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第19話 2人目の獲物⑪

 午後の授業を受けながら、周りの様子を伺う。休み時間になると、元一年A組の連中が大挙して押し寄せてきた。


 俺としては、忌わしい顔ぶれだ。


 ヤツらは俺の横をスルーして、珠凛の方に集まった。


 「珠凛、久しぶりっ」


 「やほやほぉ。今日は、皆、ありがとうねっ!!」


 そう。コイツらのことは、珠凛が呼んだのだ。


 「ううん。珠凛の親友でしょ? うちらにも友達みたいなもんだよぉ」


 「うん。この子が、夏美ちゃん。みんな仲良くしてねっ」


 夏美の周りに人が集まって賑やかになっていく。クソみたいなヤツらだが、数合わせくらいにはなる。とりあえず、これで、夏美を少数派にしないで済む。


 ……多数派同調バイアス。

 多数派に同調したいという心理現象だ。逆を言えば、少数派には同調しにくくなる。つまり、夏美が少数派では、俺が何かしても効果が低い。


 これでクラスのヤツらは、夏美はクラス外にも友人が多いのでは?、と感じるだろう。現状では、形式的にでも、夏美を少数派にしてはならない。


 沙也加は、前のように萌と桐葉を従えているが、夏美の様子が気になるのだろう。チラチラ見ながら陰口に精を出している。


 最近は、誰かしらが夏美の周りにいる。しかも、珠凛と花鈴の切り崩しが功を奏し、その人数は次第に増えてきている。そのため、沙也加は、夏美に満足に話しかけることすらできていない。かなりフラストレーションが溜まっているハズだ。


 舞台は整ったな。

 そろそろ頃合いか。

 


 おれは、見慣れぬ赤いスマホをポケットに入れると、そう思った。



 斉藤に声をかけた。


 「そろそろ頃合いだ。よろしく」


 斉藤は息を大きく吸うと、夏美の目の前に立った。斉藤は身長が180以上ある。その斉藤が移動したものだから、周囲の視線が一斉に集まった。


 斉藤は頭を下げて大声をあげた。


 「夏美っ。ごめんっ。おれのせいだ!!」


 「え? なになに? 斉藤が何かいうらしいぜ」


 クラスがザワザワする。


 斉藤は大きく息を吸った。



 んっ。

 俺は違和感を感じた。

 山口だ。櫻狼ファイブの1人。山口 涼が、俺らを見ている。


 颯と山口と東宮が居ないタイミングを見計らったのだが、山口は先に戻ってきていたらしい。


 山口は俺と視線が合うと、ニヤリと笑った。

 イヤな予感がする。


 俺は斉藤を制止しようとしたが、すでに遅かった。


 「みんな、聞いてくれてっ!! 俺は夏美を振り回した。夏美が好意を持ってくれてるの知ってて、珠凛を襲おうとしたんだよ」


 すると、珠凛が立ち上がった。


 「斉藤!! 嘘つかないでよっ!! 襲おうとしたんじゃなくて、襲ったじゃん。胸も揉まれたし……。初めてだったのに。忘れようとしてたのに、皆んなの前で言うなんて酷いよ……」


 珠凛は顔を真っ赤にして怒ると、そのままへたり込んで泣いた。その話を聞いて、夏美も泣いた。


 皆の視線が一斉に斉藤に集まった。


 「マジかよ」、「人間のクズ」、「なんか野球部でも不正してたって噂、本当なんじゃない?」


 様々な意見が飛び交う。

 しかし、俺が欲しい発言がない。



 まだか?

 場がしらける前に、その結論に至ってほしい。


 モタモタしてると、山口に妨害されるかも知れない。

 


 すると……、誰かが言った。


 「夏美が可哀想。完全に被害者じゃん」


 きた!

 俺は夏美に同情的な意見を待っていたのだ。


 もはや、天秤は夏美の方に傾いている。

 こうなれば、後は、はやい。


 「夏美は斉藤にもてあそばれた可哀想な子」


 すぐさま、これがこのクラスの通説になった。


 ……山口の方は、退屈そうにアクビをしている。よかった。アイツが絡んできたら、かなり厄介なことになるところだった。


 そして、俺は沙也加のダミーページに、予め、ある投稿をしておいた。その投稿の鍵を外し公開範囲を「全体」に変更する。通知のタイミングについては、先行しないように細工をした。


 投稿内容はこうだ。


 「N美のスマホ、アイツ、マジでウザいから捨てることにした♡」


 すぐさま、何人かのスマホが光り、数名は俺の裏アカの通知に反応した様子だった。夏美の周りにいた女子の1人が言った。


 「ねぇ。夏美。スマホある?」



 夏美はカバンをゴソゴソして、顔色を変えた。



 「どうしよう。スマホがない」

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