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第25話 哀楽

 議会での演説を終え、疲れ切った身体で大統領官邸の執務室に戻ったオリザニア共和国大統領ローザファシスカは、めまぐるしく過ぎた二日間を思い返していた。

 前日の夕刻、ローザファシスカは、これまでの対ソル関係全体を回顧し、オリザニア国民の敵愾心を鼓舞するような堂々たる演説にすべきというデル国務長官の提案を退けた。

 まず、何よりも簡明な教書を出す。それはハトー襲撃に絞った内容で。そしてその後に国民を鼓舞する強力な教書を出す。

 そう言ったローザファシスカは、国務次官に簡明な教書を口述し始めたのだった。


 ソル機動部隊がハトーから引き上げ始めた頃に、ローザファシスカの書斎は臨時の作戦本部と化していた。

 そこに集う騎兵砂海軍両長官に、ローザファシスカは次々と指示を出し、国有兵器廠ばかりでなく、民間の軍需品製造工場に兵を送り、厳重な監視下に置くように命じている。

 言うまでもなく、オリザニア本土に起居するソルの移民や、どこに潜り込んでいるか判らないスパイに対する備えだ。肌の色が異なるソル人ばかりでなく、彼の三国同盟を結んだ枢軸国の二国はオリザニア人と外見に大きな差異はない。アレマニアが属する北部ドラゴリーの人種と、ウィトルスが属する南部ドラゴリーの人種にははっきりした差異があるが、オリザニア共和国国民の多くがドラゴリーからの移民で成り立っていることが問題をややこしくさせていた。もちろん、オリザニア国籍を有する納税者であっても、主義主張の違いや、経済的な事情からソルに加担する者がいないとも限らない。

 ハトーの艦隊に大打撃を受けた上、バックアップ体制まで破壊されては目も当てられない。


「橋という橋も、すべて厳戒態勢下に置くべきです」

「おっしゃるとおりです、長官。

 そして、ここ大統領官邸も同じように」

 騎兵軍長官の提案に参謀総長が同調し、その上で新しい提案を大統領に向かって言う。


「橋を厳戒態勢下に置くことも、ここをそうすることも、ありがたいとは思うが私は拒絶する。

 そのようなことをして、いたずらに国民を不安にさせるわけにはいかないよ、参謀総長。

 兵器廠と民間の軍需工場に監視兵を置くだけで充分だ」

 ローザファシスカは参謀総長に感謝の視線を送りながら言った。


 日が沈んだ後も、大統領官邸北にある玄関に明かりが灯されることはなかった。

 オリザニア史上初めて、闇の帳に沈んだ大統領官邸の内部は、侍女たちが大童で灯火管制用のカーテンを抱えて走り回っている。部屋数が多いため、全員総出でもまだ足りない状況だ。

 さらに、テロを事前に防ぐため、大統領執務室に近い通りは一切の通行が遮断されている。

 万が一、首都が空襲を受けた際に大統領が避難するためのトンネルも、急ピッチで点検整備が進められていた。

 トンネルは、首都の中で最も安全な退避壕である財務省地下の金庫に繋がっているが、首都で最も安全ということは、オリザニア国内で最も安全であることを意味している。



「何かあれば、そちらに行くので準備をよろしく。

 その前に閣議は八時半からだ。

 一度こちらに来ていただく。

 閣議の最中に皆でトンネルを走るようなことにはなりたくはないがね」

 教書の口述を済ませたローザファシスカは、財務長官に魔道通話をかけていた。


「はい、承りましてございます、閣下。

 ご指示は、すべて片付いております」

 受話器の向こうから財務長官の声が返ってきた。

 多忙な中、大統領からの直通通話といえど、あまり時間を割いていたくないはずなのだが、その声は落ち着き払っていた。


「いいぞ、長官」

 満足気に頷くローザファシスカの耳に、財務長官の声が続けて届く。


「それと、ソルの在オリザニア資産はすべて凍結します。

 ソル人が我が国から離れたり、外と連絡を取ったりすることもできないように致します。

 国境の検問は、我々が責任を持ちます」

 敵国に自国の資産を持ち出されては敵わない。

 国内の情報も、同様に敵国に渡すわけにはいかない。


「そうか。

 了解した。

 それでよろしい。

 ただし、紳士的な方法で行うことを忘れないでくれたまえ。

 正式な指示は私から出すことにしよう」

 財務長官の報告を僅かでも修正することなく、ローザファシスカは承認した。


「今夜、ソルの銀行と会社すべてに人を入れ、ソル人がそこに入れないように致します」

 財務長官からの最後の報告に、ローザファシスカはひと言よろしいと答え、魔道通話の受話器を置いた。


 ローザファシスカは、財務長官に全幅の信頼を置いていた。

 ソルの在オリザニア資産凍結は財務長官の仕事だが、国境の検問は財務省の仕事の範疇を遥かに越えている。

 だが、デル文書の原案といい、今回の仕事の速さといい、財務長官の能力は突出していた。大統領官邸の警備兵を倍に増やすことや、執務室近くの通りの封鎖、トンネルの点検整備だけでなく、騎兵軍省と砂海軍省、そして国務省が入居している建物の屋上に、高射砲を設置するよう命じたのも財務長官だった。

