表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】転生モブ王女はナレ死の未来を回避したい! ~破滅フラグを折りまくっていたら、いつの間にか愛され王女になっていました~  作者: ミズメ
第二部 ナレ死は絶対お断り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/81

32 見知らぬ場所


***


 なんてひどい夢だろう。涙がボロボロと頬を伝う。

 その感覚で、わたしはハッと目を覚ました。


「……っ」


 喉が詰まり、息がうまく吸えなかった。胸が苦しくて、呼吸が浅くなる。夢の中で見た光景が、まだはっきりと脳裏に残っている。


 わたしは、知ってしまった。

 あの泉の前に立っていた、もう一人のリリーベル。彼女の死の理由を。

 胸が締めつけられ、涙が止まらなくなる。ぽろぽろとこぼれ落ちる涙を拭う余裕もなく、わたしはただ瞬きを繰り返した。


 涙でにじんでいた視界が、ゆっくりと落ち着いていく。最初は揺れに合わせて輪郭が溶けるように曖昧だったのに、何度か瞬きをするうちに、少しずつ形を結び始めた。


 天井は低く、布張りで、見覚えのある離宮の寝室とはまるで違う。壁際には小さな窓があり、厚手のカーテンが揺れを抑えるように留められている。外の景色はほとんど見えず、わずかな隙間から夜の闇が流れてくるだけだった。


(あれ……? ここ、どこだろう)


 そう思ったとき、また身体が揺れた。今度ははっきりと分かる。前後に、規則正しく続く動きだ。床から伝わる振動が、足先までかすかに響いている。

 わたしは息を整えながら、ゆっくりと上体を起こした。すると、座面の感触が柔らかく沈み、同時に革の匂いが鼻をかすめる。


 馬車だ。

 なぜだかまるでわからないけれど、わたしは馬車に乗っている……?

 状況を確かめようとして、反射的に身体を動かそうとした。その途端、手首に走った違和感に息を詰める。


「……え」


 思わず視線を落とすと、両手が前でまとめられ、固く縛られていた。布越しでも分かるほど、きっちりと力を込めて結ばれている。引けば引くほど食い込み、ほどける気配はない。


(なに、これ)


 頭の中が一気に白くなる。夢の続きなのか、それともまだ覚めきっていないのか。そう思いたくて、何度か指を動かしてみるけれど、現実は変わらなかった。

 胸が早鐘を打ち始める。


 答えの出ない疑問ばかりが浮かび、喉がひくりと鳴った。そのときだった。

 向かいの座席で、影がゆっくりと動いた。

 暗がりに溶けていた人影が、身体を起こす。衣擦れの音が小さく響き、わずかな灯りに照らされて、顔の輪郭が浮かび上がった。


「あら、ようやく目が覚めたのね」


 その声は落ち着いていて、驚くほど穏やかだった。まるで、こちらが混乱していることなど最初から分かっていて、それを気にも留めていないかのような調子だ。

 わたしは息を詰め、縛られた手に力を込めたまま、その人物を見つめ返す。


「アーデルハイド王女殿下……?」


 この場所にいるはずがない、隣国の王女がそこにいた。

 どうして、この人がここに……?

 全然理解が追いつかない。


 豪奢な外套に身を包み、馬車の揺れにも微動だにしない姿勢で、こちらを見下ろしている。その瞳は澄んでいるはずなのに、冷たく光っていた。

 わたしはどうやら、馬車の床に転がされているみたいだ。


「ここは、どこですか」


 わたしは喉を鳴らし、必死に言葉を探した。さきほどまで見ていた夢があまりにも生々しく、その余韻で頭がうまく働かない。なんとか上体を起こすので精一杯だ。


 昨夜はわたしの生誕を祝う式典で、とても温かく華やかだった。泉で少し心を落ち着かせた後、いつものようにロザリナたちに就寝の挨拶をして、わたしは寝台に向かったはずだ。


 いつもとは違う香の匂いがして、少し不思議に思ったことを覚えている。そっと自分の身体を確認する。確かに、昨晩身につけた夜着だ。

 アーデルハイド王女は、わたしを見下ろして小さく笑う。


「あなたに説明する必要はないわ。ただ、取引の場だと思ってくださる?」


 取引。その言葉に、胸が強く波打つ。

 彼女はゆっくりと足を組み、余裕のある仕草で続けた。


「正直言って、あなたの存在がすっごく邪魔なの。わたくしの計画が何一つ上手くいかないわ。せっかく侯爵家を手に入れることができるところだったのに!」


 アーデルハイド王女の声には、苛立ちが隠されていなかった。長い間、思いどおりにいかなかった不満を、そのままぶつけてくるような響きだった。


「わたくしはね、ちゃんと筋道を立てていたのよ」


 王女は指先で外套の縁を軽くなぞりながら、つまらなさそうに息を吐く。


「グーテンベルグの侯爵家と婚姻で関係を固めて、次に我が国に有利な条件を引き出す。その流れは完璧だったのに全部ダメになったわ、あなたのせいで。綺麗な物は全部、わたくしの物なのに」


 アーデルハイドはにっこりと笑っている。その瞳には底知れぬおそろしさがあった。

 それに、グーテンベルグの侯爵家というのは、これまでのことから考えてキース様のことを指していると分かる。


 昨日の夜会で、アーデルハイド殿下はローラント兄様にエスコートされていた。それでも、途中で気分が悪くなったと中座されてしまったと聞いた。


「あなたの計画は知りませんが、だからといってこうした行動を起こしてどうなるのでしょう。離宮には人がいたはずで……そうです、彼女たちは⁉︎」


 わたしはハッと息を呑む。


「侍女たちは、どうなったのですか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i1050295
■ 『転生モブ王女はナレ死の未来を回避したい!① ~破滅フラグを折りまくっていたら、いつの間にか愛され王女になっていました~ 』
書籍になります!web版から加筆修正のうえ、ほっこりシーンやキースの番外編などなど加筆しておりますのでぜひ*ˊᵕˋ*
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