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革職人のおじさん転生したらドワーフだったので最高の武具を作ります。  作者: 爆裂超新星ドリル


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第37話「追放と独立、炎斧が守る契約」

ゾルグの伝説級の炎の鎧の納品は、万族工房に莫大な富と、そしてドワーフ職人ギルドとの間に、修復不可能な断絶をもたらした。

翌朝、コウジが工房の戸を開けると、工房の前の広場はただならぬ緊迫感に包まれていた。ドワーフ職人ギルドの副長グランが、数名の厳めしい老職人を引き連れ、巻物状の公文書を手に仁王立ちしていた。周囲には、異様な騒ぎに集まった住民や冒険者たちが、固唾を飲んで成り行きを見守っている。

「コウジ!貴様らに最後の通告をする!」グランは声高に叫び、その声は広場に響き渡った。「貴様らは、ドワーフの伝統と職人の倫理に反する異端な技術を継続して使用し、さらに、我らがギルドの権威を脅かす犯罪者と結託した!」

コウジは一歩前へ出た。工房の扉の前には、弟子たちが並び、師を支えるようにその背中を見つめている。

「犯罪者とは、炎斧のゾルグのことでしょうか。彼は正当な依頼人であり、我々は正当な契約を交わし、その依頼を達成したまでです」コウジの声は、グランの怒鳴り声とは対照的に、冷静だった。

「黙れ!ゾルグは元々、過激な傭兵団の頭領であり、その炎の魔力は破壊行為に使われてきた!貴様は、その破壊行為を助長する鎧を製作したのだ!」グランは巻物を広げ、コウジに突きつけた。「これを見よ!職人ギルド評議会の決定だ!貴様、小路コウジとその工房『万族工房』は、本日をもってドワーフ職人ギルドから永久追放とする!」

周囲からは、どよめきと囁きが起こった。ドワーフ職人にとって、ギルドからの追放は、素材供給網、顧客、そして社会的な信用の全てを失う、事実上の社会的な死を意味する。

コウジは巻物を一瞥し、その追放の決定に対し、静かに、しかし毅然と頷いた。「承知いたしました。貴方たちの秩序と伝統は理解しています。ですが、我々が追及する技術と職人としての道は、貴方たちの古い枠組みには収まりません」

グランは勝ち誇ったように鼻を鳴らした。「貴様らが偉そうな口を叩くのも今日で終わりだ!ギルドの看板がなければ、貴様らの工房は素材一つ満足に手に入れられず、すぐに立ち行かなくなるだろう!貴様らは、ドワーフ社会から孤立し、飢え死にするのだ!」

その瞬間、空から鋭い鳴き声が響いた。バサッ、バサッと巨大な翼の音と共に、風翼商会のガルーダたちが工房の前に舞い降りてきた。彼らの強風が、グランの巻物を揺らす。先頭に立つのは、彼らの飛行隊のリーダーだ。

「グラン副長、その話、聞かせてもらおうか」ガルーダは威厳のある声で言った。

グランはギルドの権威を異種族に侮られたことに激しく憤慨した。「貴様ら飛行種族に、我々ドワーフ職人ギルドの裁定に口を出す権利はない!」

「口を出す権利はあるさ」ガルーダは不敵に笑った。「我々風翼商会は、今日からこの『万族工房』の素材供給総代理店となる。キメラ革、氷熊の毛皮、サラマンダー革、そしてクリスタル・ドレイクの鱗。あらゆる伝説級の魔獣素材を、彼らに独占的に供給する契約を交わした」

グランは目を丸くした。「な、何だと!?」その老いた顔に、恐怖と驚愕の色が浮かんだ。

ガルーダは続けた。「さらに、彼らがギルドから追放されたことで生じた空白は、我々が埋める。我々は、王都の貴族や、大陸中の異種族の冒険者ギルドとの間に、万族工房の装備を独占販売する代理店契約を締結した。ドワーフギルドの供給網や顧客など、もはや必要ない」

グランの予想は、風翼商会という巨大な商会の介入により、完全に裏切られた。追放によるコウジの窮地は、逆にドワーフギルドの支配外へと一気に飛び出す起爆剤へと変わったのだ。

「貴様ら、謀ったな!」グランは怒りに震えた。

「謀ったのではない。これは、合理的判断だ」ガルーダは冷たく言った。「貴方たちの古い伝統と、コウジ師匠の新しい技術、どちらが世界を前に進めるか、商会は判断したまでだ。これ以上、我々のパートナーであるコウジ師匠の営業を妨害するなら、風翼商会が全ルートで貴方たちの商材の運搬を拒否する。理解できるな?」

風翼商会は大陸の物流を担っており、彼らとの取引停止は、ドワーフギルドの経済活動に致命的な打撃を与える。グランは憎悪と屈辱に顔を歪めたが、もはや手出しできないことを悟り、何も言わずにその場を去るしかなかった。

コウジは深々とガルーダに頭を下げた。「ありがとうございます、ガルーダ。貴方方の支援がなければ、我々は立ち行かなくなるところでした」

「礼には及ばないさ、師匠」ガルーダは笑った。「ゾルグからの契約料の件もある。それに、我々も世界最高の装備を独占できるのだから、合理的判断だよ。さあ、師匠。ドワーフギルドの目など気にせず、クリスタル・ドレイクの鱗の採掘と加工に取り掛かってくれ。全大陸が、師匠の次の作品を待っている!」

ドワーフギルドからの追放という危機は、皮肉にも万族工房を旧態依然とした枠組みから解放し、真の「万族」のための職人集団へと飛躍させる起爆剤となった。コウジは工房の中へ戻り、弟子たち全員を集めた。



