色彩の魔法
「まず、色から決めましょう」
リリアは色見本を並べた。
「光の祭りだから……黄色、オレンジ、赤、金色をベースに」
「それに、緑も少し入れたいです」
ピピが提案した。
「豊穣の象徴だから、植物の色も」
「いいですね!」
リリアは色の組み合わせを考えた。
「人間の踊り子は、赤と金色。情熱的な印象に」
「エルフの歌い手は、緑と白。清純な印象に」
「ドワーフの楽士は、オレンジと茶色。温かい印象に」
「ハーピーの踊り子は、黄色と青。空と太陽の印象に」
「素敵です!」
セレナが感動していた。
「それぞれの種族の特徴を活かした色……」
「次は、素材です」
リリアは素材庫を見回した。
「華やかに見せるには……光沢のある素材がいい」
「絹はどうですか?」
シルフィが提案した。
「絹? この世界にもあるのか?」
コウジが驚いた。
「はい。シルクワームという魔獣から取れます」
「でも、絹は高いですよね……」
ケンタが心配そうに言った。
「予算は大丈夫なんですか?」
「それが……」
セレナは申し訳なさそうに言った。
「あまり予算がなくて……全部で金貨三十枚が限界です」
「三十枚で十二人分……一人あたり金貨二枚半か」
コウジは考えた。
「絹は無理だな」
「じゃあ、代わりに……」
リリアは別の素材を取り出した。
「光鱗蝶の羽を使いましょう」
「光鱗蝶?」
「はい。羽が虹色に光る蝶です。その鱗粉を布に塗ると、光沢が出るんです」
「そんなものが!」
「エルフの村の技術です」
リリアは誇らしげだった。
「これなら、安価に華やかな衣装が作れます」
「さすがリリア!」
製作が始まった。
リリアは人間とエルフの衣装を担当した。
「踊り子用は、スカート部分を三層にして、動くたびにふわっと広がるように……」
「歌い手用は、胸元を開けて、声が通りやすいように……」
細部まで計算された設計。
ピピはハーピー用の衣装に取り組んだ。
「羽の付け根を避けて……背中は大きく開ける……」
「スカートには小さな重りを縫い込んで、風でめくれないように……」
自分がハーピーだからこそわかる配慮。
シルフィは、全体の縫製を監督しながら、装飾の刺繍を施していた。
「太陽の模様……収穫の模様……」
アラクネの糸で、美しい刺繍を描いていく。
ボルドとギギは、金属製の装飾品を作った。
「金色に輝く髪飾り……」
「胸元につける太陽のブローチ……」
小さいが、存在感のあるパーツ。
ケンタとテイルは、素材の準備や補助作業に奔走した。
「次の布、持ってきました!」
「光鱗蝶の鱗粉、追加で用意しました!」
全員が、それぞれの役割を全力でこなす。
コウジは、全体を統括しながら、時々アドバイスをした。
「リリア、そのスカート、もう少し軽い素材にした方が動きやすいぞ」
「あ、そうですね! ありがとうございます!」
「ピピ、重りの位置、もう少し下にしないとバランスが悪い」
「わかりました!」
「シルフィ、その刺繍、素晴らしいな」
「ありがとうございます!」
工房は、いつも以上に活気に満ちていた。
二週間後――
「……できました!」
リリアが完成した衣装を並べた。
赤と金色の踊り子用衣装。
緑と白の歌い手用衣装。
オレンジと茶色の楽士用衣装。
黄色と青のハーピー用衣装。
どれも、光鱗蝶の鱗粉で虹色に輝いている。
「わあ……!」
セレナたちが感嘆の声を上げた。
「綺麗……!」
「試着してみてください」
「はい!」
一座のメンバーたちが、それぞれの衣装を着た。
「おお……ぴったりだ!」
「動きやすい!」
「軽い!」
「そして……綺麗!」
みんなが感動していた。
「じゃあ、ちょっと踊ってみてください」
セレナたちは、工房の中で踊り始めた。
回転すると、スカートが美しく広がる。
動くたびに、衣装が虹色に輝く。
ハーピーが飛ぶと、黄色と青の衣装が空に映える。
「完璧です……!」
セレナは涙を流していた。
「こんなに素晴らしい衣装……初めてです……!」
「気に入ってもらえて良かった」
リリアも涙ぐんでいた。
「私、初めて……自分の作品にこんなに満足できました……」
「リリアさん、ありがとうございます!」
セレナはリリアの手を握った。
「あなたのおかげで、私たちは最高の舞台に立てます!」
「頑張ってください」
「はい!」
一ヶ月後――
コウジと弟子たちは、王都の『光の祭り』を見に行った。
「すごい人だな……」
街は人で溢れていた。
色とりどりの屋台、音楽、踊り――
祭りの華やかさに、みんなが目を輝かせた。
「あ! セレナさんたちだ!」
ピピが指差した。
広場の舞台に、『虹の旅団』が立っていた。
コウジたちが作った衣装を着て。
音楽が始まる。
踊りが始まる。
虹色に輝く衣装が、夕日に照らされて美しく光る。
「わあ……!」
観客から歓声が上がる。
踊り子たちは、華麗に舞う。
ハーピーたちは、空を飛びながら踊る。
歌い手たちの声が、広場に響く。
楽士たちの演奏が、場を盛り上げる。
全てが、完璧に調和していた。
「すごい……」
リリアは涙を流していた。
「私の作った衣装が……あんなに輝いてる……」
「いい仕事したな、リリア」
コウジは満足そうに笑った。
「ああ、職人冥利に尽きる」
演技が終わると、観客から盛大な拍手が起こった。
セレナたちは、深々と頭を下げた。
そして、観客席にいるコウジたちを見つけて、手を振った。
コウジたちも、手を振り返した。
「やったね……」
「はい……」
「頑張った甲斐がありましたね」
弟子たちは、みんな笑顔だった。
工房に戻った夜、コウジは弟子たちに言った。
「今回、学んだことがあるな」
「はい」
「職人の仕事は、戦いを支えることだけじゃない」
コウジは続けた。
「文化を支えることも、俺たちの役目だ」
「文化……」
「ああ。芸術、祭り、伝統……そういうものを支える」
コウジは窓の外を見た。
「戦いがあれば、平和もある。平和を豊かにするのも、職人の仕事だ」
「はい」
「今回、リリアが頑張ってくれた」
「いえ、みんなが協力してくれたから……」
「それもそうだ。だが、お前の情熱がなければ、こんな素晴らしい衣装はできなかった」
コウジはリリアの頭に手を置いた。
「ありがとう、リリア」
「師匠……」
リリアは涙を流した。
「ありがとうございます……」
「これからも、お前の感性を活かしてくれ」
「はい!」
工房には、温かい空気が流れていた。
戦いのための装備だけじゃない。
文化のための衣装も作る。
それが、万族工房の新しい一面だった。