 もちろん、筋違いの命令に現場は反発したが、その正しさを理解したそれぞれの主人たちから改めて命令が下ることで、財務長官の命令は速やかに実行されていた。




 あらゆる様相が一変した首都では、政府の高官であっても慌てふためく者が続出していた。

 つい昨日までは、どうやってソルを追い詰め、先に戦争の引き金を引かせるか、暗い愉悦の中で謀を巡らせていた者が、いざ思惑どおりに先制攻撃を受けてしまったら狼狽するという性質の悪い冗談のような光景がそこここで展開している。なにせ、既定の方針や周到に準備された構想、それらに沿って敷かれていたレール全てが吹き飛んだのだ。覚悟が固まった状態で、歯を食い縛った状態で喰らう横っ面への拳とは違い、思いもしない方向、後ろから鈍器で頭を一撃されてしまえば、だれでも昏倒するなり、呆然としてしまうのは当たり前のことだ。

 ハトーの被害状況が明らかになるにつれ、その狼狽と混乱は広がっていく一方だった。

 

 その中にあって、ひとりローザファシスカ大統領のみが、泰然とした態度を保っている。

 あらゆる省庁が慌てふためく中、その総元締めである大統領府が落ち着いていられたのは、ひとえにローザファシスカの振る舞いによるところが大だった。もちろん予想外の奇襲攻撃や、刻一刻とその数を増やしていくハトーの犠牲者の数にローザファシスカ自身が衝撃を受けていないはずはないのだが、それでも彼はその泰然とした態度を崩そうとはしなかった。

 オリザニア首都時間で八時半きっかりに、ローザファシスカが召集した閣議は始められた。



「この閣議は、かつて我が共和国が南北に分かれて争った戦争勃発に際し、その前夜に当時の大統領が開いた会議に匹敵する。

 未曾有の国難を克服するため、私は諸君の忌憚のない意見を期待する」

 開会を宣したローザファシスカは、続けてハトーの被害をありのままに伝えた。


「この犠牲者があまりにも多いこと。

 これを報告しなければならないことは、極めて遺憾だ。

 そして、不意を衝かれたことを、認めなければならない」

 いかにも苦しげな表情でローザファシスカは続けた。

 そして、翌日の議会で発表する教書を、居並ぶ閣僚たちに読み聞かせた。


「大統領、この際、対ソルのみならず、アレマニアに対しても宣戦布告を行うべきと、小職は考えます。

 アレマニアがソルを戦争に引きずり込んだことは、明らかです。

 そもそも、我々といたしましても、終局的にはアレマニア打倒が目的でありますれば」

 騎兵軍長官が、即座に意見を述べた。


「長官、いずれアレマニアに対して宣戦布告はするにせよ、今はそのときではない。

 貴官の旺盛な闘志は充分すぎるほど評価に値するが、しばしの忍従は必要だと私は考えている。

 なぜなら、もし、この場でアレマニアに対しても宣戦布告をしてしまえば、我々がそのためにソルとの戦争を仕組んだという非難が巻き起こるだろう。

 仮にも私はドラゴリーでの戦争には介入しないことを公約にして、大統領選を勝ち抜いたのだ。

 その姿勢は最後まで、アリマニアによって苦渋の決断を迫られるまで、崩すわけにはいかないのだよ」

 ローザファシスカは、あくまでも冷静に、計算高くことの成り行きを見据えていた。

 大統領の意見を容れ、アレマニアへの宣戦布告は見送られた。

 だが、ローザファシスカや財務長官といった面々は、いずれ遠くない日に、アレマニアからの宣戦布告があるだろうという予測は、充分にできている。わざわざ先に拳を振り上げて、自らの立場を悪くする必要などないと言うのが、ローザファシスカの立場だった。


「大統領、やはりその教書では、どう考えても生ぬるいと思慮いたします。

 このような危機に直面しているときに、それは不適切だというのが小職の意見です。

 もっと強い言葉で言わなければなりません。

 我々が用意した文書を採っていただきたく、お願いいたします」

 デル国務長官が先程同様に強い態度で迫った。


「議会に対する教書は、これでいい。

 控え目な言葉でいいのであって、爆発的に過ぎることが少しもないのが、却っていいのだよ」

 ローザファシスカはデルの申し出を再度峻拒し、差し出された文書に目を通すこともしなかった。

 しかし、他の態度は終始穏やかなものであり、声を荒げたり、強い調子で言い返すことはまったくなかった。

 激論を戦わせて閣僚の意見をねじ伏せるより、閣僚たちの意見は聞きつつも、辛抱強く丁寧な言葉を返し、彼らが納得して従うことを待ち続けていた。


 ローザファシスカは、ハトー壊滅という事実に対して衝撃を受けていたことを億尾にも出さないばかりか、直ちに反撃に移ることを考えていた。

 ソルが進駐しつつある南方資源地帯のさらに南側にある、バラバ大岩盤への派兵が決定されたのもこの日のうちだった。ソルの資源調達を脅かすと同時に、ハトーを失った変わりにソル侵攻の足がかりとするためだ。

