第4話 1人目の獲物①
ざっと見たところ、クラスの三分の一くらいは一年と同じメンツだった。残り三分の二も復讐の対象だったんだがな。
すると、1人の女の子が話しかけてきた。
身長小さめで大人しそうな女の子。黒髪で三つ編みを髪留めにして後ろで纏めている。メガネがよく似合ってて、目立つタイプではないが、顔はなかなか整っている。
「あ、あの。はじめて見たんですけど、転校生の方ですか?」
「いや、去年からいたんだけど。家の事情で休学しててさ。久しぶりに来たんだよ。きみ、名前は?」
「わ、わたしは。花鈴っていいます!! 西谷 花鈴です。キャッ」
「あー、俺は蒼空。月見里 蒼空。よろしくな」
そういうと花鈴は友達の輪の中に戻って行った。
……こいつは仕込みだ。
咲姉の知り合いの妹で、たまたま俺と同じ高校だったから紹介してもらった。どういう知り合いかは分からないが、姉さんの頼みなら何でも言うことを聞く奴隷だとかなんとか。
相手は5人だ。正直、おれ1人じゃキツい。
だから、花鈴にも手伝ってもらう予定だ。
とんだ茶番だが、俺にいきなり知り合いがいると不自然だからな。……お約束ってことで。
さて、珠凛はまだかな。
今日は颯は家の用事で休みらしい。事前に花鈴を通じて確認している。珠凛をターゲットにするなら、邪魔が入らない今日がベストだ。
今のうちに手順を確認しておくか。
俺は咲姉の言葉を思い出した、
「いい? 珠凛が、あなたに気づいてちょっかいを出してきたら脈アリよ。それは、ドーパミン分泌による扁桃体刺激と大脳皮質の葛藤……、要はブタと侮っていた相手に関心を持ってしまった自分自身にイラついている証拠。その子が自覚してるかは分からないけれどね。話しかけてきたら、まずは普通に紳士的に対応して2人きりになる時間を作りなさい……油断させるの」
すると、タイミングよく珠凛が入ってきた。
クラスのヤツらと再会の挨拶をしているようだ。
キャアキャアと楽しそうにしている。
……珠凛は意外にも友達多い。
あんなクソ女なのだ。その友達も同類なのだろう。
すると、珠凛は俺に気づいたらしく、チラチラとこっちを見はじめた。そして、案の定、スタスタと勝気な足取りでこっちにきた。
(きたきた。咲姉の言った通りだ)
珠凛は値踏みをするように俺の周りをうろつくと、話しかけてきた。
「蒼空……。ふぅん。ブタがしばらく顔を見せないと思ったら、なんか雰囲気変わったじゃん。生意気。ま、どうせ、今年もウチらのオモチャなんだろうけれど。あ、どうしてもっていうなら、優しくしてもらえるように、颯に頼んであげよーか?」
珠凛は、表面上こそ余裕の笑みを浮かべているが、所作に落ち着きがない。俺をみてイライラしてるようだ。
……咲姉の言った通りだ。
顔と身体がちょっと良いだけの性悪クソ女。
作戦では、もっと時間をかけて油断させるつもりだったが、こんな女に時間を使うこと自体が面倒になってきた。早々に終わらせるか。
俺は珠凛を見上げると、うなじのあたりをいじり、落ち着きのない仕草を装った。
「……あのさ、俺、すごく怖くてさ。ちょっと颯が来る前に頼み事があるんだけど。2人で話せないかな?」
珠凛はニヤニヤした。
「……珠凛さん、お願いします、だろ。このブタが」
珠凛は悦に入っているらしい。
頬は紅潮して、目も潤んでいる。
少しマシになった俺にマウントをとれて、さぞ嬉しいのだろう。さて、ご希望通りに演じてやるか。
「珠凛さん。マジでお願いします……。昼休みに、ここじゃ周りの目もあるし、体育館裏に来てください」
珠凛は一瞬迷った素振りを見せたが、OKした。きっと、人目がないところなら、遠慮なく暴力で、俺にマウントを取れるとでも思ったのだろう。
……鍛え上げられたこの身体を見られる前で良かったぜ。
俺はスマホを開いた。
(……これを見た時のアイツの顔を想像すると、笑いが止まらない。ヒャハハ)
その後の授業は普通に受け、昼休みを待った。
昼休みになると、俺は花鈴に手順を説明して、体育館裏に向かった。
階段を降りると、珠凛が1人で待っていた。
(ふっ。はははは)
ほんとに1人で来やがったよ。
バカな女だ。
さて、楽しいショーの始まりだ。