プロローグ
ぽかぽかと陽の差し込む離宮の一室。
窓辺に飾られた花が、風にそよいで優しい香りを漂わせていた。心地よい空気の中で、わたし──リリーベルはソファに身を沈めている。
寝台にいると、すぐに「休め」と言われるので、ここが唯一の安全地帯だ。
「リリー、顔色が悪いね。さっき冷たい水に触れた? 念のため治癒魔法をかけようか」
「ちょ、ちょっと待って、ルーク兄様」
金髪がきらりと揺れる。わたしの手を取り、光の魔力を練り始める兄を慌てて制止した。
「本当に大丈夫なの。少し外で作業しすぎただけだから、治癒魔法はもったいないです」
「でも、万が一ってことがあるかもしれない。リリーは体が弱いから……」
「もうすっかり元気になって、ほんとにほんとに大丈夫ですから!」
渋々手を引っ込めたルーク兄様は、どこか納得がいかない様子でわたしの頬を覗き込んでくる。その様子が可笑しくて、思わず笑いそうになった。
ふいにガシッと体が持ち上げられる。今度はローラント兄様だ。赤髪の兄がひょいっとわたしを抱き上げ、ソファから寝台へと移そうとしていた。
「ちょ、ちょっとローラント兄様! どうしたんですか!?」
「無理をするな! リリーも座っているより横になった方が楽だろう?」
「だ、大丈夫ですから。運ばないでいただけると!」
「いや、よくない!」
やれやれとばかりにわたしを降ろしたローラント兄様は、わたしが枕に倒れ込むと毛布までかけようとする。何という過保護ぶりだろう。
「お兄様たち、もう少し落ち着いてくれないかな……?
「……二人とも、ご兄妹とはいえ少し距離が近すぎるのではありませんか?」
優雅な声が割って入る。
黒髪に金の瞳――キース様が、笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。
笑顔のはずなのに、どこか寒気がするのはなぜだろう。
「リリーはかわいい妹なんだから当然だろう?」
「また寝込まないようにしているだけだ!」
そんなキース様に、ルーク兄様とローラント兄様が声をそろえる。
「……兄妹よりも婚約者の方が大切ですよね? リリーベル」
「え、ええっと……!」
鋭い目つきの三人に囲まれて、わたしはあわあわとした気持ちで自ら布団を頭からかぶった。
(ど、どういうことなんだろう! 選択をなにか間違えたのかな……!?)
最初は三人ともリリーベルに冷たかったはずだ。
なにがどうしてこうなったのか、今では三人とも過保護を極めてしまっている。
ルーク、ローラント、キース。それぞれにまるで宝物のように扱われる日々。
(とりあえず、死の運命は回避できていますように!)
過保護の渦の中で、わたしは幸せな未来がずっと続くようにと、強く願う。
それでも、最初の頃に比べたらずっと息がしやすい。そう思ってしまうほど、前世の記憶を思い出した二年前は本当にひどかった。
***
いずれ過保護たちに囲まれるハッピーエンドの物語です。ブクマ、★★★★★評価など、適宜していただけると嬉しいです(*^^*)