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革職人のおじさん転生したらドワーフだったので最高の武具を作ります。  作者: 爆裂超新星ドリル


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ドワーフの工房

目を覚ますと、そこは見知らぬ天井だった。

いや、天井というより岩だ。ゴツゴツとした岩肌が、松明の明かりに照らされている。オレンジ色の炎が揺れるたびに、影が踊る。

「……ここは」

体を起こそうとして、コウジは違和感に気づいた。

体が、重い。

いや、重いというより、ずんぐりしている。手足が短く、胴が太い。腕を見ると、前世より遥かに筋肉質で太い。

「マジでドワーフになってる……」

ベッドから転がり落ちるように降りて、部屋の隅にあった金属製の盾を手に取る。磨かれた表面に、自分の顔が映り込んだ。

四角い顔。太い鼻。そして、顎から胸元まで伸びる灰色混じりの立派な髭。

「うわ、マジでおっさんドワーフだ……」

身長はおそらく百三十センチ程度。前世より四十センチ以上低い。だが、筋肉は前世より遥かに発達していて、腕も太くたくましい。

「まあ、これはこれで……」

コウジは新しい体を確かめるように、その場で屈伸してみた。低い重心、安定した足腰。膝の痛みもない。前世の体より遥かに頑丈だ。

「職人向きかもな」

その時、頭の中に声が響いた。

『スキルツリーを確認しますか?』

「うおっ!?」

『システムメッセージです。驚かないでください』

「システム……ああ、神様が言ってたやつか」

『はい。あなたには以下のスキルが付与されています』

視界の端に、半透明のウィンドウが浮かび上がった。


【コウジ / ドワーフ / 年齢53歳相当】

加護:

鍛冶の加護 LV1

裁縫の加護 LV1

スキル:

素材解析 LV1

基礎鍛冶 LV1

基礎裁縫 LV1

革なめし LV1

スキルツリー: 未解放多数


「おお……本当にゲームみたいだ」

コウジは感心しながら、ウィンドウを眺めた。スキルツリーを開くと、まだグレーアウトしている無数のスキルが枝分かれして表示されている。

『高速縫製』『素材強化』『特性抽出』『複合加工』……

「これ、全部覚えられるのか?」

『経験を積むことで解放されます』

「なるほど。じゃあ、コツコツやっていくしかないな」

コウジは気合を入れ直した。

ウィンドウを閉じると、部屋の詳細が見えてきた。岩を削って作られた質素な部屋。ベッド、小さなテーブル、椅子。壁には工具が掛けられている。

記憶を探ると、どうやらこの体の元の持ち主の記憶も少し残っているようだ。

ここは『鋼鉄山脈』と呼ばれる山岳地帯にあるドワーフの都市、グランドフォージ。人口は約三千人。主な産業は鉱業と鍛冶業。

そして、この体の元の持ち主――コウジという名前はそのまま使われていたらしい――は、ギルドに所属する見習い職人だった。

「見習い、ねえ……五十過ぎで見習いってのも珍しいが」

コウジは苦笑しながら、部屋を出た。




岩壁に彫られた通路は広く、天井も高い。所々に松明が設置されていて、十分な明かりがある。

すれ違うドワーフたちは皆、立派な髭を蓄えていて、コウジと似たようなずんぐりした体型だ。皆、腰に工具を下げ、職人然とした雰囲気を漂わせている。

「おう、コウジ。今日も工房か?」

声をかけてきたのは、樽のように太った初老のドワーフだった。記憶によると、隣の部屋に住む石工職人のバルドらしい。

「ああ、そのつもりだ」

「相変わらず真面目だな。まあ、お前さんは革職人だっけか」

バルドは鼻で笑った。

「地味な仕事だが、まあ頑張れよ」

「……ああ、ありがとう」

地味な仕事、という言葉に少し引っかかったが、コウジは笑顔で返した。

どうやらこの世界でも、革職人は鍛冶師に比べて一段低く見られているらしい。

「まあ、いいさ」

コウジは工房への道を歩き続けた。

職人地区は、常に金属を叩く音で満ちていた。カンカンカン、と規則正しいリズム。炉から立ち上る熱気。飛び散る火花。ドワーフたちは誇り高く、それぞれの工房で武器や防具を作り続けている。

その喧騒の中、通りの端にある小さな工房だけが、妙に静かだった。

「……ここか」

コウジは工房の前で立ち止まった。

看板には『見習い工房七番』とだけ書かれている。名前すらない。

扉を開けると、埃っぽい空気が鼻を突いた。

「うわ、汚ねえな……」

工房の中は散らかっていた。革の切れ端が床に散乱し、道具は整理されていない。作業台には半端な仕事の跡が残っている。

「元の持ち主、あんまり真面目じゃなかったのかな」

コウジは溜息をつきながら、まず掃除を始めた。

床を掃き、道具を磨き、作業台を拭く。散らかった革の切れ端は、使えそうなものと使えないものに分ける。

三時間後、工房はようやく人が働ける状態になった。

「ふう……」

額の汗を拭いながら、コウジは工房を見回した。

小さいが、必要なものは揃っている。作業台、革包丁、目打ち、針、糸。炉もあるから、革を乾燥させることもできる。

「よし、じゃあ素材を確認するか」

工房の隅には、ギルドから支給された素材が積まれていた。主に家畜の革――牛や山羊に似た生物の皮を鞣したもの。

コウジは革を一枚手に取った。

『素材解析』


【家畜牛の革】

品質: 普通

特性: なし

付与可能効果: なし

備考: 最も基本的な革。練習用に適している


「特性なし、か。まあ、練習用ってことだな」

コウジは革包丁を手に取った。

前世では何千回、何万回と革を切ってきた。だが、この太く短い指での作業は初めてだ。

「さて、体に覚えさせないとな」

コウジは革を作業台に置き、まっすぐな線を引いた。そして、革包丁で切る。

――ズレた。

「おっと」

まっすぐ切ったつもりが、微妙に曲がっている。

「指の長さが違うから、感覚がズレるのか」

コウジはもう一度挑戦した。

今度は少しマシだが、まだ完璧ではない。

「もう一回」

何度も、何度も、革を切る。

失敗するたびに、革は小さくなっていく。

「くそ、もったいねえ……」

だが、諦めるわけにはいかない。

十回、二十回、三十回――

『基礎裁縫スキル熟練度が上昇しました』

「おお、やっと」

五十回目で、ようやくまっすぐな線が引けた。

「これだ、この感覚」

コウジは満足そうに頷いた。

次は、革に穴を開ける練習。目打ちで等間隔に穴を開けていく。

これも、最初は間隔がバラバラだった。

だが、何度も繰り返すうちに、徐々に感覚がつかめてきた。

「よし、次は縫製だ」

針に糸を通し、革を縫う。

サドルステッチ――革細工の基本的な縫い方。二本の針を使い、両側から交互に糸を通していく。

「っと……」

針が指に刺さりそうになる。

「危ねえ。集中しないと」

前世では当たり前にできていたことが、この体ではまだできない。

もどかしさを感じながらも、コウジは黙々と作業を続けた。

気づけば、外は暗くなっていた。

「もう夜か……」

コウジは作業台に散らばった失敗作を見た。

曲がった革、間隔のバラバラな穴、ほつれた縫い目――

「全部失敗だな」

だが、コウジは落ち込まなかった。

失敗は、成長の証だ。

「明日も頑張ろう」

コウジは工房を片付けて、部屋に戻った。


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