 だが、ローザファシスカは、大方針は自身で決定していたが、軍の行動に細々と口を出すことはしなかった。

 両軍の長官に指示を出すに留め、細部に付いては完全に軍人に任せようとしている。やはり餅屋は餅屋であって、いかに強大な指揮権を有していようと、素人が軍事作戦に口を出すべきではないことを、ローザファシスカは自覚していた。


「ソルがやった攻撃に対する回答は、ソルに対する絞め殺しだ。

 彼らは、何も持っていない。

 我々は、ソルの飢餓と消耗によって、最終的な勝利を収めるだろう」

 閣議はローザファシスカのこの言葉で終了した。



「閣下、戦争の勝敗は冷徹な戦略によって勝ち取るものだということは理解しております。

 ですが、名誉と栄光という要素もまた、必要なものだと私は考えております。

 ソルに対する戦略が絞め殺しであることに異を唱えるつもりはございませんが、それでは軍が不要のものといわれてしまうのではないでしょうか」

 閣僚たちがそれぞれの省庁に戻り、執務室にひとり残ったローザファシスカに、側近が訊ねた。


「そのとおりだ。

 だが、現代の戦争はかつて騎士同士が名乗りを上げて一騎打ちを行って勝敗を決したような、牧歌的な時代とはまったく様相を変えているのだよ。

 名誉と栄光のために、共和国の若者の血を必要以上に流すわけにはいかない。

 たとえ、勝利を収めたとしても、国民が許容できる流血の限界を超えてしまっては、私はここを追い出されてしまうのさ。

 それに、肥大化する軍備はどこかで削減しなければならない。

 大軍を以ってしなくても、戦争に勝つ道筋はつけておくべきだ。

 私は、軍人ではないからね」

 落ち着いた声でローザファシスカは側近に諭すように言ったが、その語尾は僅かに震えを含んでいた。



 突然、執務机に置かれた魔道通話の受信機が鳴る。

 三九歳のときに小児麻痺に罹り、足が不自由になって以来愛用している車椅子を自分で転がし、ローザファシスカは自ら受話器を取り上げる。

 直後、受話器からの報告を聞いた、ローザファシスカの顔色が一気に蒼ざめた。

 ネグリット植民地の航空兵力が、ソルの奇襲を受けて壊滅したという凶報だった。

 それでもローザファシスカの返答は力強く、相手に不安を抱かせるまいという配慮がなされている。

 やがて、受話器を置いたローザファシスカは車椅子に身を深々と沈め、両手で顔を覆ってしまった。


「すまないが、私をひとりにしてくれないか」

 目を閉じたまま、天を仰いだローザファシスカの車椅子から手を離し、側近は短い挨拶の後に執務室を退出していった。


「我々の飛行機のほとんどが地上で撃破だと!

 地上でだ!

 まるでハトーの再現じゃないか!」

 ドアの向こう側から響く大統領の声と、机を激しく拳で叩くを聞き、側近は海兵隊に所属している大統領の長男に、すぐ官邸に来るように連絡を入れた。


 

「お父さん、大丈夫ですか?」

 連絡を受けた長男が執務室に入ったとき、ローザファシスカは執務室の隅に蹲るようにして、愛蔵の切手コレクションのページをめくっていた。

 しかし、その目は何も捉えておらず、好事家が喉から手が出るほど欲しがるような貴重なコレクションに対する感動も何もあったものではない状態だ。


「あ、ああ、お前か。

 酷い、ずいぶんと酷いことに、なった」

 顔を上げることなく、ローザファシスカは長男に言葉を投げると、そのまま押し黙ってしまった。

 明日までに心を立て直さなければならないことは、誰よりも自分自身が理解している。

 未曾有の国難に立ち向う大統領が、この程度でへこたれるなともうひとりの自分が叱咤している。閣僚や国民の前では決して許されない弱気な姿も、家族の前でなら許される。そして、その姿は伝聞となって、戦争を望んでいなかったという一面を強調できるだろう。困難を乗り越えていくリーダーこそ、この難局には相応しく、オリザニア国民が望むリーダー像だ。

