第25話「故郷の高級ブランド発見。ル〇ヴィトン」
万族工房へ誰よりも早く出勤したケンタの顔は大スクープと言わんばかりの表情だった。
「師匠、大スクープです。」
他の従業員がまだ出勤していないことを確認すると、耳元で小声で話しかける。
「おれ、見たんです。ルイヴィトンですよ。」
コウジは驚いた表情でケンタを真ん丸の眼で見つめてた。
「まさか、あの?日本でも高級ブランドの代名詞の?」
二人は日本からの転生者だけあって、ヴィトンの特有のデザインが頭の中でイメージされた。
LとVのイニシャルが重なったシンボルと星や花のデザインが規則的に散りばめられている高級革の財布やバック。コウジとケンタは焦げ茶のレザーに黄金の装飾が頭をよぎった。
「どこで、それを見た?」
「えっと、町の方です。」
「町って王都か?じゃあ、風翼商会の近くとかか?」
コウジの瞳は職人魂が灯っていた。
もう一度、高級ブランドを目に焼き付けたいと思っていた。
「たぶん風翼商会近くですね、ガルーダ族がたくさん居ましたから」
「よし、いくぞ。ケンタも来るか?」
ケンタは行きますと気持ちよく答えるとコウジが従業員が出勤しても慌てないように、今日の作業票を書き留めて工房に置いてから出発した。
「この辺りなんですけどね」
ケンタが発見したという人物は居なかった。そう都合よく表れるはずはない。
「よし、聞き込みするか」
コウジの発案で聞き込み調査が始まった。
「あの、ルイヴィトンのバックを持った人見かけませんでした?」
コウジは近くでくつろいでるガルーダに話しかけるが。
しかし、異世界でルイヴィトンという名前で通じるか不安であった。
だが、それくらいしか伝えるヒントはなかった。
「ああ、見たよ。最近王都で大盛況のように人気の店だよ。だが、高くてね」
まさかルイヴィトンが通用するとは・・・。
「その店はどこにありますか?」
ガルーダは大きな羽の産毛を下げおろし、答える。
「そこの通路をまっすぐ行くと大きな噴水が見えるんだが、その近くで大きな看板が見印だぜ、しかしなぁ、品質は良いのだろうが、値段が高すぎて、あれはお貴族様向きだな。装飾も派手だし」
コウジとケンタは同じ転生者なのではないかと思い込んでいる。
とりあえず、店を伺うしかない。
店に訪れると、朝早い時間であるが、すでに開店してる。どうやらまだ営業時間外で準備中らしい。
店は入口正面は大きなガラス扉で、その縁を覆うように古びた木製の丸太で覆われたログハウスのような建物であった。見たところ相当古い建物で年季が入っている。付近の建築物とは全くの別物という場違い感を醸し出しているが目を引く外観である。
「こんにちは」
店から出てきたのは人間族の青年であった。
年齢は二十五前後というところか。
「おう、あんたドワーフか」
青年はコウジを見定めるように上から下まで眺めた。
後方のケンタも一目見るが、どうやら目利きしてるらしい。
コウジは会話を切り出した。
「ここにルイヴィトンっていう革製品があると聞いたのだが本当かい?」
「あんた、もしかして」再び見定める青年。
「俺は、ドリノってんだ。人間だがな、ドワーフにはめっぽう興味ある。職人と言えばドワーフだ」
三人は軽く握手して自己紹介をした。するとドリノが自分から正体を明かそうとしていた。
「おまえら、転生者だろ?それも日本からか?」
「なぜ、わかる?ルイヴィトンを見に来る客でドワーフと人間なんて珍しくてね。それに外にはハーピィも居るのか?」コウジらは店の外に出て空を眺めるとピピが上空で舞っていた。
「ごめん、風翼商会の近くでお師匠見つけちゃって後ついてきちゃった。
「そっか、ピピはこの辺りが住まいだったか?」ピピは頷いた。
「いま、ちょっと取り込み中だから先に工房へ行って皆によろしく伝えといてくれ、午後には戻るから」
コウジの意見をまっすぐに聞き入れ。ピピは工房へ向かった。
「よく気が付いたな」
「羽音が響いてたからな」
