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革職人のおじさん転生したらドワーフだったので最高の武具を作ります。  作者: 爆裂超新星ドリル


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第18話「氷原の民」

薬師への装備を納品した翌週、珍しい寒波が街を襲った。

「寒いな……」

コウジは炉に薪を足した。

この街は温暖な気候で、雪が降ることは滅多にない。

だが、今日は例外だった。

窓の外には、白い雪が降り積もっている。

「師匠、こんな日に誰か来るんですかね?」

ケンタが言った。

「さあな。普通は来ないだろう」

その時――

ドンドンドン

扉が激しく叩かれた。

「誰だ?」

コウジが扉を開けると、そこには雪まみれの人影が立っていた。

いや、人ではない。

全身が白い毛で覆われ、大きな体――二メートル以上ある。

顔は猫科の動物に似ているが、直立歩行している。

「ユキヒョウ族……?」

コウジは驚いた。

ユキヒョウ族――氷原に住む獣人種族。この温暖な地域に来ることは、ほとんどない。

「た、助けて……くれ……」

ユキヒョウ族の男性は、そう言って倒れこんだ。

「おい! 大丈夫か!?」

コウジは男性を中に引き入れた。

「みんな、手伝ってくれ!」

弟子たちが駆けつけた。

「暖かい毛布を!」

「お湯も!」

「すぐに!」

全員で男性を介抱する。

十分後、男性はようやく意識を取り戻した。

「……ここは?」

「万族工房だ。大丈夫か?」

「ああ……助かった……」

男性はゆっくりと起き上がった。

「すまない。突然押しかけて」

「いや、気にするな。それより、何があったんだ?」

「私は……グレイス。北の氷原から来た」

グレイスは説明した。

「一族が……病に倒れている」

「病?」

「ああ。原因不明の熱病だ」

グレイスは続けた。

「治療のために、この街の薬師を訪ねてきた」

「なるほど……」

「だが……」

グレイスは悲しそうに言った。

「この暑さに耐えられない……」

「暑さ……?」

コウジは工房の室温を確認した。

確かに、炉を焚いているから暖かい。

だが、「暑い」というほどではない。

「グレイス、お前にとっては……これでも暑いのか?」

「ああ……氷原の民は、氷点下の環境で暮らしている」

グレイスは苦しそうに言った。

「この温度は……私たちには灼熱だ……」

「そうか……」

コウジは理解した。

「それで、俺に何を頼みたい?」

「冷却装備を作ってくれ」

グレイスは真剣な目で言った。

「体温を下げる装備があれば……この街でも活動できる」

「冷却装備……」

コウジは考えた。

体温を下げる装備――今まで作ったことがない。

だが、挑戦する価値はある。

「わかった。作ろう」

「本当か!?」

「ああ。ただし、素材が必要だ」

「素材は用意できる」

グレイスは袋を差し出した。

「これは、氷熊の毛皮だ」

「氷熊……!」

袋を開けると、白く輝く毛皮が入っていた。

『素材解析』


【氷熊の毛皮】

品質: 上

特性: 冷却効果(大)、氷属性、断熱性

付与可能効果: 体温低下(大)、氷耐性(大)、温度調節(中)

