第2話 アイツらを許さない。
俺には兄と姉がいる。
文武両道、才色兼備、神童、天才。これらの言葉を、そのまま生物に仕立て上げたような2人だ。
2人とも国内屈指の国立大に入り、在学中に司法試験合格、そして首席で卒業した。今や兄は医療ベンチャーを立ち上げながらも現役の医師、姉はモデルをしながら最先端分野の研究職についている。
兄も姉も学生、社会人、それぞれの過程で常にカーストのトップだった。そんな兄姉のせいで、俺は常に比較され、劣等種の烙印を押されてきたのだ。
よくある、優秀だが人格者で頼り甲斐のある兄や姉という存在。
なにそれ。
美味しいんですか?
……もちろん、うちの兄姉は、そんなものではない。
最悪に性格が悪い。
だから、俺は2人の事が大嫌いだった。
向こうも俺のことが嫌いらしい。
あれから俺は、復讐のために必死に考えた。そして、辿り着いた最悪にして最良の結論は、コイツらに頼ることだった。
優しくても無力では、復讐の役には立たない。今の俺に必要なのは、クソでも頼れる強さをもった存在。……つまり、コイツらなのだ。
そしていま、俺は自宅の自室で、半裸で正座をしている。目の前には、兄と姉が俺を見下すように椅子に座っている。
兄の樹は、高笑いするように言った。
「この豚が。お前がカスだと俺らにも迷惑がかかるんだよ」
姉の咲は、汚い物を見るような目つきで、言った。
「ほんと。コイツと私らの遺伝子が繋がってるって、最低なんだけど。……んで、何?」
俺は事情を説明した。
すると、樹兄はため息をついた。
「はぁ……俺はお前の言い分が理解できないんだが? 豚にブヒブヒ鳴かせるのは当然のことじゃないか?」
咲姉は甲高い声で笑った。
「ほんと。勉強も見た目も本人の努力次第でしょ? 自業自得じゃない。あんた改善する努力はしたの?」
「努力って言ったって……才能のない俺にはどうしようもないじゃないか。才能の塊のアンタらには分からねぇよ。俺の気持ちなんて」
咲姉は足を組み替えた。
「ほんと、わが弟ながらにクズすぎる。だからブタなのよ。復讐したいんでしょ? 本気ならブヒって言ってみなさいよ。このブタが!!」
俺には、この2人に頼る以外の方法は残されていない。だから、従うしかない。
「……ブヒブヒ」
くそ。死にたい。
すると2人は腹を抱えて笑った。
「マジうけるんだけどぉ。ブタがブヒブヒって。あはは」
これじゃ颯と変わらないじゃないか。俺はあまりの情けなさに、涙が止まらなくなった。
すると、咲姉が言った。
「ホントは、1人でマスでもかいてろって言いたいところなんだけどね。陽葵ちゃんの件、それは見逃せない」
樹兄も低くてくぐもった声を出した。
「あぁ。許せないな。本来なら、俺らで颯とやらに鉄槌を下したいところだがな。兄だしな。ここは、ブタの言う事聞いてやるか。ただし、条件がある」
「条件って?」
「まず、お前はこれから一生、俺らの奴隷だ。死ねって言ったら笑って死ぬような奴隷。わかったな?」
やっぱりコイツら最悪だ。
悪魔に魂を売り渡すとは、まさしくこのことだろう。だが、俺にはコイツらの力が必要だ。
「……ああ」
俺が頷くと、樹兄は続けた。
「それと、どんなに憎くても相手を殺すな。そのかわり、社会的に殺してやれ」
咲姉が言葉を続けた。
「あのね。殺人犯の弟とか、わたしらにも悪影響あるでしょ? だからダメ。ブタの復讐心とわたしらの人生じゃ、どう考えてもバランスとれないし。約束できる?」
「……わかった」
無力な俺は、コイツらに頼るしかないのだ。
不本意だが、仕方ない。
咲姉は、言葉を続けた。
「ま、なんでも我慢じゃブタが可哀想ね。その女。珠凛だっけ? その子は犯してもいいわ。ただし、自分で股を開くように堕としなさい。いいね?」
あぁ。たしかに。
珠凛を性の捌け口にしたら気分が良さそうだ。
樹兄が続けた。
「咲はホント趣味がわりーな。俺が他の女にそんな事したらどーすんの?」
「え、それは無しでしょ。わたし普通に泣くし。おにぃだけはそういうのダメ」
えー。
コイツらの関係。つまりは、そういうことなのだ。
お互いにお互い以上の異性を見つけられないらしい。ま、俺には関係のないことだが。そんなクズの2人だが、なぜか陽葵のことは気に入っていた。
だから、颯が陽葵にしたことは許せないらしかった。俺は言った。
「でもさ、持って生まれた才能が違うじゃん。俺はどう逆立ちしても、アンタらみたいにはなれない……」
樹兄はせせら笑った。
「だからブタなんだよ。努力ってもんは、他人と比べるためにするんじゃねー。ただ純粋に自分のポテンシャルを引き出すための方法の一つにすぎねーんだよ」
「意味がわかんないんだけど」
「おまえ、FPSの俺らのランキング知ってるだろ?」
FPS。つまり、あるゲームジャンルでも、こいつらはトップランカーなのだ。文武両道だけでなく、遊についても最高ランク。
クズだが、スゲーとは思う。
「トップランカーだよな」
「あぁ。蒼空。何か気づかねーか?」
「わからない」
「だから、お前はいつまでたってもゴミブタなんだよ。ちっ。陽葵のためだ。特別に教えてやる。人生ってゲームもな。要はFPSと一緒なんだよ。俺がお前に……人生ってゲームに勝つ方法を教えてやる」
樹兄は続けた。
「ま、俺も奴隷が優秀な方が何かと便利だしな。俺らがお前を、そこそこにしてやる。軟弱なお前にはな。きっと死ぬほどつれーぞ。ついて来れるか?」
「ああ。根を上げたりはしない。アイツらまとめて地獄に落としてやる」
俺の言葉に咲姉が答えた。
「んじゃあ、アンタはまず休学しなさい。いまは7月だし、まだ間に合うわね。アンタが次に学校に行くのは2年生になってから。いいわね?」
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