昨日の今日
事件性は無いとして、翌日から勤務先のスーパーマーケットは通常営業を再開する事となった。
なんだか、昨日の今日で通勤の足取りは重い。
出勤すると、ロッカールームでパートのおばちゃん達が噂話に華を咲かせていた。
「堀内さん、おはよう!警察が言うには店長は自殺でほぼ間違いないらしいよ!」私と同じ惣菜部門の山田さんが言う。
「まだ調査中らしいんだけど、自殺の原因は店長が、店のお金を使い込んでいたのが、バレたからなんだって」と “ 私は何でも知っているのよ” といった感じて、レジ担当の森谷さんが言った。
「返せないくらい、相当使い込んでたって。人は見かけによらないよねぇ」負けじと山田さんが話をかぶせてくる。
他数名のパートさん達が合わせたように「ねぇ」と相づちを打つ。
「皆さん、情報を得るの早いですね」と私は作り笑いで返した。
(まだ決まった話じゃないでしょ。あの店長がそんな事するはずないし)
私は話半分で聞きいていたが、やはり自殺の原因は気になる。
「おはようございます」ロッカールームに沙織ちゃんが入って来た。
「おはよう!」私が沙織ちゃんに話しかけようとすると、おばちゃん連中ときたらお構いなしに沙織ちゃんに、さっき私に話した事とまったく同じ事を話して聞かせた。
沙織ちゃんは「えー?店長、そんな事する人に見えなかったですけどね」と眼を丸くしていた。
昼休憩の時に沙織ちゃんに聞いてみた。
「あの人達の話、信じる?」
「うーん、半信半疑と言うか。自殺だって断定されたわけですし、自殺する原因はあったはずですよね?火の無い所に煙は立たぬって言うじゃないですか。でも、はっきりとした話しじゃないし、皆と一緒になって話す必要もないかなと思います」
私は「そうだね」としか返せなかった。
沙織ちゃんにそう言われると、そうかもしれないと思えてきた。
(私って、人をみる目ないからなぁ)
「ちょっとタバコ吸ってくるわ!」
休憩時間があと5分しかない事に気付いて、焦って外の喫煙所に向かう。
休憩室を出るすんでで「タバコ、やめた方がいいですよっ!体に悪いんですからっ!」と沙織ちゃんが私の背中に向かって言った。
私は苦笑いをして、休憩室を後にした。
(わかってるんだけどね。やめられないんだよね)
喫煙所には店長の第一発見者だった岡崎君がいた。
他に、レジ担当の川口さんとグロサリー部門の広本君がいた。
(三人とも二十代で、年が近いから仲良しなんだなぁ…… あらっ、三人とも加熱式タバコだ)
私は紙巻きタバコ。
目ざとく川口さんが「堀内さん、紙巻きっすか?渋いっすね」とちょっと小馬鹿にしたような口調で言ってきた。
「いや、加熱式タバコなんか歴史が浅いから、将来どんな害が出てくるか分からないじゃない?紙巻きの方がまだマシな気がして」と言うと、「なに言ってんだコイツ」みたいな感じで、“キョトン顔”をされてしまった。
(おばさんだからってバカにしやがって。ムカつく)
話題を変えて「岡崎君大変だったね」と店長を見つけた時、ショックだったろうと思い、私なりになぐさめようと話を振ってみた。
「何がすっか?」
えーっ?驚いてしまった。
(なんの事言ってるかだいたいわかるだろうよ)
「 何って、店長を発見した時、ショックだったでしょ?って話しなんだけど?」と、ちょっと呆れたような言い方をしてしまったかもしれない。
「あー、そうっすね。警察の事情聴取?あれが長くてうんざりでした」あっけらかんと喋るので、ショックは受けてなさそうだ。
( 今時の人ってこうなの?この人が特別なの?)
あっ!!とっくに5分過ぎてるじゃん!
持ち場に戻って、助六寿司、補充しないと!
※助六寿司とは、稲荷ずしと、のり巻きの詰め合わせの事を言います。
地域に寄って違いがあるかもしれません。