備考: 氷原に生息する魔獣。毛皮は常に冷たく、着用者の体温を下げる

警告: 通常の種族が着用すると低体温症になる危険性あり


「これは……完璧な素材だ」

「使えるか?」

「ああ。これで冷却装備を作れる」

「頼む」

グレイスは深々と頭を下げた。

「一族を救いたい」

「わかった。任せてくれ」


「冷却装備か……」

コウジは設計図を描き始めた。

「普通は、防寒装備を作る。でも、今回は逆だ」

「逆……?」

シルフィが尋ねた。

「ああ。外の熱を遮断して、内側を冷やす」

「難しそうですね……」

「確かに。だが、原理は防寒と同じだ」

コウジは説明した。

「防寒装備は、内側の熱を逃がさない。冷却装備は、外側の熱を入れない」

「なるほど……」

「だから、断熱材が必要だ」

「断熱材……?」

「ああ。熱の移動を防ぐ素材だ」

コウジは素材庫を見回した。

「綿毛獣の毛、使おう」

「綿毛獣……子供用装備で使いましたね」

「ああ。あれは衝撃吸収に使ったが、実は断熱性も高い」

「なるほど!」

「構造は、三層にする」

コウジは設計図に描き込んだ。

「外側に普通の革。中間層に綿毛。内側に氷熊の毛皮」

「三層……」

「これで、外の熱を遮断しつつ、内側を冷やせる」

「でも、師匠」

ケンタが手を挙げた。

「ずっと冷やし続けられるんですか? 氷熊の毛皮も、いつか温度が上がるんじゃ……」

「いい質問だ」

コウジは頷いた。

「確かに、時間が経てば冷却効果は薄れる」

「じゃあ……」

「だから、冷却材を補充できる構造にする」

「冷却材?」

「ああ。氷だ」

コウジは説明した。

「装備に小さなポケットを作る。そこに氷を入れられるようにする」

「なるほど!」

「氷が溶けたら、新しい氷を入れる。それで、冷却効果を維持できる」

「さすが師匠!」

弟子たちは感心した。


「グレイス、ちょっといいか?」

コウジはグレイスを呼んだ。

「何だ?」

「お前の体型を正確に測りたい。協力してくれ」

「わかった」

グレイスは立ち上がった。

だが――

「うっ……」

ふらついた。

「大丈夫か!?」

「ああ……ただ、暑くて……」

「待ってろ」

コウジは氷を持ってきた。

「これを首に当てろ」

「おお……」

グレイスは氷を首に当てた。

「楽になった……ありがとう……」

「よし、じゃあ採寸するぞ」

コウジはグレイスの体を測り始めた。

身長、肩幅、胸囲、腰回り――

全てを正確に記録する。

「グレイス、お前たち氷原の民は、どのくらいの温度が快適なんだ?」

「氷点下二十度くらいだ」

「氷点下二十度!?」

コウジは驚いた。

「それは……この街の気温とは四十度以上の差があるな……」

「ああ。だから、この街は地獄のように暑い」

「なるほど……」

コウジは考えた。

「じゃあ、装備は氷点下まで体温を下げる必要があるな」

「そうなると……難しいか?」

「いや、できる」

コウジは自信を持って言った。

「氷熊の毛皮は、それだけの冷却効果がある」

「そうか……」

グレイスは安堵した。

「頼む。一族のために」

「任せてくれ」

製作が始まった。

だが、問題が起きた。

「冷たい……!」

シルフィが氷熊の毛皮から手を離した。

「師匠、これ……素手で触れません……」

「そうか……」

コウジも試しに触ってみた。

「確かに……氷のように冷たい……」

『素材解析』で見た通り、氷熊の毛皮は常に冷たい。

長時間触れていると、凍傷になる恐れがある。

「どうしますか?」

「手袋を二重にしよう」

「二重……?」

「ああ。厚手の手袋を着けて、その上にもう一枚」

「わかりました」

弟子たちは二重の手袋を着けて、作業を再開した。

「これなら……何とか……」

「でも、細かい作業がしにくいです……」

「我慢してくれ。安全が最優先だ」

「はい……」

作業は通常の倍以上の時間がかかった。

だが、安全には代えられない。

「よし、外側の革ができた」

「中間層の綿毛も準備できました」

「じゃあ、組み立てるぞ」

三層を丁寧に縫い合わせていく。

外側の革、中間の綿毛、内側の氷熊の毛皮。

「慎重に……ずれないように……」

シルフィが丁寧に縫っていく。

「氷のポケットも作らないと」

ケンタが小さなポケットを縫い付けた。

「これで、氷を入れられます」

「よし、いいぞ」

ボルドは、氷を入れやすいように金属製の蓋を作った。

「開け閉めしやすい構造にしました」

「完璧だ」

全員の協力で、少しずつ装備が完成していく。


一週間後、冷却装備が完成した。

「グレイス、試着してくれ」

「ああ」

グレイスは装備を着た。

白い氷熊の毛皮のベスト。

胸と背中を覆い、脇にはポケットがついている。

「どうだ?」

