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第27話 3人目の獲物④


 「いや、たまたまダイエットで鍛えてるだけだよ」


 小春はニコッとした。


 「ふうーん。中等部の入学時の知能テストで歴代最高値を叩き出した人が、涼おにいと同じ学年にいるって話だったけれど……」


 「なにそれ? 食べれるの? っていうか、そんな個人情報ど真ん中の事項は秘匿されているだろ? それに、そもそも学年トップは颯だぞ?」


 おいおい。

 コイツは何で俺の黒歴史を知っているんだ……?


 「フフ。動揺してる……。ボクも知能テストで高得点をとった時に、先生が「上には上がいる」って教えてくれたんだよ。颯クンとも何度か話したことがあるんだけど、どうもピンとこなくてさ。この人は違うなって思ってた。だから、いつかその高得点の君に人に会いたいなって思ってたんだ」


 小春は身体をすり寄せてきた。

 甘えるように話し続ける。


 「でね。今日、蒼空クンと話して確信した。キミでしょ? それにその肉体。文武両道? 内緒には、それなりの理由があるってことかな……?」


 なんなんだよ。この子。

 やりづらい……。


 それに、手加減してる訳じゃなくて、本当にできないのだ。俺は、その昔、父さんに何かを言われた樹兄が泣いているのを見てしまった。そして、その日を堺に、どんどん自分が自分じゃなくなって、気づけば、本当に色々なことができなくなっていた。


 「……まぁな」


 「んで、ボクのこと襲わないの? 心と身体の準備はできてるのだけれど」


 「そんな大歓迎みたいな顔されたら、襲う気も失せるし。んでさ、今日はなんで俺について来たわけ?」


 実際には、俺の方が連れ込まれたのだが。


 「んー。お願いがあるの」


 小春は、更に甘えた口調になった。

 どうやら、ロクなことじゃ無さそうだ。


 「なに?」


 「涼おにいのこと、やっつけて」


 「……へ? あ、やっぱそれ以上の事情的な事はいいや」


 聞かなくて良い話が始まる予感しかしない。

 しかし、小春は勝手に話し続けた。


 「涼おにいはね。昔はあんなじゃなかったんだ。優しくて。でもね。おにいは、どんなに頑張っても、颯クンに勝てなくて。ウチは貧乏なのに、両親が頑張って私立に入れてくれて。ボクの学費もあるし、きっと心配をかけてる」


 「でも、小春なら奨学金とってるだろ?」


 「そうだけど。特別奨学金じゃないし。特別奨学金は、通常の奨学金と重ねて申請できないんだよ?」


 「なるほど」


 「それに、それでもお金は色々かかるし……。おにいは勉強では、勝てないのに負けることもできない。そのうち、頑張りすぎて、今みたいになっちゃった」


 聞かなければ良かった……。

 小春は続けた。


 「だから、おにいと颯クンをテストでぶっ飛ばして欲しいの」 


 闇雲に山口を庇うつもりではないらしい。


 「いや、俺は凡人だから」


 「歴代最高のキミが、凡人な訳ないじゃん。あ、わかった!! 実は本当の力は封印されていて、生娘の純潔で解放される的な設定なんだね?」


 勝手にへんな設定を作らないで欲しい。


 でも、たしかに。

 小春とは話していて、親近感を感じる。


 コイツなら、分かるのかな。


 「なぁ、小春。お前は、周りに遠慮したことはないのか? 自分が存在しているだけで、一生懸命やってる奴の邪魔になってしまうというか」


 小春は、いつのまにか勝手に頼んでいたハニートーストを頬張りながら答えた。


 「ん。普通にあるよ。ボク、天才だし。涼おにい、プライド高いし……。んで、そういうのを克服したいの?」


 自称する天才に初めて会った。


 「あぁ」


 「じゃあ、やっぱ蒼空クンは、今日、ボクと致す必要があるんじゃ? 封印を解くために……」


 この人、その設定引っ張るね。


 「いや、間に合ってますんで」


 まぁ、どうやら俺の邪魔をするつもりは無いらしい。


 「小春の頼み。もともとそういうつもりだったし。山口のことは頼まれるまでもないよ。でも、後悔しても知らないぜ?」


 小春は頷くだけで、肯定も否定もしなかった。


 部屋代がもったいないので、そのあとはゲームをしてカラオケをして、普通に過ごした。


 あ、そういえば。


 「さっき、颯もぶっとばしてって言ってたけれど、なんで?」


 「……あまり好きじゃないから?」


 なるほど。あまり深い意味はなさそうだ。


 出口に向かう廊下で、小春にまたキスをされた。


 「一度は偶然だけど、二度なら意図的だね? ってことで、連絡先交換しよっ♡」


 二度とも不意打ちなのだが。


 「わかった。でも、春男っていう男の名前で登録していい?」


 普通に登録したら、珠凛が泣きそうだ。


 「ひっどーい」


 小春は頬を膨らませて、腕を組んでくる。



 ホテルから出ると、思わぬ人が待っていた。


 「あ、涼おにい」


 それは、山口 涼だった。

 山口は俺を睨みつけた。


 「蒼空。てめぇ。何してんだよ」


 いつものニヤけている山口ではなかった。

 まぁ、妹がブタとラブホから出て来たのだ。心中穏やかじゃないよね。


 山口は小春の方を見た。


 「どういうことなんだよ。小春」


 小春はチラッと俺の方を見てから、答えた。


 「男女がホテルから出て来たんだよ? することなんて一つしかないよね? ちなみに、蒼空キュンと来るの初めてじゃないし、今更驚かれても困るし」


 おいおい。

 この人、何を言い出すんだ!?


 山口が鬼のような顔をしているぞ……。

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