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第17話 2人目の獲物⑨

 

 翌日から、珠凛と花鈴は、いつも夏美と居てくれた。花鈴は、元から不仲ではなかったので、さほど不自然でもないだろう。


 珠凛と張り合う必要がなくなったからか、夏美は髪色も戻し、珠凛に対する態度も随分と軟化している。


 これなら2人に任せても大丈夫そうだ。



 珠凛に聞かれた。


 「ウチ、夏美のそばにいるよ。これで、夏美への嫌がらせはエスカレートしないね?」


 珠凛は夏美と不仲なイメージだったが心配そうな顔をしている……ほんとお人好しだ。


 「ああ。あと、お前にはもう一つ頼みたいことがある。沙也加の取り巻きが2人いただろ? もえ桐葉きりはだっけ? お前は、この2人に接触してくれ。やって欲しいことは……」


 珠凛は頷いた。


 萌と桐葉は、沙也加の取り巻きだ。沙也加といつも3人でつるんでいる。2人の中の、くせ毛のショートカットの方。萌が今回のターゲットだ。そして、その誘導役には、櫻狼ファイブとして、クラスの女子に一目置かれている珠凛が適任だろう。


 ククク。

 颯よ、お前の威光を利用させてもらうぜ。


 すると、花鈴が首を傾げた。


 「あの……わたしは?」


 「お前は、桐葉と仲が良かったよな」


 「うん、仲は悪くはないかな」


 「桐葉って、どんな性格だ?」


 「うーん、悪い子ではないよ。正義感強い一面もあるし……」


 俺の調べと一致している。


 「じゃあ、お前は、桐葉に接触してくれ。具体的には……俺が指示したタイミングで桐葉を連れ出して欲しい」



 さて……と。


 俺は、沙也加のSNSアカウントを探すとするか。すると、本名の植村 沙也加で簡単に見つかった。丁寧に顔写真まで使っている。


 バカだな、こいつ。


 そこで俺は、それに酷似したマイページを作り、顔写真だけ沙也加が好きだというクマのイラストににして鍵アカウントにした。


 タイトルはこうだ。


 「さーちゃんの2年◯組、ホンネの話を晒します。※くれぐれも内緒でね♡ 仲良くない子からリクエストが来ても承認しません」


 内緒と書いておけば、沙也加に見つかるまで、ある程度の時間稼ぎはできるだろう。すぐに見つかっても困るが、見つからないのも困る。


 ネットリテラシーも何もない感じだが、沙也加のタイムラインを見ている程度の層には、このページの存在自体が、刺さるかも知れない。


 まず、珠凛と花鈴にフォローとイイネをしてもらい、その他、何人かのダミーアカウントを友達登録する。これで、2人と繋がったクラスの奴らには、自然な形で、このページの存在が伝わるだろう。


 つまりこれは、他の奴らからすれば、存在は知っているが鍵付きで中身を見れない裏アカということだ。もしリクエストがきても、承認しなければ、自動的に、そいつは仲良くない友達ということになる。


 俺は早速、いくつかの記事を投稿した。


 「わたし、本当は野球部のSくんが好きなんだけど」、「Sくんの幼馴染気取りのNがムカつく」、「友達のMの癖毛がダサい」、「今日、マネージャーの仕事をNに押し付けてやった」


 他、いくつかを追加した。



 あと、は。


 皆が見ている前で、斉藤とつるむようにする。


 正直、はらわたが煮えくり返る程イラつくが、今回の作戦には必要なことだ。周囲の奴らには、落ちぶれた斉藤が、同じくボッチの月見里オレとつるんでいるように見えるだろう。


 周りを見渡すと、クラスの雰囲気は珠凛の言う通りだった。斉藤は完全に孤立状態。沙也加が吹聴してるふせいで、夏美は斉藤が退部したとばっちりに加え、斉藤以外の人気の野球部員達にも色目をつかうアバズレというイメージが定着してしまっている。野球部員に推しがいる女生徒にとっては、さぞ、夏美は疎ましいことだろう。



 「斉藤、学食いこーぜ?」


 俺が誘うと、斉藤は気まずそうに答えた。


 「ん。俺なんかといて、いいのかよ?」


 「良くないけど、作戦だからな。仕方ないだろ」


 俺は元からボッチだからな。

 誰といようが悪化のしようもない。


 「……そか。悪いな」


 斉藤は申し訳なさそうに答えた。


 

 そんなことを数日繰り返してるうちに、斉藤の口数が増えてきた。


 「蒼空。お前さ。珠凛のこと好きなんだろ?」


 「は? そんな訳……」   


 斉藤は俯いた。


 「そうだとしてもよ。俺、珠凛に手を上げた。ごめん。好きな女が殴られたらイヤだよな」


 こいつ、人の話を全然きいてない。

 俺と珠凛はそんじゃない。そう。いわばご主人様と性奴隷。そんな感じだ。


 斉藤は話を続けた。

 

