第21話 2人目の獲物⑬
足音が近づいてくる。
沙也加の席は、最前列の窓側にある。
息を潜め隠れていると、沙也加が目の前で立ち止まった。俺の目の前には沙也加の足がある。
会話に夢中なのだろう。
俺が視界に入っていないらしい。
俺は息を止めた。
(たのむ。さっさと行ってくれ……)
すると、俺の視界の上から下へ何かが落ちた。
「あ、ヘアピン落としちゃった。どこいったんだよ」
沙也加はそう言い、膝を屈めようとした。
(やば)
「おい、お前ら」
それは斉藤の声だった。
斉藤は不機嫌そうに続けた。
斉藤の声に反応して、沙也加の足は、声の方に歩いていった。
「沙也加、また夏美に嫌がらせするつもりなのか?」
「そんなのじゃないし」
沙也加は否定したが、斉藤は怪訝そうな声を出した。
「信じられない」
(信じてやれよ、斉藤。沙也加はお前のために、スケスケ黒パンツまで持ち歩いてるんだぞ?)
沙也加は声を荒げた。
「ほんとだし。桐葉を探しにきただけだし。萌、こんなヤツ放っておいて、行こう」
あぁ。
桐葉を探しにくるとは予想外だったわ。
沙也加達が出ていくと、斉藤が言った。
「蒼空。もう出てきていいぞ」
「なんだよ。気づいてたのかよ」
「さっき、お前が教室に向かうのを見かけてよ。気になったんだよ」
「そか。わりぃ。助かったわ」
「んで、細工は済んだのかよ? ま、お前だけ危ない橋は渡らせられないからな」
へぇ。律儀なところがあるんだな。
さすが、元人気者のアスリートってところか。
斉藤は軽口を叩いてくる。
俺には仲の良い同性の友達はいないが、男友達っていうのは、こんな感じなのだろうか。
俺は斉藤の肩を叩くと、帰路についた。
帰り道、斉藤が缶ジュースをおごってくれた。
相変わらずムカつくが、斉藤は簡単に裏切るタイプではなさそうだ。特に今回の件では、裏切ることにデメリットしかない。
俺は、今回の計画の全体像を斉藤に話すことにした。
家に帰ると珠凛が待っていた。
裸エプロンだ。
俺に気づくと、こっちに駆け寄ってきた。
「お帰りなさい。まずは、ウチにする?」
「いや、それって普通は、ご飯とかお風呂とか、選択肢あるんじゃないの?」
「ヤキモチばっかりやかせる蒼空くんには選択肢はありません!!」
そして、おれは学生服のまま、珠凛に跨られている。事が済むと、息を切らしながら珠凛が言った。
「あのね、ウチ。さっき好きって言っちゃったけど……、返事というかレスポンスは、蒼空くんのリベンジが終わってからでいいから」
珠凛なりの気遣いらしい。
「そっか。ありがと。ところでさ」
「ん?」
「一度も避妊したことないけど、心配にならないの?」
ま、咲姉からもらったクスリの効果で、できることはないのだが。
すると、珠凛はなぜか頬を桜色に染めた。
「えと、蒼空くんのがお腹の中に広がる感じが好きなのと、ウチ、別にできてもいいかなって」
「どういうこと?」
「ウチ、子供の頃、家族でいた記憶がなくて。ずっと本当は家族団欒とか、そういうのに憧れてて。ようやくママに優しそうな恋人ができて。パパできるかと楽しみにしてたら、あんな人で」
俺は珠凛の頭を撫でた。
コイツにも色々ありそうだ。前に両親は離婚って言ってたけれど、父親がどこの誰かも知らないらしい。この前は面倒だと話を聞いてやらなかったけれど、今度、時間ができたら、ちゃんと聞いてみるか。
「……そっか」
「もし、蒼空くんの赤ちゃんできたら、ウチ世界一可愛がるから!! ニセモノじゃない、本物の家族ができたら嬉しいなって」
珠凛は、俺との結婚を求めるようなことは言わなかった。
珠凛は続けた。
「蒼空くんはズルいよね。ウチを裏切らせないために、いつも優しくしてくれるんでしょ? そんな蒼空くんを好きになっちゃう、ウチもどうかと思うけれど」
気づいてたのか。
この子、何気に賢いんだよな。
まぁ、確かに、最初は珠凛の言う通りだったけれど。今は、珠凛を手放したくないと思っている。
俺は、ただ無言で珠凛を抱きしめた。
夕食を終えると、珠凛はお風呂に行った。
俺はテーブルの上に沙也加のスマホを取り出した。パスワードは掛かっていたが、ロック解除は容易だった。
まずGPSをオフにして、俺が作ったダミーページにログインし、ログイン状態を維持するように設定した。
そして、本当の沙也加のマイページも改ざんする。
ブラウザの履歴を見ていると、アダルト系のサイトに出入りしている記録が残っていた。そこはアダルト系の投稿サイトだった。動画投稿して、視聴者が購入すると報酬が発生するらしい。
投稿サイトのパスワードは厳重で突破できなかったが、ここに出入りしているということは……。
(何かの動画や写真を持っていそうだ)
アルバムを覗いてみると、ビンゴだった。
簡単なパスワードのシークレットフォルダがあり、中には自撮りと思われる写真や動画が並んでいた。
セルフヌードや動画。
中には自慰行為、局部が丸見えのものもあった。
「あははは」
やばい、笑いが止まらない。
瓢箪から駒というが、最高に面白い物を見つけたぞ。