 ネグリットの惨状に打ちひしがれた自分と、それをどうすれば有効に活用できるかを冷徹に計算する自分がいることを、ローザファシスカは自覚している。

 息子の前で、ローザファシスカはひとときの休息を取ることに決めていた。




 ハトー奇襲成功の魔道通報はソル本土ばかりでなく、ネグリットや南方資源地帯に攻め込んだソル騎兵軍や砂海軍の各司令部でも傍受していた。

 通信士官から報告が上がると同時に、各地の司令部には万歳の声が響き渡り、次々に伝達された報告で末端の兵まで戦意は果てしなく高揚した。


「なんだ、大東砂海最大の要衝なんていっても、わが砂海軍にかかれば赤子の手を捻るようなものじゃないか」

「飛行場から飛び立った敵機は、零戦が一機残らず叩き落したそうだ。

 あの機体に勝てるものなど、この世にはないだろう。

 南方資源地帯の制圧も、あっという間だろう」

「砂海軍の次の目標はオリザニア本土か?

 俺たちはこのまま反対回りにドラゴリーまで攻め込んで、アレマニアやウィトルスと合流できるんじゃないか。

 そうなれば世界制覇だな」

 ナンクゥ機動部隊の苦労などどこ吹く風といったように、各級指揮官や末端の兵が口々に楽観的なことを言い合う。

 もちろん、開戦に当って極秘行動を取っていたことの苦労は並大抵のことではなかったが、ナンクゥ機動部隊の成功がそれぞれの成功を約束しているかのように見えていた。



「零戦の攻撃力は、世界最強だな。

 まもなく連合艦隊に編入される『アンギラス』と『ギエロン』、そして零戦があれば世界制覇も夢じゃない」

「まったくだ。

 『アンギラス』と『ギエロン』は、オリザニアやサピエント、いや世界中の砂海軍のどこも持っていない、四六センチ主砲戦艦だからな。

 敵戦艦の射程外から、一方的に痛打できるんだ。

 零戦の性能も、世界一だ。

 敵の手の届かないところから、自在に攻撃ができる。

 オリザニアもサピエントも、恐るるに足らず」

 連合艦隊司令部でも、ゴトムの思惑を他所に怪気炎が上げられていた。

 メディエータ戦線でも証明された零型艦上戦闘機は、ハトー奇襲でもめざましい戦果を挙げている。

 そして、まもなく戦線に加わることになる世界最大の排砂量と主砲を持つ『アンギラス』型戦艦の一番艦『アンギラス』は、慣熟訓練を終えて西工廠沖にその巨体を休めていた。

 南工廠で建造中の二番艦『ギエロン』も、翌年夏の戦力化を目指して急ピッチで儀装の仕上げが進められていた。


 司令長官公室でドア越しに聞こえてくる参謀や将兵の甘い見通しに、連合艦隊司令長官ゴトム大将は哀しい気持ちに締め付けられていた。

 この一撃に始まり、次々とオリザニア、サピエントの砂海兵力を撃破し、一時的にでも大東砂海からオリザニア、サピエント艦隊を駆逐する。その結果を以って、オリザニアの戦意を地獄の底に着くほど喪失に追い込み、国内世論を厭戦に傾かせた上で講和に持ち込まなければ、いずれ巨大なオリザニアの工業力にソルなど簡単に飲み込まれてしまう。

 そのためのハトー奇襲であり、それまでを持ちこたえるための南方資源地帯制圧だ。


 ゴトムは、正式な最後通告の前にハトー奇襲が開始されていないか、それだけが心配だった。

 もし、文書の手交より前にハトーを奇襲するようなことがあれば、正義と公平を国是とするオリザニア国民の怒りが爆発する。そうなってしまえば、オリザニアはソルを焦土と化すまでその戦いの手を緩めることはないだろう。

 楽観的に参謀たちを他所に、ゴトムの心が晴れることはなかった。



「長官、ナンクゥに第二次攻撃のご命令を。

 傍受した魔通によれば、まだ敵空母も港湾施設のほとんども、魔鉱石タンクも手付かずの様子。

 これを打ち漏らしては、ハトー奇襲の意味がありません!」

 先任参謀がゴトムに向かって口を開いた。

 ナンクゥ機動部隊の撤収を援護するため砂海上を疾走する旗艦『アーストロン』の作戦室で、この後どうすべきかの作戦会議が開かれていた。

 日没後の砂海を渡る風は、日中とは打って変わって冷え込んでいるが、作戦室の熱気を僅かも冷やすことはなかった。


「機動部隊は、既にハトーからだいぶ離れている。

 一杯一杯のところで作戦を終えて離脱しようとしている者を、もう一度立ち上がらせるにはこれを起こらせるより他はない。

 統帥の根源は人格だ。

 そんな非人間的な命令は、金輪際できるものではない」

 参謀長が強固に反対する。

 己が才能を信じるあまり、他を見下す癖のある倣岸不遜な態度を隠そうともしない。

 もっとも、司令長官の寵愛を一身に受ける先任参謀に対する嫉妬が含まれていることは、そこにいる誰もが知っていることだった。


「我々は武人です!

