鬼畜の所業
今回は激しい暴力シーンの描写があります。
苦手な方はご遠慮下さい。
漫画やドラマの主人公なら、普通の主婦が急に名探偵になり、証拠を集め、事件の真相に迫り、犯人を追い詰めて行き、事件は解決!といった感じになるのだろう。
しかし、私達はなんの特殊能力もないので、なす術も無く、このまま諦めるしかなかった。
それから月日は流れ、街路樹の葉はすっかり枯れ果て、木枯らしに吹かれて、枯れ葉の雨を降らせていた。
その日の私は仕事を終え、帰宅の途に着いていた。
帰り道の途中には、そこそこ大きなパチンコ屋さんがある。
そこを通りかかった時だ。
(広本君っ!!)
パチンコ屋さんの入口から広本君が出て来たのだ!
私は走って、広本君を追いかけた。
広本君はパチンコ屋さんの駐車場へと向かった。
「広本君っ!!」 出せる限りの大きな声で呼び掛けた。
広本君は、後ろを振り返った。
私は「広本君っ!!話したい事があるんだっ!!」と叫んだ。
広本君は人殺しの犯人かもしれない。私、一人での接触は危険だと思ったが、こんなに人の多い所で何かしてくるはずがないと油断していた。
広本君は小走りで広い駐車場の何処かへと消えてしまった。
日も暮れかけていて、辺りはもう薄暗くなっていた。
(見失なっちゃった。この駐車場の広さだと探すのは皆無だな)
諦めて帰宅する事にした。
でも、誰かが『広本君も死んでたりして』なんて言ってたから、生存を確認する事ができて、安心した気持ちもあった。
(帰ったらエリちゃんに連絡しなくちゃ)
自宅まで、あと数歩の所で黒いミニバンが私の横にピタリと停車した。
(え?……岡崎君の車だ)
と思った瞬間、後部座席のスライドドアが開き、運転席から降りて来た岡崎君が「死にたくなかったら乗って」と、セリフとはアンバランスに、明るい声で言った。
予想外の展開に頭が混乱した。
ここは大声で叫んで助けを呼ぶべきか、ダッシュで走って家の中へ逃げるか……
一瞬の迷いが命とりになってしまった。
後部座席へ無理やり押し込まれてしまった。
拉致だ!!
田舎の閑静な住宅街、辺りはもう暗くなり、目撃者もいない事だろう。
(パチンコ屋さんに岡崎君と川口さんも一緒に来てたんだ……私に声をかけられた事を広本君から聞いて、私の後を付けて来たんだ。
『死にたくなかったら』って、どうせ生きて返す気、ないでしょ)
岡崎君が運転する車の中は、助手席に川口さん、後部座席に広本君、そしてその横に私が乗っているかたちだ。
拉致された事で全てを理解した。
この三人がグルだったんだ。
運転しながら岡崎君、いや、“君”はもういらないだろう。
岡崎は「堀内さん、広本に何か用っすか?」と聞いてきた。
私は答えなかった。
岡崎は「広本の事、疑ってますよね?」と言ったので、私もようやっと「疑うも何も、こんな事して、自分達で自供したようなもんじゃない?全部、あんた達のやった事だったんだね?」と反論した。
岡崎は「全部って何がっすか?」とおどけて言った。
キチガイだ。
「全部は全部だっ!!店長も、沙織ちゃんも、お前らが殺ったんだろっ!!店の金を盗んだのもっ!!」と私はぶちギレて言った。
助手席の川口が「全部バレてんじゃん。ウケる」と笑った。
(ウケる?)
私は初めて目の当たりにした、人間の姿をした悪魔に、血の気が引くほど、恐怖を覚えた。
(駄目だ、コイツらにまともな話は通じない)
私の隣に座っている広本は、ずっと私とは反対側の窓を見つめていた。
どんどん市街地から離れて行く。
辺りはもう真っ暗だ。
どれぐらい走っただろうか。感覚的には30分くらい?いや、もっとかな?
パーカーのポケットの中にスマホがあったが、なるべく見ないようにした。
没収されたら困るからだ。
真っ暗な山道をハイビームで進み、枝道に入るとしばらく車を走らせる。
ある程度の所まで来ると、車を停めた。
岡崎は、 私に降りるように促した。
(これから私、殺されちゃうんだなぁ……まさか、今日死ぬ事になるとは思わなかったよ。息子に会いたいなぁ。息子の成長を最後まで見届けられない事が、心残りだ)
一か八か、車を降りた瞬間にダッシュで逃走を図った。
が、真っ暗な山の中、舗装もされていない山道で、まともに走れるわけもなく、派手に転んでしまった。
膝と肘に激痛が走った。
後ろから追って来た、岡崎にすぐに捕まってしまった。
うつ伏せで倒れこんでいる私の髪の毛を鷲掴みにして 、おもいきり引っ張った。
頭皮ごと剥がれてしまうんじゃないかってくらい、容赦なく引っ張った。
そして、私の顔を持ち上げると顔面に右フックをお見舞いしてきた。
あまりの激痛に気を失いかけたが、さらなる激痛が間髪をおかずにやってきた。川口が参戦して来たのだ。
川口は私の脇腹を、おもいっきり蹴飛ばしたのだ。 私は岡崎の車のライトに照されながらリンチを受け続けた。
(肋骨も折れただろうけど、鼻も折れてるだろうな。尋常じゃなく痛い。鼻血も止まらなくて、このまま鼻血だけで出血多量で死ぬかも)と思った。
岡崎、川口カップルは、心行くまま私に暴行を加え、満足したのか、疲れただけなのか、岡崎と川口はタバコを吸い始めた。
一仕事をして、一服休憩のつもりだろうか?
リンチには参加せずに、うつ向いて立ち尽くしている広本に「一番後ろの席にスコップあるから穴ほってて」と岡崎が命令した。
広本はうつ向いたまま、動かなかった。
川口が「てめえ、聞こえてんのか?」と怒鳴った。
広本は、ためらったようだが、指示に従った。
コイツらの関係性が分かった。
広本は岡崎と川口の支配下にあるのだ。
川口が私の鞄をあさり出し、財布を取り出した。
「銀行のカードとかないの?」と聞いてきた。
私は「見たら分かるだろ、ねーよ」と息が抜けた声で答えた。
川口は舌打ちをして私を睨み、また財布に目を向けると「あっ、クレカみーっけ」とはしゃいだ。
岡崎は「暗証番号は?」と聞いてきた。
私は「教えるわけねーだろ、バーカ」と息も絶え絶え、精一杯の辛口を叩いた。
「 ふざけた態度とってるんじゃねえよ」と岡崎がキレて私の頭を踏みつけようとした時、とっさに両手で頭をかばった。
おもいきり右手を踏みつけられた。
激痛が走る。
頭をダイレクトに踏まれるよりは、良かったかも……
川口が「広本が穴掘り終る前に教えて!掘り終わっらゲームオーバーだかんね」と言った。
吹きさらしの山道に長時間、横たわっていると身体が冷えてきた。
(このままだと、凍死の可能性もあるな)と思った。
だんだん痛みよりも、眠気の方が強くなってきた。眠気?“意識がもうろうとして気を失う”が正しいのかな?これは死の合図だろうか?
その間も、広本はせっせと私の為に墓穴を掘っていた。




