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革職人のおじさん転生したらドワーフだったので最高の武具を作ります。  作者: 爆裂超新星ドリル


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技術の証明

「……見事だな」

一人の評議員が呟いた。

「だが、本当にお前が作ったのか? 弟子たちが作ったのではないか?」

「弟子たちと一緒に作りました」

「では、お前の技術ではないではないか」

「いいえ」

コウジは首を振った。

「弟子たちは、私が教えた技術を使っています。つまり、私の技術です」

「詭弁だ!」

グランが叫んだ。

「お前一人の技術を見せろ!」

「わかりました」

コウジは落ち着いていた。

「では、今ここで作ります」

「何?」

「革細工を、今ここで実演します」

コウジは道具を取り出した。

革包丁、目打ち、針、糸――

「素材を貸してください」

議長は戸惑ったが、革の切れ端を渡した。

「何を作る気だ?」

「小袋です」

コウジは作業を始めた。

まず、革を型紙通りに裁断する。

一瞬で、正確に切り取る。

「速い……」

評議員たちが呟いた。

次に、目打ちで穴を開ける。

等間隔に、正確に。

「完璧な間隔だ……」

そして、縫い始める。

サドルステッチ――両側から交互に糸を通す。

その手つきは、迷いがない。

十分後――

「できました」

コウジは完成した小袋を掲げた。

美しい縫い目。完璧な形。

『森狼の革・小袋(品質:優)』

「品質『優』……これを十分で……」

評議員たちは驚愕していた。

「これが、私の技術です」

コウジは言った。

「そして、この技術を弟子たちに教えています」

「……」

会場は静まり返っていた。

「どうです? 私の技術、認めていただけますか?」

「……」

議長は悩んでいた。

「確かに、技術は見事だ。だが……」

「だが、何です?」

「異種族に教えることが、問題なのだ」

「なぜですか?」

コウジは問い詰めた。

「技術を独占して、何の意味があるんですか?」

「それは……伝統だ……」

「伝統? それは、ただの差別ではないですか?」

「な、何を……!」

グランが激怒した。

「貴様、評議会を侮辱するか!」

「侮辱ではありません。事実を言っているだけです」

コウジは続けた。

「あなたたちは、ドワーフ以外を見下している。それは、技術者としても、人間としても間違っています」

「黙れ!」

「黙りません」

コウジは強く言った。

「私は、全ての種族が平等だと信じています。だから、誰にでも技術を教えます」

「それは……ドワーフの誇りを捨てることだ!」

「違います」

コウジは首を振った。

「本当の誇りとは、技術を独占することではなく、技術を広めることです」

「……」

「私の弟子たちは、今や優秀な職人です。彼らは、多くの人々を助けています」

コウジは会場を見回した。

「それこそが、職人としての誇りではないですか?」

会場は、再び静まり返った。



「……では、票決を取る」

議長が重々しく言った。

「コウジの工房を認めるか、認めないか」

「認める者は、右手を上げろ」

ざわざわと、会場がざわめいた。

数秒の沈黙。

そして――

一人、二人、三人――

少しずつ、手が上がっていく。

「……」

コウジは固唾を飲んで見守った。

最終的に、十五人が手を上げた。

「次に、認めない者」

残りの十五人が手を上げた。

「……同数か」

議長は溜息をついた。

「これは……」

「議長」

バルドリックが立ち上がった。

「同数の場合、議長が決定権を持つはずだ」

「……その通りだ」

議長は悩んだ。

長い沈黙。

そして――

「私は……コウジを認める」

「何!?」

グランが驚愕した。

「議長! なぜ!?」

「なぜなら……」

議長はコウジを見た。

「彼の技術は本物だからだ」

議長は続けた。

「私は、技術を尊重する。種族がどうであれ、優れた技術は認めるべきだ」

「だが……!」

「それに、彼の言う通りだ」

議長は厳かに言った。

「本当の誇りとは、技術を独占することではなく、技術を広めることだ」

「……!」

グランは言葉を失った。

「よって、コウジの工房を正式に認める」

議長は宣言した。

「今後、ギルドはコウジの工房を妨害してはならない」

「やった……!」

コウジは安堵した。

「ありがとうございます……!」

「礼には及ばん。お前の技術が、それに値したのだ」

議長は笑った。

「これからも、良い仕事を続けてくれ」

「はい!」

評議会は、こうして終わった。


コウジが工房に戻ると、弟子たちが待っていた。

「師匠!」

「どうでしたか!?」

「勝ちました」

「やった!!」

全員が歓声を上げた。

「師匠、すごいです!」

「やりましたね!」

「これで安心ですね!」

みんなが喜んでいた。

「ああ、これでもう妨害はない」

コウジは笑顔になった。

「これからは、安心して仕事ができる」

その夜、工房では小さな祝賀会が開かれた。

弟子たち、メディア、ザード、ダリウス、フィー――

今まで関わってきた人々が、みんな集まってくれた。

「コウジ、おめでとう」

メディアが祝杯を上げた。

「ありがとう、メディア。お前がいなかったら、ここまで来れなかった」

「当たり前でしょ。私たち、仲間だもの」

「ああ、仲間だな」

コウジは笑った。

「で、これからどうするんだ?」

ザードが尋ねた。

「これからか……」

コウジは考えた。

「今まで通り、異種族の装備を作る。そして、弟子たちを育てる」

「それだけか?」

「ああ。それだけで十分だ」

コウジは満足そうに言った。

「俺は、派手なことはしない。ただ、良いものを作り続ける。それが、俺の生き方だ」

「いい生き方だな」

ダリウスが頷いた。

「じゃあ、俺たちも応援し続けるぜ」

「ありがとう」

宴会は、深夜まで続いた。

笑い声が、工房に響き渡った。


翌朝、コウジは一人工房にいた。

「さて、これからだな」

認められた。

妨害もなくなった。

だが、それは終わりではなく、始まりだ。

「もっと良いものを作ろう」

コウジは作業台に向かった。

新しい設計図を描き始める。

その時、工房の扉がノックされた。

「失礼します」

入ってきたのは、見慣れない若者だった。

人間の少年。十代半ばくらいだろうか。

「あの……コウジさんですか?」

「ああ、そうだが」

「僕、日本から転生してきたんです」

「……は?」

コウジは驚いた。

「日本……って、まさか……」

「はい! 異世界転生です!」

少年は目を輝かせた。

「それで、コウジさんの噂を聞いて……弟子にしてもらいたいんです!」

「お前も……転生者か……」

コウジは複雑な気持ちになった。

まさか、自分と同じ転生者がいるとは。

「名前は?」

「田中健太です! でも、こっちではケンタって呼ばれてます!」

「ケンタか……」

コウジは少し考えてから、笑った。

「よし、弟子にしてやろう」

「本当ですか!?」

「ああ。ただし、厳しいぞ」

「頑張ります!」

ケンタは深々と頭を下げた。

「じゃあ、早速だが……」

コウジは革包丁を手渡した。

「この革を、幅三センチの紐状に切ってみろ」

「はい!」

ケンタは緊張した様子で、革を裁断し始めた。

コウジはその姿を見守った。

「……また、新しい物語が始まるな」

コウジは静かに呟いた。

職人の道は、終わらない。

新しい世代に受け継がれ、永遠に続いていく。

それが、職人の生き方だった。


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