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主人公は死なない

このエピソードにも暴力シーンの描写がありますので、苦手な方はご遠慮下さい。

事件の真相を知らぬまま、私は死ぬのかぁ……


パーカーのポケットの中で、マナーモードにしているスマホがブルブルと鳴っている。

手が……手が痛くて取り出せない。


遠くで車のライトが走り去るのを見た。

(こっちに来てほしかったなぁ……でもこんな山奥でも人が来るんだなぁ)と考えながら気を失いかけたその時……おそらくは先程の車がUターンして、こちらの枝道へ入って来たのだ。遠くから車のライトが光る。


岡崎が「やべぇ、こっち来るじゃん!とりあえず、コイツを穴に運んで!」と私を穴に放り込むように広本に命令した。

川口は「なんだよ、こんな時間に、なんでこんな所に来るわけ?」と苛立(いらだ)っているようだった。

広本は穴を掘る手を止めて、こちらへ向かって来た。

車のライトはどんどん近付いて来る。


とうとう、私は川口の言うところの “ゲームオーバー” を迎えたようだ。

私は、目を閉じて最期(さいき)を待った。


ん?……空耳だろうか?微かにサイレンの音が聞こえた気がした。


広本は私の方へ……


ではなく、手にしていたスコップを岡崎に振りかざしたのだ!!

左側頭部(ひだりそくとうぶ)辺りに命中したようだ。

岡崎は、その衝撃に「うー」と(うな)って、倒れ込んだ。

川口は予想もしていなかった広本の裏切りに、驚き、一瞬固まったが、身の危険を察知し、岡崎の車で逃走しようと運転席へ走った。

運転席のドアに手をかける()()()で、広本がスコップを川口の右肩に振りかざした。

「ぎゃー!!」物凄い悲鳴が山の中に響いた。


( ん?何が起きた?)

私は、薄れゆく意識の中でその光景を(なが)めているしかなかった。


サイレンの音は空耳じゃなかった!!

確かに、そして確実にこちらへ近付いて来ている。

こちらに向かって来た車のライトはもう目の前に迫っていた。

車が止まった。


「お母さんっ!!お母さんっ!!」止まった車の助手席から息子が飛び出し、こちらに走って来た。

運転席からは旦那が降りて来て、こちらへ走って来る。


(どうして?……どうして、私の居場所がわかったんだろう?)


サイレンの音はどんどん大きくなり、赤色灯(せきしょくとう)の光も遠くに見えてきた。

パトカーだ!


岡崎は脳震とうでも起こしたのか、動けないでいた。川口は痛みに耐えられず肩を押さえて(もだ)え苦しんでいた。

広本は逃げる素振そぶりを見せず、逆にパトカーの到着を待っているかのように見えた。


「お母さんっ!お母さんっ!死なないでっ!!」息子は泣いていた。

「だいじょうぶだよ」と聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で答えた。

声が出せなくなっていた。


旦那は広本に掴みかかり「お前がやったのかっ!!」と、何か怒鳴っていたが、旦那の勇姿を最後まで見届ける事なく、私は気を失ってしまった。


その()、パトカーが到着して、広本は現行犯逮捕。岡崎、川口は負傷していたため、救急車で市内の病院に搬送され、 私は意識不明の重体だったのでドクターヘリで総合病院へ搬送されたとの事だ。


私の怪我の|状況は、左の頬骨(ほほぼね)陥没骨折(かんぼつこっせつ)、鼻の骨は折れていなかったが右側に少しずれていた。

また、左側の肋骨(ろっこつ)を二本骨折し、一本にひびが入り、頭をかばった時に踏まれた左手は親指を骨折していた。

肺も損傷(そんしょう)していて、緊急手術になる程だった。

これだけ、派手にやられて、一命(いちめい)を取りとめたのは “奇跡” そのものだった。


しかし、何故、旦那と息子は私が拉致(らち)された事と、居場所を特定することが出来たのだろう?


沙織ちゃんのたましいが私を救ってくれたのだろうか?

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