「あんたも転生者なんだろ?」
コウジの問いに、一呼吸してドリノは頷いた。
「なぜ?ルイヴィトンを?」
ドリノは故郷の友人に再開したかのように懐かしさを感じながら話し出す。
「俺は、転生者として、こっちに来た。異世界転生ってことでとりあえず人間を選んだが。赤ん坊から始まると思えば、見知らぬ土地で親兄弟も居る家庭の3番目の息子に俺の意識は流れた。
それから、ドリノという人物の代わりになるように頑張ったが、なじめずに、家族を悲しませ、反抗し、窃盗にも手を染めた。落ちぶれる俺を家族は勘当した。
それで、路頭に迷って、この工房にたどり着いた。親方は頑固な奴だけど、どうしようもない俺を拾ってくれて、養ってくれた。親父は鍛冶師であり革職人だ。だが、病で倒れて、金もないから直すこともできない」
親父と気軽に言い合える仲ほど、ドリノは親父という職人と濃いつながりのようだ。
「俺が金を稼がないと、俺が店を潰さないようにしないと、俺が親父を救わないと」
既に親子の縁を切ったドリノは償うように親父にすがっていた。
「それで、ルイヴィトンってか?お前も元革職人なのか?」
ドリノは「職人ってほどじゃない。趣味で革細工をやってたくらいだ。見様見真似だったがね・・・」
ドリノは涙をこぼしていた。
「でも、日本でもあれほど絶大なブランドだ。異世界でも通用するんじゃないかって」
「それで、思いのほか商売繁盛ってことか、それで親父はどうした?」
ドリノの表情は曇っていた。
「親父は盗作を許さない。この商品が異国のものだと知ったら、俺はまた勘当されるかもしれない」
ドリノは罪悪感と家族を心配する気持ちの入り混じった複雑な表情をしてた。
「親父を救うために、やってきたんだろ?」
ガルドは頷く。
「俺だって盗作は許せない。職人の恥だ。」
そういうと、ケンタがさすがに言いすぎだと師匠の肩を抑えた。だが。
「だけど、盗作は盗作。職人の魂に傷をつけたのは事実だが、それでお前の親父が助かるんならいいじゃないか、少なくともこのデザインは地球でのこと。日本でのこと。異世界では盗作には含まれまい、と俺は思う。別にこの世界でだれかのものを盗んだわけではないのだから」
コウジはドリノの親父殿の気持ちを踏みにじることができなかった。そして店を潰すということもコウジにとって痛いほど理解できた。
「それなら、すぐに話をつけて謝ってこい。そして医者に診てもらえ」
翌日、ドリノは万族工房へやってきた。
「まさか、あなたが万族工房の主であったとは。お恥ずかしい姿を見せました」
ガルドは深く一礼した。
「あれから、親父、いえ、バリアント師匠は王都にて治療を受けてます。思いのほか薬を投与して安静にしていれば回復は早いそうです」
二人の会話を革や金属の加工をしながら耳にしていたボルドは聞いたことある名前だなと記憶を掘り起こしていた。
「まさか、あの名高い職人じゃないですか?バリアント氏は?」
「ええ、昔は引く手あまたの職人でしたが、今は片腕を失ってまして、手足のしびれもあり職人は引退してるんです。その後継ぎとしては未熟ですが経験を積ませてもらってます」
ドリノとボルドは弟子仲間として意気投合したようであった。
「そこで、親父から、今度お礼がしたいと申してまして、ですが返せるものが家にはなくて・・・」
申し訳なさそうに話すドリノにコウジは質問してから話した。
「もう、盗作はしてないんだな」
「ええ、それはもちろん」
ガルドはお願いをするように申した。
「うちの弟子を合同合宿として一緒に技術を磨かないか?」
弟子らの眼は輝いていた。新たな技術の探求を渇望した眼である。
「親父もきっと賛成すると思います。というか賛成させます。俺も合同合宿したいです」
ドリノは高揚したかのよう言葉の抑揚が弾んでいた。
「では、決まりかな?」
「また、親父に話をつけてから連絡しまっす。3日後にまた来ますね」
ドリノはハミングを踏みながらスキップで帰っていった。




