事件の全貌
残酷な描写がありますので、苦手な方はご遠慮下さい
事件後、私は、ニ日間ICUに入ったが脳に損傷もなく、術後の容態も安定していたので、一般病棟の個室に移動された。
感染症予防のため、基本的には面会は禁止されていたが、個室とあってか、時間制限はあったものの旦那と息子に面会の許可がおりた。
旦那は「大丈夫?」と私に声をかけた。
「大丈夫じゃないから、まだ入院してる」と力無く答えた。
毒を吐いた私に、旦那は安心したように笑った。 息子は「お母さん、早く元気になって」と泣きそうな声で言った。
「お母さんは、純一のおかげで助かったんだよ。ありがとうね」と私が息子に言うと、 旦那は「俺も頑張ったけどね」と笑った。
続けて旦那は「何か欲しい物ある?」と聞いてきたので、「タバコ」と呟いた。
旦那は「アホかぁ」とまた笑った。
私も笑った。
私は全治六ヶ月の診断を受け、一ヶ月の入院を経て、自宅で療養をする事になった。
怪我の方は順調に回復していったが、精神的に不安定になり、睡眠障害や、暴行された時の恐怖が蘇り、過呼吸発作を起こすようになってしまった。
心療内科へも通う事になり、薬物療法とカウンセリングを定期的に受ける事になった。
いっぽう、岡崎、川口は怪我の回復を待った後に、逮捕された。
何と間抜けな事に、私が暴行を受けている様子が、岡崎の車のドライブレコーダーに全部記録されていたのだ。
現行犯逮捕された広本は事情聴取で、事件の全容を自供した。
事件の全貌
やはり、広本は店長不在の時に、店の売上金の管理も任されていたのだ。
広本は、岡崎と川口にそそのかされ、店の売上金の一部を何度かに分けて横領していた。
ある日、閉店後の誰も居ない事務所で、広本は店長から店の売上金の計算が合わないことを、問い詰められた。
職場の駐車場で広本を待っていた岡崎、川口に店長に横領がバレてしまった事を報告する。
川口が、二人に店長を自殺に見せかけて殺害し、横領の罪を被せるのはどうかと持ちかけた。
岡崎は川口の提案に賛成して、まだ事務所に残っている店長を、三人で共謀し、殺害する事を広本に強要した。
三人で、事務所へ戻り、岡崎が背後から店長を羽交い締めにし、広本と共に押さえつけた。
川口は事務所にあった電気コードを天井の梁にくくり付けた。岡崎と広本は店長を抱え上げ、川口が電気コードを店長の首に巻き付けた。そして、岡崎と広本は店長の体から手を離した。
足をバタつかせ、もがき苦しむ姿の店長を無心で見つめる。
やがて、静かになった様子を見て、絶命した事を確認した。
踏み台に見せかけた丸椅子を店長の真下に置き、川口が蹴り飛ばした。
店長殺害後のある日、事務所の前で三人が店長の殺害が上手くいった事を称賛しあっていると、人の気配がしたのでそちらの方へ川口が確認しに行った。
その時に沙織ちゃんが立ち去る姿を目撃したのだ。
沙織ちゃんに自分達が話していた内容を聞かれてしまったと思い、 『口外されては困る』と、三人で沙織ちゃんの家まで尾行した。
実際、沙織ちゃんは三人の話を聞いていて、その内容こそが私に “会って話したい事” だったのだ。
沙織ちゃんは自宅へ、忘れた財布だけを取りに行き、直ぐに車に戻るつもりだったのだろう。
玄関の鍵をかけていなかったため、三人は沙織ちゃんが自宅へ入って直ぐに襲撃した。
沙織ちゃんは玄関から無理やり、岡崎、広本に両側から抱きかかえられる形で、風呂場へ移動させられた。
川口が、暴れる沙織ちゃんをしっかり抑えるように、また、口もしっかり抑えるよう、ニ人に命じた。川口がカッターで沙織ちゃんの左手首を思いきり切った。