 この戦機を逸するなど、できようはずもありません!」

「この次は無謀な強襲だ。

 戦機とは、そういうものではない」

「強襲となろうが、ここはもう一度突っ込むべきです!」

「敵飛行機の損害程度が不明だ。

 そんなところに突っ込ませて、万が一にも無傷だった空母を沈められたら取り返しがつかん」

「しかし、参謀長、オリザニア大東砂海艦隊が行動不能に陥ったかどうか、今後の作戦上の不安を取り除くためにも再攻撃を加えるべきです」

「空母が残ってるんだぞ、空母が!」

「その空母を撃滅するためにも!」

 堂々巡りになりつつある参謀たちと参謀長の論争を、ゴトムは目を閉じたまま無言で聞いている。


「やはり、再攻撃は見送るより他はないと思いますが」

 参謀長が最後の決を求めるようにゴトムに声をかける。


「もちろん、再撃に次ぐ再撃をやれば満点だ。

 自分もそれを希望するが、機動部隊の被害状況が少しも判らんから、ここは現場の機動部隊長官の判断に任せておこう。

 それに、今となっては、もう遅すぎる」

 不満気な表情で、ゴトムは論争に終止符を打った。

 そして、誰にも聞こえないような小さな声で呟く。


「そんなことを言わなくとも、やれる者にはやれる。

 遠くからどんなに突っついても、やれぬ者にはやれぬ」

 この呟きを、航空参謀は聞き逃さなかった。




 既に北方に退避を始めた機動部隊旗空母『コッヴ』では、九時間近く前に下達されたナンクゥの命令を消化しきれないし要平の不満が渦巻いている。

 ソル時間で午前九時、ハトー時間では午後二時半頃、第三次攻撃があるとばかり思い込んでいたミッツ中佐は、搭乗員待機所に用意された牡丹餅をほお張ったところで、艦内に響く高声放送に魂を抜かれるような衝撃を受けていた。


『戦闘機を残し、他の飛行機を格納庫に収容せよ』

 同時に艦が北を向く。


「冗談じゃない!

 まだ飛行場も、魔鉱石タンクも、空母も討っていない!」

 ミッツの悲痛な声が、搭乗員待機所を満たした。



「通信士、『コッヴ』に信号。

『我第三次攻撃準備完了』」

 第二航空戦隊司令官オーキキ少将は一斉回頭の命令が出されても尚、ハトーへの第三撃を諦め切れなかった。

 いや、本心ではもう攻撃命令が出ないであろうことは理解している。

 だが、ここで討ち漏らした敵が明日は味方の命を奪うという直感が、しつこいまでの意見具申に走らせていた。


「司令官、もう一度、もっと強く、意見具申するべきです」

 『信号了解』の発光信号の後、沈黙を保ち続ける『コッヴ』を忌々しそうに睨みつけた二航戦航空参謀がオーキキに向かって言った。


「いや、ナンクゥさんは、やらないよ」

 だが、この沈黙の間に自身の感情を整理したオーキキは、誰にともなく呟いた。




「お父さん、ついに始まってしまったんですね。

 あの子が……

 あの子が、とうとう……

 あの子まで、人を……!」

 臨時ニュースに顔を蒼白にしたエルミの母が、興奮で上気した面持ちの夫に言った。

 もちろん、この時点でエルミがどこの配属で、どのような作戦に従事しているか、夫婦は知らされていない。

 第二航空戦隊に配属されたまでは知っているが、開戦に当って編制換えがあったかもしれなかった。ここしばらくの間に届いたエルミからの手紙には、過酷な訓練の様子こそ書かれていたが、どこにいてどこに行くのかという軍機に関わる情報は当然ながら記されていなかった。

 訓練に明け暮れる毎日でも、僅かな油断が他人を巻き込んでの死亡事故に繋がっている。しかし、それでも殺意を持って他者を滅するということは、決してない。あくまでも訓練は訓練であり、人を殺す技量を磨くことではあっても、人を殺しているわけではない。


 だが、開戦となれば話は別だ。

 今現在、仮に後方に配属であっても、いずれは前線に出るときが来ることは火を見るより明らかだ。

 戦士を後方で遊ばせておくほど、軍という組織は甘いものではない。

 エルミの母は、娘の活躍を望むと同時に、激戦区への配属は避けて欲しいと心の中で思っている。娘が死の危険と隣りあわせでいることに耐えられないと同時に、戦争であっても娘にまで人殺しの罪を背負わせたくないのだった。


