完成の日
製作が始まった。
ボルドが鱗を加熱し、形を整える。
「よし、次の鱗!」
「はい!」
ケンタが次の鱗を炉に入れる。
タイミングが重要だ。加熱しすぎると脆くなり、加熱不足だと加工できない。
「ケンタ、もう少し待て」
「はい、わかりました」
ケンタは炉の様子を見守る。
「……今です!」
「よし!」
ボルドが鱗を取り出し、加工する。
一方、シルフィとリリアは内側の革を縫っていた。
「この部分、もう少し柔らかい革がいいですね」
「そうですね。クッション性を高めたいです」
「じゃあ、この森狼の革を二重にしましょう」
「いいですね」
二人は協力して、丁寧に縫い合わせていく。
ギギとピピは、細かい部品を作っていた。
「留め具、できました!」
「私は調整ベルトを作りました!」
「ありがとう、二人とも」
テイルは、重い鱗を運ぶ作業を担当していた。
「次の鱗、持ってきました!」
「助かる!」
全員が、それぞれの役割をこなしていく。
だが、問題が起きた。
「師匠! 鱗が割れました!」
ボルドが慌てた声を上げた。
「何!?」
コウジが駆けつけると、加工中の鱗に亀裂が入っていた。
「加熱しすぎたか……」
「すみません……」
「いや、お前のせいじゃない」
コウジは冷静だった。
「温度管理が難しいんだ。次は、もう少し低温で試そう」
「はい……」
ボルドは落ち込んでいた。
「ボルド先輩」
ケンタが声をかけた。
「俺、温度計測のスキル持ってるんです」
「温度計測?」
「はい。前世の知識で覚えた感覚なんですけど……炉の色で、だいたいの温度がわかるんです」
「本当か!?」
「はい。次は、俺が温度を見ますから、ボルド先輩は加工に集中してください」
「……ありがとう、ケンタ」
ボルドは笑顔になった。
「助かる」
二人は協力して、再び作業を始めた。
今度は、ケンタが温度を管理し、ボルドが加工する。
「今、ちょうどいい温度です!」
「よし!」
完璧なタイミングで鱗を取り出し、加工する。
「成功です!」
「やった!」
二人はハイタッチした。
コウジはそれを見て、満足そうに微笑んだ。
「いいチームワークだ」
一ヶ月後――
「……できた」
コウジは完成した防具を見つめた。
黒光りする地竜の鱗で作られた兜と背当て。
重厚で、美しい。
『地竜の鱗・鉱夫用防具セット(品質:優)』 『効果: 防御力+25、衝撃耐性+20、振動無効化+15、落盤保護(特大)、耐久性+20』
「品質『優』……それに『落盤保護』という特殊効果まで……」
「すごいですね、師匠!」
シルフィが感動していた。
「これなら、どんな落盤でも耐えられます!」
「ああ。みんなのおかげだ」
コウジは弟子たち全員を見た。
「お前たち、本当にありがとう」
「当たり前です!」
「俺たち、チームですから!」
「一緒に作れて嬉しかったです!」
弟子たちは笑顔だった。
翌日、グリムが工房を訪れた。
「できたか?」
「ああ、できた」
コウジは防具を見せた。
グリムは、しばらく黙って見つめていた。
「……素晴らしい」
「試着してみてくれ」
グリムは兜と背当てを装着した。
「おお……ぴったりだ」
「重さは大丈夫か?」
「ああ。重いが、この重さなら動ける」
グリムは体を動かしてみた。
「これなら……落盤が来ても、耐えられる」
「気に入ってもらえたか?」
「ああ……気に入った以上だ」
グリムは涙を浮かべていた。
「これで……仲間を守れる……」
「……」
コウジは胸が熱くなった。
「グリム、一つ頼みがある」
「何だ?」
「他の鉱夫たちにも、同じものを作らせてくれ」
「え……?」
「お前だけじゃなく、全員を守りたい」
コウジは真剣な目で言った。
「鉱夫は、この街を支えている。だから、みんなを守る装備を作りたい」
「コウジ……」
グリムは感動していた。
「ありがとう……本当にありがとう……」
「代金は?」
「分割でいい。払える範囲で、少しずつ」
「本当にいいのか?」
「ああ。命には代えられない」
「……わかった」
グリムは深々と頭を下げた。
「仲間に伝える。みんな、喜ぶだろう」
「楽しみにしてるぞ」
グリムが去った後、弟子たちが集まってきた。
「師匠、かっこよかったです!」
「さすが師匠!」
「私たち、誇りに思います!」
みんなが口々に言った。
コウジは少し照れくさかった。
「まあ、職人として当然のことをしただけだ」
「いえ、師匠だからこそです」
シルフィが言った。
「師匠は、いつも人を第一に考えてます」
「……そうか?」
「はい。だから、私たち、師匠についていきたいんです」
「……ありがとう」
コウジは心から嬉しかった。
その夜、コウジはケンタを呼んだ。
「ケンタ、少しいいか」
「はい、師匠」
「今回、お前の知識が大いに役立った」
「いえ、たまたまです」
「たまたまじゃない」
コウジは真剣な目で言った。
「お前は、前世の知識を活かして、問題を解決した」
「……」
「それは、立派な才能だ」
「師匠……」
「これからも、お前の知識を活かしてくれ」
コウジは続けた。
「転生者だからって、特別扱いはしない。でも、お前の強みは認める」
「ありがとうございます!」
ケンタは涙が出そうになった。
「俺、もっと頑張ります!」
「ああ、期待してるぞ」
「はい!」
ケンタは決意を新たにした。
前世の知識を活かして、この世界で役に立つ。
それが、自分の道だ。
「よし、明日も頑張るぞ!」
翌週、工房に十人のモールマンが訪れた。
「コウジさん、俺たちにも防具を作ってください!」
「グリムから聞きました!」
「お願いします!」
鉱夫たちは、口々に頼んだ。
「わかった。全員分作ろう」
「本当ですか!?」
「ああ。ただし、時間がかかる」
「構いません! 待ちます!」
こうして、万族工房は新たな大口依頼を受けた。
鉱夫たち十人分の防具。
「さて、忙しくなるぞ」
「はい!」
「頑張ります!」
「任せてください!」
弟子たちは元気よく返事をした。




