第7話 1人目の獲物④
俺は珠凛を追いかけた。
このまま帰して死なれでもしたら、俺が兄姉に殺されるのだ。だから、最低限のフォローはしないと。
「おい、ちょっと待てよ。珠凛」
振り向いた珠凛は泣いていた。
「なんだよ、ウチをメチャメチャにしてスッキリしただろ? お前、ほんと最低ブ……最低なヤツ」
こいつ、いま、ブタって言おうとしてなかったか?
「お前に言われたくねーし。あのさ、お前らが陽葵にしたこと覚えてないの?」
「颯がしたことじゃん。ウチには関係ないし」
「ふーん。覚えてないんならいいけど。陽葵が撮られた写真。珠凛のも同じようなのがあるんだけど。これ、お前の母親に送っていいの?」
珠凛は俺を睨みつけた。
「ママのアドレス知らないくせに」
俺はスマホの画面を見せた。
そこには新規メールがあり、宛先には珠凛の母親のアドレスが入っている。
事前にそのへんは下調べしてある。
コイツだけじゃない。他の4人の家族関係、交友寛解、連絡先等、全て調査済みだ。
珠凛は口を押さえた。
「なんで知ってるんだよっ!! このケダモノっ。いいよ。言うこと聞くよ。レイプでもなんでもすればいいじゃん……」
しねーよ。
俺は今日、愛のないセックスは無感動だということを知ったばかりだし。
こいつ、俺が追ってきた趣旨を理解してないみたいだ。俺はな、お前が早まらないように……兄姉が怖いから追いかけてきただけなんだよ。
咲姉に叩き込まれた正攻法スキルが役に立つといいんだけど。
「いいからついて来い」
さて、どうしたものか。
まずは、こいつの服か。ボタンも取れてるしスカートに血がついてる。
俺はまず服屋に行った。
珠凛のために選ぶのも、時間をかけるのも面倒臭い。
つか、周りの客にチラチラみられてウザいんだが。
「すいません、店員さん。あのマネキンが着てるの丸ごとください。サイズはMで」
珠凛は状況が飲み込めないらしい。
「命令だ。あの服に着替えろ」
珠凛が着替えてくると、大きな紙袋を持っていた。重そうだ。そう思った次の瞬間、俺は無意識に紙袋を奪い取っていた。
おいおい。
咲姉の訓練が過酷すぎて、身体が勝手に動くんだが。
「あ、ありがとう……。あのね、ウチ、こんな服着せられて、どっかのオジサンとかに提供されるの?」
あー。
性接待とかウリをやらされると思ってるのか。
「そんなんじゃねーよ。俺の気まぐれに付き合わせるだけだ」
こいつ、股間が痛いみたいだし、歩き回るのはよくないか。そんな訳で、結局、飯を食いにいくことにした。
(あ、いつのまにか先に行きすぎてた。歩調あわせないと……)
事前に珠凛の好物はリサーチしてある。
こいつの好物は、ずばりピザだ。
俺は評判のいいイタリアンの前で足を止めた。
「ここ、ここで飯に付き合えよ。断ったらわかってるだろーな?」
すると、珠凛は笑った。
「はいはい。わかりましたよ。一緒にご飯すればいいんだよね?」
おい。珠凛よ。
なぜこの場面で口調が柔らかくなる?
意味がわからん。
席につくと、珠凛はキョロキョロしていた。
店内の装飾が物珍しいらしい。
「珠凛さ。お前、アスパラ苦手だったよな?」
「え、あ、うん」
俺は珠凛が好きそうなピザとサラダと、ジンジャーエールを2つ頼んだ。コイツは、ジンジャーエールに特別な思い入れがあるらしい。
会話が弾むこともなく、淡々と食事してると、珠凛はジンジャーエールをゴクリと飲み込んで、言った。
「あのさ、外にいる時は、アンタのことを何て呼んだらいい?」
「別に何でもいいけど、ご主人様とかブタはナシで」
「あ、うん。じゃあ、蒼空くん。あのさ、蒼空くん」
「あ?」
「今日、ずっとウチのこと見ててくれたよね。歩いてる時はペース合わせてくれるし、ウチが車道側にならないようにしてくれるし、段差があると手をもってくれるし、重い荷物もってくれるし、犬のうんち落ちてたら教えてくれたし……」
「いや、うんちは普通に教えるでしょ」
「あはは。うん、さっきはあんな酷いことされて、蒼空くんは、最低やろーだけど。ウチが会った男の子で一番優しかった……」
しまった。咲姉に叩き込まれた血反吐のでる反復練習のせいで、女性の取り扱い方法を無意識に実施していたっぽいぞ。
珠凛は言葉を続けた。
「あのさ、さっきの住所のとこに行ったら、蒼空くんがいるの? 他に怖い人いたりしない?」
「ああ。さっきも言ったけど、アレばら撒かれたくなかったら、明日から毎日、奉仕しに来いよ」
すると、珠凛は微笑んだ……ように見えた。
「そうだね、脅されてるから仕方ないもんね。あんなのばら撒かれたら困るし。仕方ないから、ウチ、明日から、蒼空くんのとこ行こう……かな」
あれっ?
思わぬ展開だけど、珠凛は明日からご奉仕に来るらしい?
経緯は違うが、とりあえずは目的達成だ。
明日から気合いをいれて犯し続けてやる。ふふっ。1週間もあれば、絶対服従の都合のいい手駒に仕上がるだろう。
すると、珠凛がトイレに立った。
やべっ。咲姉に教えられたんだ。女子が離席したら、さりげなく会計するんだっけ。
「店員さん。会計お願いします!!」
俺がフロアスタッフを呼んでいると、遠くで見ていた珠凛に笑われた。
何なんだ? あいつ。
変なヤツ。




