第26話 3人目の獲物③
小春は自らパンツを下ろした。
「きっと、ボクか涼おにいの弱みか何かを握りたいんでしょ? ジタバタしても仕方ないし、初体験がこんなっていうのも、運命なのかなって」
えっ?
話がおかしな方に進んでいるぞ。
俺としては、ちょっと脱がして写真を撮るくらいで……、山口に勘違いをさせられれば十分だったのだが。そのためにも、ジタバタして泣き叫んで、恐怖の表情をして貰わないと困る……。
それに、こんな街中だし。
あまりこの場に長居はしたくない。
「いや、ここじゃ、いつ人が来てもおかしくないし。それに小春ちゃんも相手はちゃんと選んだ方が……」
小春はスカートをたくし上げた。
「呼び方っ!! 「ちゃん」は要らないから。ボク、初めてでやり方がよく分からないから、リードして欲しいんだけど……ボクはね。人を見る目には自信があるんだ。蒼空クンはきっとボクの好みの性格だし……、ヤリ捨てはイヤだけど、次があるなら最終的には仲良くなれると思うし」
「いや、意味がわからない……」
「だーかーらー。そう考えれば、今、結ばれても過程が少し変わるだけだし。えっと、そういうの苦手なら、場所を変える? 蒼空クンの家とか」
小春は怯えている様子はない。
むしろ、俺に配慮しつつも、この状況を楽しんでいる気配すらある。
それに、小春を家に連れて行ったら珠凛がいるだろうが。大変なことになるぞ。
「いや、それはちょっと。ウチは困るんだが。えと、俺は、あ、そうだ。用事があったんだった。そろそろ帰らないと」
本当に試験の対策もしたい。
俺は身体を翻した。
(とりあえず、相手が変人すぎる。計画を練り直して出直しだ)
「ちょっと!! 待ってよ。逃げないで」
小春に右手首を掴まれた。
「いや」
「パンツも脱いだのに、この状況で逃げられるとか、女として、ちょっと凹むんだけど。むーっ。煮え切らないなぁ」
小春はそう言うと、グッとおれの腕を引っ張った。そして、そのまま俺の手の平を自分の左胸に押し付けた。
ほぼ同時にキスもしてきた。
強引に舌を入れてくる。
小春の唇は、甘酸っぱくて、いちご飴のような味がした。
「……はぁはぁ。まさか、こんな何の変哲もない放課後に、しかも知らない好みのお兄さんに突然ファーストキスを奪われるとか、ボクもビックリだよ」
いや、ビックリなのはこっちの方なんだが。
この人、前向きすぎる。
「あの、おれ。用事が……」
すると、小春は頬を膨らませた。
「ヤリ捨てとか、最低な男の子がすることだよっ。帰りたいなら、しっかり次の約束もすることっ!! それとも、ボク相手じゃ興奮しないの? 顔が好みのタイプじゃないとか?」
俺は改めて小春を見てみた。
そして、現に揉んでいるボリュームのある胸。
「いや、むしろ好みの部類……」
「部類……ねぇ。キミは面白い言い方をするね。もしかすると、他に本命がいるのかな? でも、蒼空クンの身体は、言葉とは裏腹に、興奮してるみたいだよ?」
そういうと、小春は俺の下半身に手を添えた。
「ちょっと」
小春は指先を、俺の首筋に伝わせる。
「でも、ボクはそれでもいいよ。複数のメスと後尾して優秀な子を遺そうとするのは、生物のオスとしては、むしろ自然な反応だし。ボク、子ができたら、キミのために産んであげてもいいよ? キミとボクなら、きっと可愛くて優秀な子が……」
産まれたらむしろ困るのだが。
いや、もちろん、本人が希望するなら、無理やり堕ろさせる気もないが。中3じゃ早すぎる。
(イヤイヤ。そういうことじゃなくて……)
さっきから、すっかり小春のペースだ。
俺は、先日の斉藤の言葉が脳裏に浮かんだ。
「あ、妹ちゃん、いい子なんだけど。ちょっと変わってるっていうか。噂では櫻狼はじまって以来の天才児らしいぜ? ま、気をつけてな」
あの言葉の意味は、こういうことだったのか。
天才かは分からないが、小春は相当に変わっている。
すると、小春がプーっと頬を膨らませた。
「ボク、久しぶりに対等に話せそうな相手に出会えて、すごく高揚しているんだよ? この気分の責任とって。ボク、きっとファーストキスの相手にこのまま捨てられるんだ……」
そして、エーンっと目を擦る。
「いや、そんなつもりは」
「キミがヤリ捨て男じゃないなら証明してよ。場所を変えよう♡」
ヤリ捨てってか、まだ何もしてないし!!
そんな訳で、俺は今。
なぜかラブホにいるのだ。
制服なのに、何故か普通に入れてしまった。
落ち着かない。
とりあえず、ソファーに座ろう。
シャワールームからは、シャーと身体を洗う音が聞こえてくる。
スマホは、珠凛から無数の着信が入っている。
暫くすると、キュッと水栓をひねる音がして、パタンと折れ戸が開く音がした。
脱衣所から出てきた小春は、裸にバスタオルを巻いていた。
「小春。服は?」
「んー、ボク、汗かいちゃったし。少し乾燥させてから着ようかな」
小春は俺の横にちょこんと座ると、俺の身体に触れた。胸からお腹、腰の辺りにかけて、ツーっと指を這わせて、最後には手を重ねた。
そして、ニマニマして言葉を続けた。
「発達した大胸筋……。相当に鍛えてる。拳の皮膚も硬化していて……。ねっ。蒼空くん。能力を隠しているでしょ?」