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革職人のおじさん転生したらドワーフだったので最高の武具を作ります。  作者: 爆裂超新星ドリル


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完璧じゃなくていい

その夜、コウジは一人で考えていた。

「完璧主義……それが俺の欠点だったのか」

前世でも、今世でも、コウジは完璧を求めてきた。

妥協は嫌いだった。

だが――

「完璧を求めすぎて、かえって失敗してた」

今回の失敗作が、それを教えてくれた。

「完璧じゃなくてもいい。誰かの役に立てば、それでいいんだ」

コウジは気づいた。

職人として大事なのは、完璧な作品を作ることじゃない。

使う人に合った、最適な作品を作ること。

「そうか……俺、間違ってたな」

コウジは笑った。

「五十過ぎても、まだ学ぶことがあるなんてな」

その時、ケンタが工房に入ってきた。

「師匠、まだ起きてたんですか?」

「ああ。お前も?」

「ちょっと考え事してて」

ケンタは座った。

「師匠、今日の失敗作の話……すごく勉強になりました」

「そうか」

「俺、前世で何やっても中途半端だったんです」

ケンタは続けた。

「ギターも、勉強も、バイトも……全部中途半端で」

「……」

「だから、この世界では完璧にやろうって思ってたんです」

「だが?」

「でも、今日わかりました。完璧じゃなくてもいいんだって」

ケンタは笑った。

「大事なのは、誰かの役に立つこと。それが職人なんですね」

「……そうだな」

コウジは満足そうに頷いた。

「お前、いい弟子になったな」

「えへへ」

「これからも、一緒に頑張ろう」

「はい!」

二人は笑顔で手を取り合った。

翌週、砂漠の民の男性が再び工房を訪れた。

「コウジさん!」

「おお、この間の……」

「あの装備、仲間にも大好評なんです!」

男性は興奮していた。

「それで、その……仲間の分も作っていただけませんか?」

「仲間の分?」

「はい! 十人分!」

「十人!?」

「お願いします!」

男性は頭を下げた。

「あの装備、砂漠での活動に革命をもたらしました!」

「革命……そこまで?」

「はい! だから、仲間みんなに教えたら、『俺も欲しい』って!」

「わかった。作ろう」

コウジは笑った。

「失敗作が、こんなに需要があるとはな」

「失敗作……?」

男性は驚いた顔をした。

「あれ、失敗作だったんですか?」

「ああ。元々は重装備を作ろうとして、失敗したんだ」

「そうだったんですか……」

男性は笑った。

「でも、私たちにとっては完璧な装備です」

「ありがとう」

コウジは嬉しかった。

「じゃあ、十人分作ろう。時間はかかるが」

「待ちます! お願いします!」

こうして、新しい依頼が舞い込んだ。

砂漠用装備の製作が始まった。

「よし、みんなで作るぞ」

「はい!」

「師匠」

ケンタが手を挙げた。

「俺、一人で一着作ってみたいです」

「一人で?」

「はい。そろそろ、自分の力を試したいんです」

ケンタは真剣な目をしていた。

「……わかった」

コウジは頷いた。

「じゃあ、一着任せる」

「本当ですか!?」

「ああ。ただし、困ったことがあったら、すぐに相談しろ」

「はい!」

ケンタは嬉しそうだった。

「絶対に、いいもの作ります!」

それから一週間、ケンタは黙々と作業を続けた。

革を切り、穴を開け、縫い合わせる。

時々、失敗もした。

「あ、ずれた……」

だが、すぐにやり直す。

「今度は完璧……じゃなくていいんだ。ベストを尽くせばいい」

ケンタは、今回の失敗作の話を思い出していた。

「完璧じゃなくても、誰かの役に立てばいい」

そう思うと、心が軽くなった。

一週間後――

「師匠、できました!」

ケンタは完成した装備を持ってきた。

コウジは確認した。

「……いい出来だ」

「本当ですか!?」

「ああ。縫い目も均等だし、金属プレートの位置も完璧だ」

コウジは続けた。

「いや、完璧じゃないな」

「え……?」

「完璧以上だ」

コウジは笑った。

「お前の心が込もってる。それが一番大事だ」

「師匠……!」

ケンタは涙が出そうになった。

「ありがとうございます!」

「これが、お前の初作品だ。大事にしろ」

「はい!」

ケンタは自分の作品を誇らしげに掲げた。

砂漠用装備十着が完成し、砂漠の民に納品された。

「ありがとうございます!」

「どういたしまして」

男性たちは満足そうに装備を着て、帰っていった。

コウジは弟子たちを見た。

「みんな、今回学んだことがあるな」

「はい」

「失敗は、必ずしも悪いことじゃない」

コウジは続けた。

「失敗から学び、新しい可能性を見つける。それが大事だ」

「はい!」

「それから、完璧を求めすぎないこと」

「はい」

「誰かの役に立つ。それが一番大事だ」

「はい!」

弟子たちは元気よく返事をした。

「よし、じゃあ次の依頼に取り掛かろう」

「はい!」

工房には、今日も活気が溢れていた。

失敗を恐れず、挑戦し続ける。

それが、万族工房の姿勢だった。


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