 「ま、それならそれでいいけど。俺も今回の夏美のことで、よく分かったわ。好きな女が傷付くのは、やっぱつれーわ」


 ん。

 やっぱり、コイツらは両想いなのか。


 斉藤は言葉を続けた。


 「俺さ。爺さんがプロ野球選手で、親父が甲子園いったじゃん? 周りの期待が凄くてさ。でも、俺は期待される程の才能なくて」


 「だって、お前、エースだっただろ?」


 「死に物狂いで練習してたからな。でも、やればやる程、上達する程に、自分の限界がわかっちまうんだよ。天才って言われてる奴らには、死んでも勝てないって。だからしんどくてさ。蒼空のせいで今は最悪な状況だけど、どこかで解放されたことにホッとしてるんだわ」


 そんなもんなんかね。

 俺から見れば、斉藤も十分に才能があると思うけれど。



 斉藤は用事があるというので、俺は1人で教室に戻ることにした。


 すると、階段の踊り場に珠凛と萌がいた。

 俺は姿を隠して様子を伺うことにした。


 珠凛はすごいな。

 誰でも仲良くできるみたいだ。


 「んでさ、夏美って、色々言われてるじゃん。ちょっと前まで派手だったし、ヤリマンとか、野球部員に色目使ってる淫乱とかさ」


 珠凛がそういうと、萌が答えた。


 「うん、露骨にはヤリマンとまでは言われてないけど、……ちょっとムカつくよね」


 珠凛は萌の手を握り、大きく頷いた。


 「うんうん。ちなみに、萌は野球部に好きな人とかいるの?」


 「いや、わたしが好きな人は剣道部に……。あ、あと、月見里くん。ちょっとカッコいいなぁって」


 フフッ。

 俺も自分の知らないところで、噂話をされる存在になったか。今までも噂には事欠かなかったが、ブタとかキモイとか、そんなのばっかりだったし。


 モテる男はつらいぜっ。


 すると、珠凛が怪訝そうに言った。


 「ふーん、でも、アイツはやめた方がいいよ? 去年までブタさんだったし」


 「えーっ。幻滅っ!! 月見里くんはないわーっ」


 くそっ。珠凛め。なんの嫌がらせなんだよ!!

 俺の評判を下げろなんて指示はしていないのだが。


 珠凛はなぜかご機嫌に戻って話を続けた。


 「ホッ……ってことは、萌は夏美には直接に被害受けてないのかぁ。あ、じゃあさ、質問。萌は夏美のこと、どれくらい好きですかぁ? 1、大好き 2、ちょっと好き 3、それ程は好きじゃない 4、嫌い」


 前は悩んでいる。


 「うーん、嫌いとまでは言い切れないかなぁ……。わたしは、3かな?」


 「そかそかぁ。ウチも3かなあ。同じだね!! 萌とウチと同じで、好きだけどそれ程じゃないんだね。まぁ、今回のことがあるまで、皆、夏美には色々助けてもらってたしね。ウチ、消しゴム借りたことあるんだ」


 「えーっ。珠凛もなの? わたしも実は助けてもらったことあるんだよぉ。その時、沙也加の機嫌が悪くてさ。そしたら、夏美が……」


 すると、珠凛がおもむろにスマホを取り出した。


 「あ、そういえばさ。ウチ、SNSでこんなの見つけたんだよ。『さーちゃんの2年◯組、ホンネの話を晒します。※くれぐれもここでの話は内緒でね♡』」


 萌が覗き見る。


 「へぇ。え、これって……」 

 

 「どこの高校とか書いてないんだけど、なんか沙也加のマイページに似てない?」


 珠凛がそう言うと、萌は頷いた。


 「あ、このクマのイラスト。沙也加が好きなキャラだよ。これ、絶対、沙也加の裏アカでしょ。でも、鍵ついてる」


 「ウチ、ダメもとでリクエストしてみたら、承認されちゃったのっ」


 「へぇ。珠凛、櫻狼ファイブだもんね。沙也加といる時間は、わたしの方が長いのにな……」


 珠凛は小声になった。


 「それでね。ちょっと、気になる書き込み見つけちゃって。これを見せていいか分からなくて、さっきの質問したんだよ。萌は沙也加派なのかなぁって。もし、沙也加と萌が険悪になったら、ウチ困るし。んでね、これなんだけど……」


 珠凛は萌にスマホを見せた。

 すると、数秒して、萌は手に持っていたヘアピンを落とした。


 「「友達のMの癖毛がダサい」って、何これ……」


 萌は自分のくせ毛を気にしている。

 そのためにショートカットにしているくらいなのだ。


 珠凛が答える。


 「え? まさか。 Mって。萌のM?」


 「マジ。沙也加、アイツさいてーなんだけど。こんなとこで、お友達集めて、みんなで私のこと笑ってたんだ……」


 珠凛はうろたえる。


 「え、ウチ。余計なこと言ったかな……。でも、違うMの子かも知れないし、萌は沙也加と仲がいいからきっと承認されるし。うちリンク送るから、萌も友達リクエストしてみなよ」


 萌がスマホを操作すると、俺のスマホにリクエストがきた。


 もちろん『拒否』だ。


 すると、萌が声を荒げた。


 「わたし拒否された!! ありえない。ほんと沙也加、さいてーなんだけど」


 珠凛がなだめる。


 「何かの間違いかも知れないし。とりあえずは、今まで通りで行こう……ね?」

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