第28話「バリアント視点」
タツミから渡された手鏡によってバリアントたち第二班はその魔道具によってコウジらに起きている大惨事を目にしていた。
そこには、虎の胴体に尻尾は蛇。神話に出てきそうなキメラがコウジらに襲い掛かろうとしていた。
タツミとコウジは皆を逃がすために精一杯のようだ。
その時、赤い煙の信号弾が天を舞った。「ピュゥゥゥゥ」
信号弾が使われる場面は想定外ということもあってか誰一人信号の意味を知る者はいない。ただ赤色だ。迅速な救援を要求するもののように思えた。
ギルド仲間へ助けを呼んだのだろうか?
タツミと同じメンバーのサトに話を伺う。
「千の山のメンバーはタツミさんとサトさん以外にもおられるのですか?」バリアントの質問にサトは素直に答えた。
「ええ、他に3人メンバーがいます。前衛の剣士とタンク。後方にマジックキャスターがいます。私たちは状況によって前衛や後衛も担う役割をしています。なので、万能な性能を要する護衛は私たちが優先的に参加することになってまして、他のメンバーは今は休暇を取ってると思います。酒で酔いつぶれてなければいいのですけど」
バリアントはそれなりの実力者だというサトの意見で森の中で襲われているコウジたちへ多少安心の気持ちは感じたが、やはり、相手はキメラということもあり、戦力がタツミくらいしか居ないのでは十分な力が発揮できないだろうと思った。
「信号弾の意味は?」
「あれは、救援信号です。酒に浸ってなければ、30分もあればこちらに到着するでしょうけど、もし酔ってでもいたら、一時間はかかるか、応援に来れないかもしれない」
サトの口調が敬語であったのが、徐々に砕けていった。彼女も焦っているのかもしれない。
「早くて30分か・・・遠いな」小さく呟いた。
「みんな、手持ちで武器になりそうなものはあるか?」バリアントがみんなに問うと、皆は手元を確認した。
サトは冒険者であるから、弓や直剣を所持してるし軽装備であるが革鎧も装着してる。
エルフのリリアは元々エルフということもあり代々親から弓の使い方は幼いころに習っていた。今回の合宿も自身の弓を持参していた。弓のサイズはサトと同じくらいの近距離から中距離型だ。
ケンタウロスのテイルはリリア同様弓の扱いには手慣れていたが、弓を持ってきていない。手元には革包丁や糸などの職人道具だけだ。
ハーピィのピピも同様に職人道具のみである。
バリアントは、戦うための武器が足りないことを悟ると、第一班の助けに向かうことは諦めた。
「よし、お前たち、これから回復薬を作るぞ」
バリアントは第一班が帰還したとき手当をできるように第二班を医療班として迎え撃つことにしたのだ。
「ピピ。上級から、戦いが起こっている規模と場所を調べて随時報告してくれ」
「リリアは薬草の知識があるか?」その問いに「あるわ、エルフは自然と暮らす生き物だもの、多少の薬草の知識があるわ」
「では、森には入らず、その辺の草原から薬草を見つけてきてくれ。傷に効くものと、毒消し草も必要だろう。おそらくキメラの尻尾には毒が付与されている」
「テイルは、リリア同様、薬草採取してくれ。薬草知識はリリアに聞いてくれ」
「サトさんは、すまないが、俺たちの護衛を頼みたい。ここで薬草を調合する。俺は片手のドワーフだから手伝ってもらうこともあるだろうし、あのキメラから逃げるために森から飛び出てくるモンスターも居るかもしれないので、警戒をしてくれ。では、みんな各自当たってくれ」
バリアントの指示で皆が一斉に動き出した。
バリアントは草が生い茂る地面に大きな布を引き。手持ちの材料を並べた。
薬草を砕くには革包丁もあるし、木槌もある。バリアントは回復薬の作り方の手順を思い出していた。
なにせ、本職が鍛冶師兼革職人なので、薬草に至る知識は多少見解を持ち合わしてるくらいであった。
「たしか、細かく砕きすり潰した薬草を煮詰めるはずだ」だが薬草を煮詰めるための窯がない。
「サト、大きくなくていいから窪みのある皿の様な石を探してくれないか?水に濡れてない石でお願い」
バリアントの指示で、モンスターに警戒をしつつ、薬草を煮詰めるための石を探しに行った。
水に濡れていると、火で炙っている時に石が膨張して破裂する。以前も同じようなことで削を負った経験があるから警戒していたのだ。
ついでに、着火しやすそうな木の枝や枯れ葉があれば持ってきてくれと付け加えておいた。
回復薬とは別に同じ効能の塗り薬も作ろうと思った。おそらく回復薬はせいぜい作れて2瓶だろう。
しかし、余った薬草で塗り薬なら幾分か作れるだろう。毒消し草は塗り薬として作ろう。
バリアントは意を決した。
リリアとテイルが戻ってきた。
その手には、薬草の束と数本の毒消し草が握られていた。
「ありがとう、さっそく調合に取り掛かる」
まずは、薬草に生えている目や花があればむしり取り、葉や茎を細かく裁断する。
丁度サトが窪みの石を運んできてくれた。それと枝葉も。
「手が空いたものは枝葉を並べてくれ。火を起こせるものは居るか?」
サトは詠唱をはじめた。
「我が指先に宿れ、原初の焔よ、小さき火種は、かの場所に灯火を、イグニスエッグ!」
サトの指先から小さな火の粉が舞い、枝葉に着火した。
初級の魔法を極限まで弱めたものだが、着火するには十分だ。
バリアントは薬草をすり潰し終えると、続いて毒消し草をすり潰しながらピピに問いかける。
「ピピ、敵の状況はどうだい?」
「木々がなぎ倒されて詳しい位置は分からないけど、私たちの方向より逸れて近づいてきてます」
「距離は?おおよそでいい」
「距離、1キロくらいだと思う」
バリアントは焦った。「思ったよりも近いな、だがこのまま道をそれてくれれば回復薬を作っている最中に乱入されることはあるまい」
粉塵のように細かい薬草を石の窯に入れ、手持ちの水を適度に足しながら煮込んでいくと、徐々に草の成分が解けて粘液が出てきた。次第に色味が透明から薄緑に変わり、とろみのついた回復薬が出来上がった。それを、予備で持参しておいたから瓶に流し込むと、予想よりも1つ多く回復薬が出来上がった。
回復薬合計3つだ。
回復薬が完成したと同時に、徐々に地響きが近づいてきた。と思うと、森からシルフィ ボルド ギギ ドリノが息を荒くして飛び出してきた。
「みなさん、逃げて。キメラが来ます」シルフィが荒い息で叫んだ。
みんな泥だらけで、血がにじんだ額をしていた。だが、深い傷ではないようでかすり傷のようだ。
後を追いかけるように、地響きが近づいてくる。
すると、コウジとタツミが死相を顔に出したような酷い表情で森から全速力で逃げてきた。
二人の足取りは壊れかけの人形のように不甲斐なく、いまにも地面に転がるかのようであった。力を振り絞って走る二人は、皆に向かって、逃げろという。
「おそらく街道に出れば馬車がある。そこまで走れ」コウジが指示を出す。
コウジの頭には馬車を見つけても、怖気ついた馬は逃げてしまうだろうと悟っていたが、そうするしか方法が思いつかなかった。
どうすればいいのか・・・。その瞬間。コウジは意識が飛んだ。