「あ、ああ。

 だけどな、エルミも皇国民だ。

 一朝事あれば銃を取ることに躊躇いは許されんのだ。

 もちろん、我々も。

 もっとも、俺やお前が銃を取らなきゃならんとなったら、皇国はおしまいだがな」

 娘の死や、娘が人を殺めるのを望まないことは父も同様だが、この時代に生きる者としては至極当然の考え方だ。

 あからさまに妻を叱り付けるようなことはしないが、それでも娘の軍務を忌避するような物言いは慎まなければ、どこで誰が聞いているか判ったものではない。下手に特高の耳にでも入れば、娘の栄達はもちろん、自身の命まで危うくなる。

 妻にそのような危ない橋を渡らせたくない一心で、父は宥めるように言葉を紡いでいた。



「レグルはどうしてますかねぇ、お父さん。

 お国のためにお役に立てたんでしょうか」

 レグルの母は、最も心配な部分を隠し、夫に訊ねた。

 もちろん、夫が正確な答えを用意できるとは思っていない。


「そうだな、開戦前からどこにいるのか、どこへ行くのか、何も知らせてこなかったからな。

 作戦が漏れないようにとのことだろう。

 どんな些細なことであっても、どの艦がどこへ行くという情報が出てしまえば、それから大きな動きが知れてしまうかも知れないからな」

 たとえ、レグルの乗艦が『ドラコ』から掃砂海艇のような小艦艇に移り、その配属が公になれば、その行動から作戦全体が見透かされてしまうかもしれない。掃砂海艇一艘の情報だけで全てが発覚するとは思えないが、いくつもの情報を取りまとめ、取捨選択していけば、ソル砂海軍全体の動向は自ずと見えてきてしまう。

 重要な作戦に従事していようとしていまいと、将兵たちの手紙から所在地や作戦の影が見え隠れする文言は、すべて削られていると見て間違いない。



「とにかく、私はあの子が無事に帰ってくれば、それだけでいい。

 戦功なんか挙げなくてもいいんです。

 ただ、ただ、無事でいてくれれば、それで」

 レグルの父から見たそのときの妻の顔は、まぎれもなく幼子の行く末を案じる母の顔だった。

 日の出と共に行われる宮城遥拝の前に身支度が済むように、妻が水垢離をしてくることを夫は知っていた。ただでさえ貴重な水を飲食や洗濯、日常の洗い物意外に使うことは決して褒められたことではない。

 だが、砂漠が周囲を囲むこの世界では、夜の冷え込みは大岩盤とは比べ物にならないほど厳しいときがある。そのような冷気の中で氷のように冷たい水を浴びる母を、村の誰もが責めることはなかった。

 明け方、かすかに聞こえる水音を、村の誰もが聞こえない振りをしていた。



「お姉ちゃん、大丈夫?」

 朝の臨時ニュースの衝撃に、つい包丁で指を深く切ってしまったチェルの指を見つめて、アレイが聞いた。

 最近ではすっかり調理場に立つ姿が板についたアレイは、自分よりベテランのチェルが包丁で怪我をするなどここ久しく見た記憶がなかった。


「チェル、心配は解かる。

 今日は、多分夜が忙しくなるだろう。

 それまでは大丈夫だから、しばらく横になってこい」

 父はこれ以上チェルに怪我をさせまいと、しばらくの休憩を強引に命じた。

 昼時を前に食堂は賑わいを見せていたが、アレイが充分な戦力となった今、チェルがひと時の休憩を取ったとしても何とかなる。


「ありがとう、アレイ、お父さん。

 ごめんなさい、まだ、いえ、ずっと胸が苦しくて。

 ちょっと横にならせてもらうわ」

 チェルは自分自身がコントロールできなくなっていることを自覚していた。

 許婚の仕事は理解しているつもりだったが、いざ死を賭した戦場に赴くことが現実とわかった今、とても冷静ではいられない。

 臨時ニュースでは赫々たる戦果が流れたが、ソル軍の被害は一切報じられていない。

 戦争になれば相手がいることでもあり、こちらの被害がゼロというわけにはいかないことくらい、チェルも理解している。

 いつレグルが死の河を渡るのか、運と偶然がすべてを決する戦場に保証などない。

 チェルは、臨時ニュースを聞いて以来、レグルのことしか考えられなくなっていた。


「チェル、おいで」

 襖の向こうから母の声が響く。

 か細く、弱々しい声だが、チェルの心を暖かく包んでくれる声だ。


「お母さん……」

 布団の上に正座したに母の前で、チェルが崩れ落ちる。

 母は、無言で膝を叩き、小さく頷いた。

 チェルは、そのまま母の膝に顔を埋め、声を出さずに泣き始めた。




 一二月八日の午後になると、ハトーやネグリットの戦果、南方資源地帯のティスチ植民地やゴール植民地の制圧といった情報が溢れ始めていた。

 日も沈んだ午後七時半、街頭に設置された魔道放送機の前には、黒山の人だかりができていた。

 やがて、情報局次長の声がスピーカーから流れ出す。


「我等は戦って、戦って、戦い抜くのであります!

