第25話 3人目の獲物②
ウチらは学食のボックスシートに座っている。
目隠しにもなるし、ちょうどいい。
山口について情報収集をしとくか。
「山口って、家族構成どんななの?」
すると、斉藤が教えてくれた。
「山口は確か……兄と妹がいたな。兄は、まぁ……色々とアレだけど、妹ちゃんは良い子だぞ。山口もなんだかんだ言ってるが気にかけているし、櫻狼学園の中等部だから、気になるなら自分で見てきたらどうだ?」
「何年生?」
「中3。あそこの校舎の3階だ」
斉藤は、校庭を挟んだ反対側にある校舎を指差した。中等部校舎は、ずっと建て替えをしていて、俺が中学の時は仮校舎だった。去年に完成したばかりで、機会があれば見学したいと思っていたが、まさかこんなに早くその機会がくるとは。
ところで、色々アレって何だろう。
アレな部分がすごく気になる。
「他には何かあるか?」
「ちょっと関係ないかもだけど、アイツの家、経済的に厳しいらしくてさ。特別奨学金もあるし次の期末テストにかけてるらしいぜ」
ふむ。
山口へのリベンジは、そのへんから攻めるか。
国内トップの進学校化を目指す櫻狼学園では、通常の奨学金とは別に特別奨学金制度がある。中等部•高等部を通じて年間1人の選出だが、選ばれた生徒は、学費に加えて学食や学用品、交通費などの費用も付与される破格の待遇と、トップを証明するピンバッチを付与される。
ただし条件は厳しく、主要5科目で各学期の各定期試験で全て総合1位をとならなければならない。一回でも2位になれば、その時点でその年の資格を失う。
学年による違いは総得点を基準として総合的に調整されるものの、異なる学年•テスト間での勝負となるため完全な平等とは言えず、かなり難易度の高い条件となっている。特別奨学金制度は、同一人が複数回うけることは出来ず、受給者は翌年以降の同制度の順位からは除外される。受給は難しいが、いわば+αの制度であるため、概ね好意的に受け止められていた。
昨年度は颯が特別奨学金を取得し、山口は辛酸をなめた。そのため、今年は必死に目指しているらしい。
山口を勉強で倒すのは元から計画していたことだ。しかし、ただテストで勝っても足りない。そこで、俺は特別奨学金の取得を妨害することにした。
そして、山口の妹……山口にとって大切な存在は陽葵と同じ目にあわせてやる。
俺は早速、山口の妹を観察にいった。斉藤がいうには名前は小春というらしい。しばらく待っていると、それらしい女の子が出てきた。
思いがけずの美形だ。黒髪は肩の上ほどで、目が大きい。肉体の発達も中3とは思えない。友達との話題も豊富で明るい性格だが……相手に会話を合わせているのだろうか。会話が時々、噛み合っていない。
IQに20以上の差があると、対等な会話が成立しないと聞いたことがあるが……俺は何故かその話を思い出した。
その数日後、俺は小春に話しかけた。
「あの。山口 小春さん? 俺、お兄さんの友達なんだけど……」
高等部の制服を着ていたので、小春は簡単に信じてくれた。子犬のようにちょこちょこと付いてくる。
「えっと、月見里さん? どこに行くんですか?」
「呼び方は蒼空でいいよ」
「あ、あの。蒼空くん。ボクは小春っていいます。呼び捨てしてください。あの、学校での涼おにいの話きかせてくれませんか?」
2つも下なのにクン付けかよ。
俺は山口について、当たり障りのない話をした。
こまったな。
すごく良い子だ。正直、山口と同じ遺伝子を引き継いでいるとは思えない。
情が沸いてもやりづらくなるか。
「キャッ」
俺は小春を建物の陰に連れ込んだ。
ここなら、殆ど人は通らないだろう。
小春の胸を鷲掴みにすると、大きくて柔らかかった。ヒップも形がいい。小春は暴れたり、声をあげたりはしなかった。
「……蒼空くん……月見里くん。ホントは涼おにいのことよく思ってないよね。ボクほんとは、おにいがしてること、少しは知ってるんだ」
コイツは、山口が俺や陽葵にしたことを知っているのか? 自分の中に怒りが込み上げるのを感じた。
「……で?」
「いいよ。……ボクのこと好きにして。でも、お兄のことを許して欲しいかな。あ、あと、ボク、そういうの初めてだから痛くはしないでね……」