「……」

グレイスは黙っていた。

「グレイス?」

「……涼しい」

グレイスは感動していた。

「涼しい……こんなに涼しいのは……この街に来て初めてだ……」

「本当か!?」

「ああ……まるで氷原にいるようだ……」

グレイスは涙を流した。

「ありがとう……ありがとう……」

「まだ終わりじゃない」

コウジは氷を持ってきた。

「このポケットに氷を入れろ」

「ああ」

グレイスは氷をポケットに入れた。

「おお……!」

「どうだ?」

「更に涼しくなった! これなら……一日中活動できる!」

「よかった」

コウジは満足そうに笑った。

『氷熊の毛皮・冷却ベスト(品質:優)』 『効果: 体温低下+30、温度調節+20、氷耐性+15、持続冷却(氷補充式)、快適性+10』

「品質『優』……それに『持続冷却』という特殊効果」

「すごいですね、師匠!」

「ああ。これで、グレイスは安心して活動できる」

「コウジ」

グレイスは真剣な顔で言った。

「代金は、いくらだ?」

「金貨五枚でいい」

「安すぎる。金貨十枚払わせてくれ」

「いや、五枚で――」

「いいや」

グレイスは強引に金貨十枚を置いた。

「これは命の値段だ。安すぎるくらいだ」

「……わかった。ありがとう」

「礼を言うのは、こちらだ」

グレイスは深々と頭を下げた。

「これで、一族を救える」


グレイスが装備を着けたまま、薬師のアルベルトを訪ねることになった。

「コウジ、一緒に来てくれないか?」

「俺が?」

「ああ。恩人を紹介したい」

「わかった」

コウジはグレイスと共に、アルベルトの工房を訪れた。

「アルベルト殿、いるか?」

「おお、グレイス! 待っていたぞ!」

アルベルトが出てきた。

そして、コウジを見て驚いた。

「コウジさん!?」

「アルベルトさん……」

「なぜここに……」

「グレイスの装備を作ったんだ」

「そうだったのか!」

アルベルトは笑った。

「やはり、あなたか」

「やはり?」

「ええ。グレイスから『優れた職人がいる』と聞いて、あなただと思いましたよ」

「……そうか」

「それにしても、見事な装備ですね」

アルベルトはグレイスの冷却ベストを見た。

「これなら、グレイスも安心して治療を受けられる」

「治療は……大丈夫なんですか?」

「ええ。病の原因はわかりました」

アルベルトは説明した。

「氷原に生える特殊な苔が原因です。解毒薬を調合しました」

「それは良かった」

「グレイス、これを持って帰りなさい」

アルベルトは薬の入った袋を渡した。

「一族全員に、一日一回飲ませてください」

「ありがとうございます!」

グレイスは感動していた。

「これで……一族が救われる……」

「いいえ、礼には及びません」

アルベルトは笑った。

「これも、コウジさんのおかげです」

「俺の?」

「ええ。あなたが作ってくれた毒耐性装備のおかげで、安全に薬を調合できました」

アルベルトは続けた。

「そして今回、グレイスの冷却装備も作ってくれた」

「……」

「あなたは、多くの命を救っています」

「そんな大げさな……」

「いいえ、事実です」

アルベルトは真剣な目で言った。

「ありがとう、コウジさん」

「どういたしまして」

コウジは照れくさそうに笑った。


工房に戻る途中、グレイスが言った。

「コウジ、お前は素晴らしい職人だ」

「そうかな」

「ああ。お前のおかげで、私は一族を救える」

グレイスは続けた。

「氷原に戻ったら、仲間にお前のことを伝える」

「いや、そこまでしなくても……」

「いいや、伝える」

グレイスは笑った。

「もし、氷原の民が困ったことがあれば、お前を頼らせてもらう」

「……わかった」

「それと、これ」

グレイスは小さな石を渡した。

「これは?」

「氷晶石だ。氷原でしか取れない」

「氷晶石……」

「冷却効果がある。装備に使えるだろう」

「ありがとう」

「礼には及ばん」

グレイスは言った。

「では、私は氷原に戻る。元気でな」

「ああ、気をつけて」

グレイスは雪の中を歩いていった。

冷却ベストを着ているから、もう苦しそうではない。

コウジは、その背中を見送った。

「また一つ、誰かを救えた」

工房に戻ると、弟子たちが待っていた。

「師匠、お帰りなさい!」

「ただいま」

「グレイスさん、喜んでましたか?」

「ああ、すごく喜んでた」

コウジは弟子たちを見た。

「お前たちのおかげだ。ありがとう」

「当たり前です!」

「俺たち、チームですから!」

「これからも頑張ります!」

弟子たちは笑顔だった。

コウジも笑顔になった。

「ああ、これからも頑張ろう」


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