真一文字に切り裂かれた傷口からは大量の血液が流れ出した。
沙織ちゃんの、 意識がもうろうとした様子を見て、右手にカッターを握らせようとしたが、上手くいかず、沙織ちゃんの手からカッターは滑り落ちた。カッターは、そのまま放置し、 沙織ちゃんの意識が無くなった事を確認すると、三人は家を後にした。
広本の供述では、店長殺害もトラウマになっていたが、沙織ちゃんの殺害の様子がさらに残忍であった事で、広本の精神を崩壊させたようだ。
沙織ちゃん殺害の翌日、 広本は精神が病み、職場へ出向く事ができなくたった。
広本は店長と沙織ちゃんの幻覚を見るようになってしまったと言う。
広本が無断欠勤をした日、岡崎と川口が店の鍵を取りに、広本の部屋へとやって来た。
この時、岡崎は広本から、会社を辞める旨をを聞いていたが、会社に知らせる事はしなかった。
広本が会社を無断欠勤していても、岡崎と川口との交友関係は続いてたが、周囲には自分も広本と連絡が取れなくて困っていると嘘をついていた。
万が一、店長や沙織ちゃんの事件が発覚しても、自分達は無関係を装い、広本にすべての罪を着せようと企んでいたからだ。
沙織ちゃん殺害から一ヶ月程経ったある日、岡崎、川口と一緒にパチンコ店で、スロットを楽しんだ後、広本が店を出ると、突然私に声をかけられ、動揺して逃げてしまったと言う。
相手が沙織ちゃんと仲が良かった私だったから余計に慌てたようだ。
先に車で待っていた岡崎と川口が、広本の慌てた様子に何があったか、尋ねた。
『堀内さんに見つかってしまった。話がしたいと言ってきた』とニ人に報告した。
広本は供述で『あの時、自分がニ人に堀内さんの話をしなければ、堀内さんが二人から暴行を受けずに済んだのに』と後悔していたという。
広本は岡崎と学生時代からの友人だった。広本にとって、学生時代からヤンチャだった岡崎には絶体服従の存在であった。
同じ職場で出会った川口と岡崎の交際が始まり、川口もまた、岡崎と同様に広本を支配した。
だが、川口と岡崎は越えてはいけない一線を越えてしまった。
広本は人殺しまで強要されるとは思ってもいなかった。
『この二人から逃れたい』
しかし、岡崎は自分の支配から逃れる事を許さなかった。命令に従わなければ、広本の親や兄弟に危害を加える事ほのめかし、広本を恐怖で支配し続けた。
広本の精神が追い詰められている最中、岡崎と川口は第三の殺人を企てた。
その標的が私だったのだ。
岡崎は、音信不通だったはずの広本が、パチンコ店の駐車場で自分の車へ乗り込む姿を私に見られたかもしれないと、口封じのため殺害をする決意をした。 そして、私を尾行し、拉致を決行。殺害後は山林に埋める計画だった。
一方、広本の精神は限界に来ていた。『もう、人殺しはしたくない』
広本もまた、この状況から逃れる事を考えていたと言う。
私を殺害後、遺体を埋める穴を掘るように、指示された時、スコップを武器に岡崎、川口をいっその事、殺してしまえば支配から逃れられると頭をよぎらせていた。
しかし、作戦が失敗した時、返り討ちにあうことを恐れてためらっていた。
そんな中、一台の車がこちらに向かって走ってくるのを見て、広本はチャンスだと思った。
『あの人達が、助けてくれるはずだ』と賭けに出た。
それが、岡崎と川口をスコップで殴った経緯だった。
車から降りて来たのが、私の家族だった事にも安堵したと言う。
パトカーが到着した時、広本はやっと岡崎と川口の支配から解放されたと、涙を流していたという。




