言っていた肝苦しいってことなんだろうか?

そんな事を考えていると、笑顔で私の顔を覗き込んできた。

「どうしたの?」

「ううん、なんでもないよ」

私も笑顔で返す。いつも瑞貴君の側で笑っていれたらいいな。



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