第31話「キメラの皮を加工」
「どうも、コウジさんいらっしゃいますか~?」
冒険者ギルド千の山のメンバー5人が万族工房へやってきた。
先日のキメラの一件では、この千の山のメンバー両手剣の戦士シン、大盾持ちのタンクガイ、狩人の兄妹のタツミとサト、それに魔術師のミイナ。そして合同合宿で一緒だった職人仲間のドリノやバリアント。誰一人欠けていたら生還できなかっただろう。
コウジは作業場から顔を出した。
「どうもどうも、先日は本当にありがとうございました。今日はどうしてここへ?」
戦士のシンは赤毛の髪がツンツンに立っていた。
「ええとな、今日は先日討伐したキメラの素材で何か作れないかと思ってな、無論報酬は払うし、あんたが居なかったら俺らも危なかったかもしれないからな、素材は山分けということで構わない」
コウジは滅相もないという表情で話しだした。
「いえいえ、討伐したのはあなたたちなので、素材はいただけません。ご要望があればキメラを使って装備を作ることは可能です!任せてください!」
コウジは加えて付け加えた。
「キメラは闇の魔術師が錬成したようなこと言ってたような・・・だから加工が普通のモンスターのように行えるかは不明なので、もし大丈夫ならご要望のものを作っときます」
千の山のみんなはお互いに目配せした。
狩人のタツミは矢筒が欲しいというとよサトも同じように矢筒を注文した。
魔術師のミイナは特段欲しいものはなかったようだが、キメラの爪や皮膚やなどが余れば、頂戴といった。おそらく魔法や錬金術など使い道があるのだろうとコウジは思った。
タンクのガイは大盾を背負えるようにしたいらしい。
戦士のシンは装備を一新したいと言ったが革を独り占めする気かと、あれこれ言われしょぼくれた様に腕付近の装備を取り換えるようだ。
細かな要望はなく、要望と言えば索敵されにくい地味な色味で作ってほしいということのみ。あとはお任せだという。職人柄お任せが一番悩むのだが、お任せと言われたからには多少自分好みのアクセントを入れてもいいのかと思うと気楽さもあった。
コウジは5人の注文を受注すると、出来上がったら連絡するというと冒険者ギルドの所在地を記した紙を貰った。どうやら手紙にて連絡してくれということだろう。コウジは前世の記憶がよみがえり、この世界にもスマホでもあれば気軽に連絡できるのにと異世界らしからぬ発想をしたのだが、手書きは嫌いじゃないのでこれはこれで満足していた。注文を終えると千の山のメンバーは工房を後にした。
「師匠、合宿の時のメンバーですよね、俺、最高に良いもの作ります」ギギが張りきっている。
「それは頼もしい、じゃあ、加工できる段階なったら呼ぶと思う」
コウジはまずキメラの皮の査定に入った。
【キメラ(虎|蛇)】
獰猛な性格。背を向け逃げるものを獲物と錯覚する。
尻尾には蛇の猛毒の牙。毒を爪に塗り攻撃することもある。
________
俊敏性UP 攻撃力UP スタミナ回復速度UP
コウジはキメラを鑑定する。
「やはり尻尾には毒があったか・・・。毒を爪に塗られて攻撃されなくて助かったってことか」
コウジは(;´д`)トホホという表情で先日のキメラ戦を思い返したら、足がすくんだ。
今度、強いモンスターに遭遇した時のために自分用の防具を作ってもいいかもしれないなと思っていた。
「さて、皮をなめしていこうか、皮が俊敏性や攻撃力が上がる装備になれば、一番嬉しいのはリーダーのシンと狩人の2人かな?フットワークの軽さは前衛には不可欠だろう」
コウジはキメラの皮をはぎだした。キメラを寝かせ、腹の真ん中に一直線に切れ込みを入れ。左右に開くように皮を剥がしていく。
思いのほか、スムーズに剝ぐことができて驚いていた。
「よし、皮は剥ぐことができたから、鞣しだな」
剥いだ皮をバケツに入れ、水で洗浄漬けする。数時間後、新しい水に石灰を含ませ。水漬けする。
これで、皮に付着した毛や肉がある程度はがれる。
次に、木の丸太に革を張った。垂れ下がった皮は想像よりも大きく思えた。
「思ったよりも大きいな・・・横幅3メートル、縦2,5メートルほどの大きな皮だ」
コウジはこの大きさの皮を見て、千の山メンバー分の皮があるかというとギリギリのように思えた。
大盾を背負うための、皮ベルトのようなものは大きく分量を使うだろうし、不規則に革を裁断する必要があるため、難しそうだ。
丸太で湾曲皮を、カーブのついた刃で余分な毛や肉をそぎ落としていく。
キレイな一枚皮になったら。再度水に漬け。弱酸性の成分と共に漬け込む。
弱酸性の物質は、スライムから採取できる液体を利用する。
この工程で皮に含まれる余分なたんぱく質が抜け、皮が柔らかくなる。
漬け終えたら、塩付けし、放置。このあと前世ではタンニンなめしやクロムなめしといった方法で革の強度を高めるのだけど、昔の方法をこの異世界で行う方法はまだ知らなかった。
ドワーフはほとんどが金属加工メインで、革を存分に扱い研究する奴はコウジくらいしか居なかったからである。
そこで、コウジは別の方法でタンニンなめしに似た強度を確保することにした。
前世では革の知識は本で吸収して個人でできるほどの敷地もなければ、労力もなかったが、ここは異世界だ。
「ちょっと工房出てくるから、店番頼む」
弟子たちに告げると、キメラの皮と頭部を持ち、一番近い林に向った。
キメラの様なモンスターに出くわすことはないだろうが、若干ビビりながら、なるべく太い木を拾い集めていく。こういう力仕事にはケンタウロスを呼ぶべきだったが、ドワーフのコウジもそれなりに力はあるのだ。
「グロいけど、正しい方法のはず・・・」
コウジは、キメラの脳みそを手ですくい取り、細かく粉砕しペースト状にする。それをキメラの皮に満遍なく塗る。もっと脳みそペーストが必要なはずだが、今はこれしかないので、節約しながら薄く塗りこむ。
集めた丸太などを、森から少し離れた砂場の上に置いた。革を丸太の上で大きく広げた。ムラがないようにしっかりと張り。落ち葉などで着火すると、丸太を燃やし、息を吹きながら弱火を保つように調整する。
黙々と燃え上がる煙が皮を覆った。木々の煙でいぶす方法は、太古の北米製住民が利用した方法だったと思う。コウジはうろ覚えでありながら、前世の知識を利用して皮を加工した。
いぶされた皮は、触った感じ明らかに強度が増したように思える。
眼で見ても濃い茶色に革が変色してるのが分かる。
水を垂らしてみると、表面が煙でコーティングされたように水を弾いていた。弾いた水滴は地面に滴り、革に防水性能が付与されたことが分かる。
「うむ、これで最高に良いものが作れそうだ」
コウジの職人魂に火が灯った。
なお、キメラのお肉は日が経っているため食すことはできなかった。
やはり、キメラの肉は冒険者にとっても異様なのかもしれない。




