第10話「評議会の決戦」
元長老――その名をバルドリックという――の支援を受けて、コウジは評議会への準備を始めた。
「評議会?」
「ああ」
バルドリックは説明した。
「職人ギルドには、月に一度の評議会がある。そこで、重要な決定が下される」
「つまり……」
「そこでお前の工房について議論させる。そして、正式に認めさせるんだ」
「でも、保守派が多いんでしょう?」
「ああ。だが、改革派もいる。彼らを説得できれば、勝機はある」
バルドリックは続けた。
「お前は、評議会で自分の主張を述べる。そして、お前の作った装備を見せる」
「装備を……」
「そうだ。言葉だけでは不十分だ。実物を見せて、お前の技術を証明する」
「わかりました」
コウジは決意した。
「最高の装備を用意します」
それから一週間、コウジは準備に没頭した。
評議会で見せる装備――それは、今までの集大成でなければならない。
「何を作るか……」
コウジは考えた。
ラミア用の腹部プロテクター。ハーピー用の胸当て。ケンタウロス用の重装備。リザードマン用の水中装備。
どれも、コウジの技術が詰まっている。
「全部持っていくか」
コウジは決めた。
「異種族のための装備、全てを見せる」
弟子たちも協力してくれた。
「師匠、装備を磨きました!」
「これ以上ないくらい、ピカピカです!」
「箱も用意しました!」
みんなが、コウジを応援してくれる。
「ありがとう、みんな」
コウジは感謝した。
「お前たちがいてくれて、本当に良かった」
「当たり前です!」
「俺たちは、師匠の弟子ですから!」
「どんなことがあっても、一緒です!」
弟子たちの言葉が、コウジの心を温めた。
評議会の日が来た。
朝、コウジは緊張していた。
「大丈夫かな……」
「大丈夫ですよ、師匠」
シルフィが励ました。
「師匠の技術は、本物です。きっとわかってもらえます」
「そうだといいんだが……」
コウジは装備の入った箱を確認した。
「よし、行くか」
「頑張ってください!」
「絶対に勝ってください!」
「応援してます!」
弟子たちが見送ってくれた。
コウジはバルドリックと共に、ギルドへ向かった。
「緊張してるな」
「ええ、まあ……」
「大丈夫だ。お前の技術を見せれば、必ずわかってもらえる」
「……はい」
コウジは深呼吸した。
ギルドの評議室は、大きな円形の部屋だった。
中央に演台があり、周囲に席が並んでいる。
既に、多くのドワーフが座っていた。
「おお……」
コウジは圧倒された。
三十人以上のドワーフ。全員が、立派な髭を蓄えた老練の職人たちだ。
「あれが、評議員たちか……」
「ああ。彼らが、お前の運命を決める」
バルドリックは小さく言った。
「だが、恐れるな。お前は正しい」
「……はい」
コウジは席に座った。
評議会が、始まろうとしていた。
「では、本日の評議会を始める」
議長――白髭の老ドワーフ――が宣言した。
「本日の議題は、コウジという革職人についてだ」
ざわざわと、会場がざわめいた。
「彼は、異種族に技術を教え、異種族のための装備を作っている」
議長は続けた。
「これは、我々ドワーフの伝統に反する行為である」
「その通りだ!」
グランが立ち上がった。
「コウジの行為は、ドワーフの誇りを汚している!」
「賛成!」
「彼の工房は閉鎖すべきだ!」
保守派の評議員たちが、次々と非難の声を上げた。
「待て」
バルドリックが立ち上がった。
「彼には、弁明の機会を与えるべきだ」
「バルドリック……お前、まだそんなことを……」
「評議会の規則では、被告には弁明の機会が与えられる」
「……」
議長は渋々頷いた。
「わかった。コウジ、前に出ろ」
「はい」
コウジは演台に立った。
三十人以上の視線が、コウジに注がれる。
「コウジ、お前は異種族に技術を教えている。それは事実か?」
「はい、事実です」
「なぜだ? ドワーフの技術は、ドワーフだけのものではないのか?」
「私は、そうは思いません」
コウジは真っ直ぐに言った。
「技術は、使ってこそ価値がある。誰が使おうと、関係ありません」
「ふざけるな!」
グランが怒鳴った。
「お前は、ゴブリンやハーピーに技術を教えた! 奴らは下等種族だ!」
「下等種族などいません」
コウジは冷静に答えた。
「ゴブリンは細かい作業が得意です。ハーピーは軽量素材の扱いに長けています。アラクネの糸は、最高の縫製材料です」
「屁理屈だ!」
「いいえ、事実です」
コウジは箱を開けた。
「これを見てください」
中には、今まで作った装備が入っていた。
「これは、ラミア用の腹部プロテクターです」
コウジは装備を掲げた。
「百枚のプレートが鱗のように重なり、動きに追従します」
「……」
評議員たちは黙って見ていた。
「これは、ハーピー用の胸当てです。雷鳥の羽と革で作られ、飛行を妨げません」
「……」
「これは、ケンタウロス用の重装備です。四足の体型に完璧に合わせ、関節の動きを妨げません」
「これは、リザードマン用の水中装備です。氷蛇の鱗で作られ、完全防水です」
コウジは全ての装備を並べた。
「これが、私と弟子たちが作った装備です」
会場は、静まり返っていた。