 勝って、勝って、勝ち進むのであります!

 錦の御旗は、南に、東に、北に、西に躍進して、西部大東砂海の歴史を創るのであります!

 西部大東砂海をドラゴリー人やバキシム人の手から、西部大東砂海の人々の手に奪い返すのであります!

 西部大東砂海人の、西部大東砂海を作り上げるのであります!」

 絶叫調の放送を、互いに誰とも知れぬ人々が聞いている。

 誰もが微動だにせず、ひと言も聞き漏らすまいとして、言葉を発することなく聞いている。


「ソル皇国民にとって、これ以上の生き甲斐は絶対無いのであります!

 宣戦の詔勅を奉戴した我等皇国民の決心は、『今日よりは 顧みなくて大君(おおきみ)の (しこ)御楯(みたて)と 立つ我は』と同じ心なのであります!」

 遥かな昔、防人と呼ばれた戦士が詠んだ歌を引き合いにして、情報局次長のアジテーションは続けられた。

 歓声とも咆哮ともつかぬ声が、人々の間に奔り始める。

 放送が始められたときの静寂は、もうない。朝の臨時ニュースから続いていた熱狂が、再び渦巻き始めていた。


「我に世界無敵の騎兵軍あり!

 我に世界無敵の砂海軍あり!

 サピエント、オリザニア、何ぞ惧るるに(おそるるに)足らんや!

 常に御稜威(みいつ)のもとにあるのであります!」

 既に絶叫と化したアナウンスが終了する。


「皇王陛下、万歳!」

 聴衆の中の一人が絶叫した。

 それに和する集団があちこちに派生し、群集の絶叫が悲壮感をまとわりつかせて広がっていった。



「いやぁ、予想以上だったね、首相。

 これでローザファシスカ大統領は失脚だな」

 砂海軍大臣が銚子を取り上げた。

 

 首相官邸には、ジョウエイ首相の他に砂海軍大臣、砂海騎兵両軍省幹部が集まっていた。

 戦況が明らかになるにつれ、重苦しかった空気が和らぎ、今では勝利の祝宴が始まっていた。

 普段は犬猿の中といってもおかしくない両軍の幹部が、この日ばかりは互いの肩を抱き合っている。威厳に溢れた振る舞いを取るように気遣っているジョウエイすら、普段とはまったく違う顔を見せていた。


「メルイィもな」

 思い出したように砂海軍大臣は続ける。

 砂海軍大臣は、既に過去の人と敵将を認識していた。


「まずは、めでたい。

 戦況は早速陛下に申し上げてこよう」

 上機嫌でジョウエイが答える。


「おい、アレマニアとウィトルスにも伝えておけ」

 秘書官にジョウエイは大声で命じ、酔いが回る前に報告をと言って部屋を出て行った。




 連合艦隊旗艦戦艦『アーストロン』は、夜の闇を切り裂いて砂海上を走っている。

 もっとも、機動部隊を護衛すると言う名目での出航ではあるが、主力部隊が西工廠泊地に居座ったままでいては格好がつかないと言う理由の方が大きかった。

 大勝利の後でもあり、それほど緊急性のある航海でもない。

 巡航速度より一段階遅い速力で進む艦上には、緩い空気が漂っていた。艦の航進が巻き起こす向かい風も、そよ風のように感じられる程度だった。

 燃料消費の問題から、緊急の作戦であっても常時全力航行をするわけでもないのだが。


 魔道放送を通じて湧き上がらされた国内の喧騒をよそに、司令部の空気は冷静そのものだった。

 ゴトムの表情など、まるで朝の大勝利を忘れてしまったかのようにも見える。

 ナンクゥ機動部隊は一度だけ戦果報告を行っただけで、また魔通封鎖を実施している。その後の情報はまったく入ってこないが、早朝から敵が発した平文の魔通を傍受するだけで充分に状況把握はできていた。

 こちらに艦艇に一隻の喪失がないことも、おそらくは間違いない。万が一にも喪失艦があれば、緊急魔通が発せられるはずだ。攻撃を受けているということは位置が暴露しているということであり、魔通封鎖などまったく意味を成さないからだ。

 一方的に敵を叩き、航空機の被撃墜があったとはいえ、艦艇の喪失がただの一隻もないなど世界史にも例のない大勝利だ。まさに字義通り、完勝といっていい。

 だが、作戦室に詰める参謀たちの顔は冷静で、まだ作戦が行われてもいないのではないかといった雰囲気だった。


「さあ、これからどうするか。

 考えておけ」

 夕食後、ゴトムは参謀たちにそう言って公室に消えていた。


 参謀たちはゴトムの言葉に従い、これからのことに思いを巡らせている。

 信じられないことだが、思いもしなかった大勝利の後の作戦構想など、誰ひとりとして考えていなかったのだった。




 メルイィの親友でもあるオリザニア砂海軍航海局長ミニッツ少将は、深夜になってようやく遅い夕食を摂っていた。

 予期しなかった開戦と、未だに信じたくない敗戦により、航海局は混乱の巷と化していた。その長であるミニッツに、ゆっくりと食事を摂る余裕など、あるはずがなかった。

 

