夕方ヒロイン
昼休憩の後、急いで持ち場に戻って、追加の助六寿司を作り、売り場に補充した。
「 げっ、唐揚げも売れちゃって無いじゃん」
(揚げ物めんどいなぁ)
「 時給もらってるんだから頑張ろう」と自分に渇を入れ、フライヤーを点火。
なんやかんやで、もう“見切り”の時間。
夕方に、売れ残りそうな惣菜や弁当に値下げのシールを貼る作業なんだけど、それを待ち構えてる方達がいるわけで。
私が値下げシールを手に、バックヤードから華々しく売り場へ登場すると、まるでスターが現れたかのように目を輝かせながら数名のお客様が私の行動に固唾を飲んで見守っている。
作業を終え、コーナーを離れるやいなや、さっきまでスターだった私は用無しになり、我先にと値下げシールが貼られ惣菜を物色し始める。
無事、本日の任務終了。退勤の時間だ。
残った仕事は遅番の小川さんに任せよう。
「小川さん!フライヤーの洗浄お願いしていいですか?私、もう時間なんで」と声をかけると、「はい、はい」とこちらも見ずに返事をする。
(『はい』は一回でいいっつうの)
やっと家に帰れる!いそいそとタイムカードのある事務所へ向かうと……
事務所のドアの前に広本君が佇んでいた。
「お疲れ様です」私が声をかけると、広本君は、はっとした表情で「あ、お、お疲れ様です」と返した。
「事務所に一人で入るのためらうよね。私、霊感とかないけど、人が亡くなったばっかりの部屋に入るの、やっぱり気持ち悪いよ」と言うと、広本君はうなずくだけだった。
「なにっ?もしかして広本君、霊感ある人!?」と少しテンション高めに私が言うと、「ないっすよ」と表情も変えずにポツリと言った。
(冷めてるなぁ)
「堀内さん、事務所に用事ですか?」と聞いてきたので「うん。もう上がる時間だからタイムカード押しに来たの。」
広本君は少しほっとした表情で、事務所のドアを開け、お先にどうぞといったかんじで、私にジェスチャーで入るよう促した。
事務所に入ると、どうしても意識しちゃう。
ここで首吊ってたんだよなぁ。変な緊張感に包まれる。
広本君は以前からグロサリーを担当しながら、店長補佐のような仕事もしていたので、新しい店長が来るまでの間、店長代理の役目を担うようだ。
「 広本君、大変だね。今日も社長来てたんでしょ?新しい店長来るのかなぁ?」
「わかんないっす」広本君は何かの書類を探しながら答えた。
私はタイムカードを押すと「じゃあ、私上がりますね」と広本君に告げた。
広本君は「いや、僕も出ます」と言って慌ててデスクをあさり出した。
( この部屋で一人になるのが嫌なんだろうな)
可哀想だと思い、書類が見つかるまで待ってあげた。
「あった!すいません」私を待たせた事に、すまなそうな顔で謝った。
そうして二人で事務所を後にした。
私達が勤めるスーパーマーケットは市内に3店舗を展開しているんだけど、いずれの店舗も田舎の小さなローカルスーパーといった雰囲気。
店長の件で、社長やら専務やら幹部の人達が、しばらく出入りする日が続いた。
※グロサリーの仕事は生鮮食品以外の食品を取り扱い、品出し、値札貼り、補充、発注などの業務をこなします。
(菓子、飲料、酒、缶詰、米、調味料など)