コウジは、静かに弟子たちの顔を見回した。ドワーフギルドからの追放は、表面的な問題だけでなく、彼らの心にも深く影響を与えているはずだった。特に、ドワーフであるボルドには、その影響が最も大きいだろう。

「みんな、聞いたな。俺たちはドワーフギルドから追放された。だが、それは同時に、俺たちが真に自由な職人となったことを意味する」

シルフィが涙を拭いながら言った。「師匠……これで、もう誰にも文句を言われずに、技術を探求できますね」彼女の言葉には安堵が滲んでいた。

しかし、ボルドは沈痛な面持ちで口を開いた。「師匠、私は……ギルドの決定は、不当だと今も思っています。ですが、ドワーフ社会から追放されるということは、故郷を捨てるにも等しい。私の両親も、ドワーフの伝統を重んじる者たちです……」

ボルドの言葉に、ギギも不安げに顔を俯かせた。ゴブリン族の彼にとって、ドワーフ社会の軋轢は理解できない領域だ。

ケンタがボルドの肩に手を置いた。「ボルド先輩。俺も、故郷を失った転生者です。ですが、俺たちの故郷は、もはやあのギルドの建物の中にあるのではありません。俺たちの故郷は、この工房です。師匠がいて、みんながいる、この場所が、俺たちの誇りです」

コウジは静かに頷き、ボルドを見た。「ボルド、お前の葛藤は理解している。もし、お前が故郷と伝統を選ぶというなら、俺は何も言わない。だが、一つだけ覚えておいてほしい」

コウジは、熱音響変換機構を組み込んだ炉を見た。「あの熱音響変換機構を生み出したのは、お前とケンタの知恵と、お前の鍛冶の魂だ。その技術は、ドワーフの伝統を超えて、新しい時代を築くものだと俺は信じている」

ボルドは目を閉じ、深く息を吸った。そして、再び目を開いたとき、彼の顔には迷いはなかった。

「師匠……私は、この工房に残ります。私の鍛冶の魂は、ドワーフの伝統ではなく、師匠と、この工房の技術の先にあります」ボルドは力強く宣言した。「ドワーフギルドは、私の親族を蔑むかもしれませんが、私は私の信じる道を行きます」

コウジは満足そうに笑った。「ありがとう、ボルド。お前は、真の職人だ」

ピピが翼を震わせながら、コウジに問うた。「師匠、炎斧のゾルグとの契約で、工房は本当に安全なのですか?ギルドは、ゾルグが怖いから手を出さないのですか?」

「ああ、ゾルグとの契約は、俺たちの独立を保証するものだ」コウジはゾルグから受け取った契約書を取り出した。そこには、ゾルグの血と炎の魔力で刻まれた微細な文様が描かれていた。

「この契約には、ゾルグが炎の鎧を身に着けている限り、彼が『万族工房』の永久的な守護者となることが明記されている。ドワーフギルドが不当な圧力をかけたり、工房に物理的な危害を加えようとしたりすれば、ゾルグが炎斧を持ってギルド本部を焼き払うことになる」

コウジは付け加えた。「これは、ゾルグの炎の魔力と、俺の作った炎の鎧の魔力回路がリンクしている。ゾルグがこの契約を破棄すれば、鎧の熱制御機能が暴走し、彼自身が炎に包まれる」

弟子たちはその強烈な契約の仕組みに息を飲んだ。それは、互いの命運と技術を賭けた、伝説級の契約だった。



「これで、俺たちの工房は、ドワーフギルドの支配から完全に独立した。これからは、万族のニーズと職人の探求心だけが、俺たちの羅針盤だ」コウジは宣言した。

「よし、やるぞ!まずはクリスタル・ドレイクの鱗の採掘だ。最高の素材は、最高の環境で手に入れなければならない」

コウジは、ドレイク討伐隊への参加準備に取り掛かった。討伐は、音波加工の理論を実地で証明するだけでなく、工房を新たな高みへと導く伝説級の素材を獲得するための、重要な試練となる。風翼商会を通じて、討伐隊はすでに編成されていた。

コウジは、討伐の地である北方の「硬質山脈」へと向かうメンバーを選定した。

コウジ(師匠、統括・解析): 現場での素材解析と戦術立案。

ケンタ(工学・計算): 音波共鳴装置の調整と、現場での硬度計測、熱力学的計算。

ボルド(鍛冶・機構): 音波共鳴装置の運搬と、熱音響変換機構の現場での運用・調整。

ピピ(音波・斥候): 共鳴の歌の発声と、高い機動力を活かした斥候。

リリア(魔力・鎮魂): 歌の波長調整と、討伐後の素材の安定化。

「シルフィ、ギギ、テイルは工房に残れ。工房の運営と、ゾルグの契約に関する窓口、そして万一の事態に備えてくれ」

「師匠、お気をつけて!」シルフィが強く言った。

「テイル、お前は工房と、王都との連絡役だ。何かあれば、すぐに飛脚を出せ」

ケンタは、クリスタル・ドレイクの鱗の硬度を打ち破るための、改良された音波共鳴装置の最終調整を行った。ボルドは、その装置の運搬と設置に必要な台座を、軽量だが頑丈な特殊合金で製作した。

「師匠、この討伐は、我々の技術がドワーフギルドの伝統を超越したことを証明する、最高の機会となります」ケンタが熱く語った。

「ああ。これは職人としての意地だ」コウジは頷き、硬質山脈へと続く地図を広げた。

「行くぞ。ダイヤモンドの壁を砕き、伝説の素材を手に入れる」

コウジの胸には、ドワーフとしての誇りを失うことなく、世界に通用する職人としての新たな誇りと、自由への確信が満ち溢れていた。この旅が、万族工房の物語を、さらなる深淵へと導くことになる。


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