第9話 2人目の獲物①
珠凛は目を丸くした。
「で、できるけど。したくない……。ウチ、蒼空くん初めてだし。他の人のイヤなの。あの、それにおじーちゃんの遺言で、一本しか入れたらダメって」
遺言だったら、チ◯コよりも他に語るべきことが沢山あるような気がするが……。さすが珠凛じーちゃんだ。ま、単位は『本』じゃなくて、せめて『人』でカウントしてあげてくれ。
んー。困った。
ハニートラップのハニーがチキンすぎる。
「じゃあ、ちょっと誘惑するくらいは?」
「がんばるけど。手を繋いだりが限界かも」
限界性能低っっ。
連日のセックス漬けで、俺に依存させすぎたか?
これは、珠凛の性能に合わせてプランを練らねば。どうせリベンジするんだ。徹底的にやってやりたいところだが……。
さて、どうしよう。
俺は訓練時代のノートを取り出した。
パラパラとめくっていると、珠凛がもたれかかってきた。
「蒼空くん。あいつらに復讐したいの?」
あいつ『ら』に、ちょっと前までアンタもいたんだけどね。
「あぁ。その予定。珠凛も手伝ってくれるか?」
「ほんと、アイツらヒドイよ。許せない!! ウチ、がんばるから!!」
繰り返すが、お前もヒドイ奴らの一員だからね?!
すると、珠凛がポンと手を叩いた。
「ウチ、良いこと思いついた!! ウチの友達に瞬(斉藤)のこと好きな子がいるから。告白してもらって付き合ってもらうの」
「それで?」
「んで、瞬さ。たぶんウチに気があるんだよ。3回くらい告白されたし」
「それ、『たぶん』じゃないと思うぞ?」
「うふふ。嫉妬してくれてるの? ……それでさ、両想いになったら、ウチが瞬に告白するの。それで、瞬がウチを選んだら、酷い振り方するの……どう?」
珠凛は友達に何か恨みでもあるのか?
瞬よりも無関係の友人の方がダメージ大きいと思うぞ。
「酷い振り方って。どういうの?」
「え、えと。蒼空くんとイチャイチャして見せつける!!」
「いやさ、おまえ。よくそんな酷いこと思いつくな。普通に斉藤が可哀想だろ(笑)」
すると、珠凛は立ち上がって人差し指を立てるとプンプンした。
「そんな甘い事いってちゃダメ!! 必要ならウチらのエッチみせつけてもいいし……。想像したら、ちょっとゾクゾクするかも……」
「……」
……なんか楽しそうだな。この人。
兄姉といい珠凛といい、俺の周りにはサイコパスしかいないんだが?
俺の不安をよそに、珠凛は続けた。
「じ、じゃあさ。グローブ捨てるのは? あいつのグローブ、おじいちゃんの形見かなにかで、すごく大切なんだって」
「……おまえ、よくそんな酷いことばっか思いつくなぁ」
うちの軍師が陰湿すぎて怖い……。
まぁ、そういうのでも良いんだけど。
なんかもっと。
俺は樹兄との会話を思い出していた。
……。
「なあ、ブタ。人が絶望するのがどんな時か知ってるか?」
「イジメられた時とか?」
「お前なぁ。そんなだからブタなんだよ!! お前はあの時、本当に逃げ道がなかったか?」
「いや。高校辞めたり、引きこもったり?」
「ひゃはは。さすが人生の負け犬だな。あ、負けブタか。あの時、お前は殴り返すこともできたよな? でもやらなかった。それはある意味では帰責性なんだよ」
「あいかわらず、意味わからないんだけど」
「わからねーのか? ほんと愚鈍なブタだな。鳴いてみろよ」
「ブヒ……ぐすっ」
「ギャハハ。いい泣きっぷりだぜ。あのなあ。人を最も絶望させるのは喪失だ。人生における喪失。その多くが回避不能で理不尽だからな。失恋、死別、色々あるが、オススメは目標の喪失だ。そいつが頑張ってるほど、ダメージがでかいからな。見ていて愉快極まりないぞ?」
俺はノートのページをめくった。
すると、こんなことが書いてあった。
「謀略① 相手の夢を壊す」
俺は珠凛に聞いた。
「なぁ、斉藤って確か、のど飴好きだったよな。あれまだ舐めてるの?」
「ん? いつも舐めてるよ。トレーニング前のルーティーン? なんだって。何。飴に毒でも入れるの?」
(毒とか、相手死んじゃうじゃん。サイコパスこわいよ……)
「じゃ、下剤とか?」
珠凛がまだ何か言っているが、無視無視。
うん。喪失……今回はこれでいくか。