噂は続くよどこまでも
騒動から数日が経ち、町中に噂が広まってしまい、レジ担当の人達は、買い物客から根掘り葉掘りと聞かれて、大変だったようだ。
店長のあの話は、どうやら本当だったらしい。
会社側から遺族へ、使い込んだお金を全額返済するように訴えたとの話だ。
店長は結婚してまだ間も無く、子供は居ないとの事だが、私は奥さんを気の毒に思った。
結婚してすぐ旦那に先立たれ、しかもあんな亡くなり方で、挙げ句に、多額の借金を背負わされるとは……
店長の奥さんはつい最近まで、私達の同僚で、レジ担当で働いていた人だ。
朝のロッカールームでは相変わらず、パートのおばちゃん達が噂話に華を咲かせていた。
「昨日、やっと葬儀終わったらしいよ」とレジの森谷さんが口火を切ったのを皮切りに、おばちゃん達が代わる代わる喋り始める。
「しっかし、店長もとんでもないことしてくれたもんだね」
「使い込んだ金、何に使ったんだろね」
「ギャンブルじゃないの?」
「 愛人にでも貢いでたんじゃないの?」
「いや、嫁もグルだったんじゃない?」
などと、無責任に根拠の無い憶測話で盛り上がっていた。
店長の葬儀は家族葬、いわゆる密葬だった。
葬儀には参列できないので、従業員から香典だけでも出そうかと、パートさんの間で話し合いになったが「会社の金を横領した奴に出す必要がない」との声が多数だったので、結局出さずに終わった。
私と沙織ちゃんは、おばちゃん達の会話に混ざる事なく、淡々と制服を来て持ち場へ移動した。
ロッカールームを出ると沙織ちゃんが「堀内さん、明日って仕事終わったら時間ありますか?」
と声をかけてきた。
「明日?明日、私休みの日だわ。なんかあった?」
「店長のお家にお参りに伺おうかと……
一緒に行ってもらえませんか?」
「え、あ、大丈夫だよ。」意外な誘いにどぎまぎしてしまった。
「家の事やってからで良いかな?」
「はい。まず、奥さんに連絡入れて、都合の良い時間聞いてから、折り返し、堀内さんにメールしますね。」
「了解!じゃ、連絡待ってるね」と、それぞれの持ち場へと向かう。
お稲荷さんを作りながらも、気もそぞろ。
(店長の家に行くのかぁ)
緊張感とも違うんだけど、なんか変な気持ち。
刻々と時間は過ぎ、“夕方ヒロイン”になる時間だ。
(ふぅ、今日はそんなに見切り品無かったなぁ。)
仕事を終えて帰宅。
今日の夕食は素麺にしよっと。