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革職人のおじさん転生したらドワーフだったので最高の武具を作ります。  作者: 爆裂超新星ドリル


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第1話「革職人の転生」

夕暮れの商店街に、革の焦げる匂いが漂っていた。

小路孝二は自分の工房――と呼ぶには手狭な、六畳ほどの作業場――で、古びた革ジャケットの補修に没頭していた。蛍光灯の白い光が、皺の刻まれた手元を照らしている。

五十三歳。独身。跡継ぎもいない。

「まあ、こんなもんか」

針を置き、完成した仕事を光にかざす。元の持ち主が学生時代から三十年も着続けてきたという革ジャンは、孝二の手によって見事に蘇っていた。破れた肩口は継ぎ当てで補強され、色褪せた部分には丁寧に染料が塗り込まれている。

職人として、悪くない仕事だ。

だが、それだけだ。

孝二は小さく息をついた。窓の外では、シャッターを下ろした店が並んでいる。かつて賑わっていた商店街は、大型ショッピングモールに客を奪われ、今では人通りもまばらだ。

「俺の人生も、この商店街みたいなもんかな」

誰に言うでもなく呟いて、孝二は作業台を片付け始めた。革包丁、目打ち、菱目打ち、糸、針――三十年使い続けた道具たちを、一つ一つ定位置に戻していく。

壁に掛けられた時計が午後七時を指している。

「今日も一人か」

孝二は工房の明かりを消した。

外に出ると、秋口の冷たい空気が頬を撫でる。煙草に火を点けようとして、ふと思い直した。最近、咳が出る。健康診断でも「タバコは控えめに」と言われていた。

「まあ、いい歳だしな」

未練がましく煙草の箱を眺めてから、ポケットにしまう。代わりに缶コーヒーの自販機に向かおうとした、その時だった。

「きゃあああああ!」

甲高い悲鳴が、静かな商店街に響き渡った。

孝二が振り返ると、交差点の向こうで若い女性が転んでいる。買い物袋の中身が道路に散乱し、その先には――トラックが猛スピードで迫っていた。

ブレーキ音が耳を劈く。

女性は恐怖で動けずにいる。

「危ねえ!」

孝二の体は、考えるより先に動いていた。

全力疾走。五十過ぎの体には堪える。膝が悲鳴を上げる。それでも足を止めない。あと少し。手が届く。女性を押し倒す。自分の体が宙に浮く感覚。

――ああ、間に合ったか。

良かった。

次の瞬間、世界が真っ白になった。

痛みはなかった。

ただ、不思議と後悔もなかった。

三十年間、革ジャンや財布の修理ばかりで、誰かに心から感謝されることも少なかった人生。でも、最後に一人だけ、誰かを救えた。

「まあ、悪くない最期だったかな」

孝二の意識は、静かに闇に沈んでいった。

   *

「お疲れ様でした、小路孝二さん」

気がつくと、孝二は真っ白な空間に立っていた。

いや、立っているという表現が正しいのかも怪しい。足元には何もなく、周囲も上下左右の区別がつかない純白の世界。まるで、雲の中に浮いているような感覚だった。

「……夢か?」

「夢ではありませんよ」

声がした。

孝二が振り向くと、そこには――何と表現すればいいのか――人型ではあるが、輪郭がぼんやりと霞んでいる存在が立っていた。性別も年齢も判別できない。ただ、その存在から発せられる圧倒的な「格」だけは理解できた。

「あなたは……」

「神、と呼んでいただいて構いません」

神と名乗る存在は、穏やかな声で続けた。

「小路孝二さん、あなたは人を助けて亡くなりました。大変立派な最期でしたよ」

「ああ……そうか、死んだのか」

記憶が蘇る。トラック。女性。自分の体が宙に浮いた感覚。

「即死でしたから、苦しみはなかったはずです」

「そうですか」

孝二は妙に冷静だった。恐怖も、後悔も、不思議とない。ただ、何となく納得している自分がいた。

五十三年。長くもなく、短くもない人生だった。

「さて、小路孝二さん。あなたには善行の功徳がありますので、特典として次の人生を選ぶ権利が与えられます」

「次の人生?」

「はい。転生、とでも言いましょうか」

神は手を上げると、孝二の周囲に無数の映像が浮かび上がった。中世風の街並み、巨大な城、空を飛ぶ竜、剣と魔法――

「異世界ってやつですか」

「ご存知でしたか」

「まあ、暇な時にネットで小説くらいは読みますから」

孝二は苦笑した。こんな歳でも、たまに異世界転生ものを読んでいた。まさか自分がその立場になるとは思わなかったが。

「では話が早い。小路孝二さん、あなたはどんな人生を送りたいですか?」

「どんな、って言われても……」

孝二は少し考えた。

勇者になって魔王を倒す?いや、五十過ぎのおっさんにそんな柄じゃない。魔法使い?興味はあるが、自分には向いてなさそうだ。

「俺は……革職人だったんで」

「ほう」

「その、異世界ってのにはモンスターとかいるんでしょう?だったら、そういう素材を使って、武器とか防具とか作ってみたいですね」

孝二は照れくさそうに頭を掻いた。

「前の人生じゃ、革ジャンとか財布の修理ばっかりでしたから。もっと、こう……本格的なものを作ってみたかった」

「職人としての人生、ということですね」

「ああ。派手じゃなくていい。ただ、いいもんを作って、それを使ってくれる人が喜んでくれる。そういう人生がいいです」

「素晴らしい」

神は満足そうに頷いた。

「では、あなたの希望を叶えましょう。モンスターの素材で武具を作る職人としての人生。それに相応しい種族は――そうですね、ドワーフが良いでしょう」

「ドワーフ?あの、背が低くて髭が長い……」

「はい。彼らは生まれながらの職人です。あなたにぴったりでしょう」

神は続けた。

「それと、特別に『鍛冶の加護』と『裁縫の加護』を授けます。スキルツリーも用意しましょう。これで金属加工も革加工も両方できますよ」

「それはありがたい。でも……」

「ただし」

神は少し楽しそうに言った。

「あなたの見た目は、前世の年齢相応のドワーフになります。つまり、五十代のおじさんドワーフですね」

「は?おいおい、若返りはなしかよ」

「あなたの魂の年齢に合わせた方が、違和感が少ないでしょう?それに、若造より中年の職人の方が、説得力があるというものです」

「まあ……言われてみればそうですが」

確かに、五十過ぎの魂で十代の体というのも気持ち悪い。

「では、準備は整いました。良い人生を、小路孝二さん――いえ、これからは『コウジ』と名乗るのが良いでしょう」

「コウジ、ですか。まあ、覚えやすくていいかな」

「それでは、行ってらっしゃい」

神が手を振ると、孝二の意識は再び闇に沈んでいった。

今度は、恐怖も不安もなかった。

ただ、かすかな期待だけがあった。


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