 妻が事務所に届けたポットは二本あり、湯気を立てるコーヒーとスープがそれぞれに満たされている。

 籐で編まれたバケットの中からも、ハンバーガーが湯気を立ち上らせ、殺伐とした事務所に食欲を掻き立てる肉の香りを撒き散らしていた。

 簡単だが、仕事を中断せずに食べられるメニューに、妻の心遣いが感じられ、ミニッツは心を奮い立たせることができた。


 昼に届けられたハトー奇襲の緊急信以来続く航海局の混乱は、ようやく一段落したかのように見える。

 だが、この先やらなければならない仕事は、食事の合間に思いつくだけでも気が遠くなるほどだ。

 戦時体制に移行した砂海軍の兵員の遣り繰りはもちろんだが、ハトーの惨状はその計画を完全に吹っ飛ばしている。 撃沈破された艦艇の引き上げや修理の手配。

 その間、穴の開いたハトー哨戒網を埋めるための艦艇の再配置。

 戦死傷した将兵の補充。

 それに伴い不足することが確実な他戦線への兵の補充。

 ハトーで戦死した将兵の遺族への通知。

 遺体の本国への移送。

 そして、乗艦の被害で身の回りの品をすべて失ったであろう将兵の面倒までが、航海局に降りかかってきている。

 あらゆる部局との折衝の合間に、一般市民や退役軍人からの激励や砂海軍入隊希望の魔道通信も、ありがたいことではあるが混乱に拍車をかけていた。



 オリザニア全土が怒りに包まれていた。

 騙し討ち。

 ソルは平和を望む振りをして握手の手を差し出していたが、背後に隠した手には剣を握っていたのだ。

 ソルの差し出した手を握り締めたオリザニアは、致命傷とはならなかったが、その胸に大きな傷を負った。


 オリザニア首都にあるソル大使館には、この時間になっても群衆が押し寄せ、口々に罵りの叫びを叩き付けている。

 そればかりでなく、大使館の魔道通話機も鳴りっ放しであり、そのすべてが罵声で占められていた。

 ソルの新聞各社の特派員たちは、この状況を取材しようにもできる状況ではない。

 ハトー奇襲さるの報道以来、道ですれ違う人々の視線がきつくなり、知己であっても朝までの親しげな視線を向ける者は皆無だった。下手に出歩けばリンチにでもかけられるのではないかという恐怖が、オリザニア在住ソル皇国民の心を掴み占めている。


 オリザニアを講演で回っていた女性がある都市に到着したのは、現地時間の午後四時過ぎで、ハトー奇襲の報道がなされてからしばらくしてのことだった。

 浮遊車の駅には多くの人々が詰めかけ、その女性の到着を待っていたが、明らかに歓迎の群衆ではなかった。

 怒声のシュプレヒコールが鳴り響く中、駅の片隅で縮こまっていた主催者は、女性の警護のため軍の出動を要請している。いくら敵国人だとしても、無防備な女性を殺害したなど報道されては、オリザニアの威信に関わる自体だ。

 敵国人保護に乗り気ではない軍も、国の名誉のためと言われて渋々駅を取り巻く群衆の排除を開始した。

 もちろん、拡声器を用いて群集に冷静さを保つことを呼びかけ、女性に危害を加えるなど国の名誉に泥を塗る行為だと繰り返し、女性の保護を宣言するに留まったが。

 その後、軍の施設に女性は保護されたが、それを取り巻く群集は夜になってもシュプレヒコールを続けていた。




「通信参謀、オリザニアの魔道放送は何と言っているかね?」

 深夜、公室に呼び出した通信参謀に、ゴトムは気がかりな点を訊ねた。

 作戦の立案時から、外務省にはうるさいほど言い続けていた注文が実行されていたかどうか、ゴトムはそれが最も気がかりだった。

 奇襲直前の最後通告。

 もし、万が一にも、この手順が狂ってしまえば、ハトー奇襲の作戦構想が崩壊する。

 騙し討ちを許容するほど、オリザニア国民は軟弱の徒ではない。

 正々堂々たる振る舞いと、公平と正義を謳う国民をして戦意を疎漏させるには、ハトー奇襲前の最後通告は必須だった。


「当初は、ハトーについてのほとんど報道はなかったのですが、本日の昼ごろから増えております。

 どの報道も、我々が発表した戦果よりかなり低めの被害と報告されておりますので、相当真実は隠されているかと。

 それと、『騙し討ち』という言葉が、ほとんどの報道で確認されました」

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