激情
その日の夜、旦那に、沙織ちゃんの旦那さんの話をした。
「警察に再捜査を依頼するのが面倒臭いって事?
それとも警察は絶体に間違った事はしないと、完全に信じきっているからかな?」と私が旦那に問うと、「まぁ、その人本人じゃないとわからない事だけど……疑心感があったとしても、どうしたら良いのか、わからないんじゃない?警察が事件性ないって言うんだから、どうしようもないじゃん」
「だから再捜査してって言えばいいじゃん」と私がむきになると「『再捜査してください』『はい。します』って簡単なもんじゃないでしょ。俺に言ったって仕方ないじゃん」と場外乱闘をしてしまった。
「 そうだよね。ここで私達がいくら言い合ってもね……」と我に返った。
沙織ちゃんの死は、やはり、パートのおばちゃん達の噂の種になっていた。
店長の死からわずか2ヶ月たらずの出来事に、様々な憶測を呼んでいた。
そう言えば、広本君はあれから一度も出勤しておらず、パート主任が電話をかけても、本社の人が電話をかけても繋がらず、社員さんがアパートへ訪れても、居ない様子で、完全に音信不通の状態にあるのだという。
パート主任の森谷さんが、広本君の友達である岡崎君に連絡を取るようにお願いしたが、「俺も連絡つかないんすよ」と困ったように言っていたらしい。
朝のロッカールームでは噂の種がいっぱいで、話が尽きる事がなかった。
「店長の呪いじゃない?」
「考えたくもないけどさ、広本君も死んでたりして」と不謹慎な事を言う人もいた。
「やだぁ、鳥肌立つわぁ」と、まぁ皆好き放題言いますわ。
パート主任の森谷さんが「ねぇ、店長と西森さん不倫してたんじゃない?店のお金、西森さんに継ぎ込んでたんじゃないかな?店長が死んだから、後を追って自分も死んだとか?」
私は考えるより先に、森谷さんに掴みかかっていた。
「ふざけんじゃねぇっ!!知りもしない事を憶測で喋ってんじゃねぇよっ!!言って良い事と悪い事があるだろっ!!その歳になって、そんな事もわかんねぇのかよっ!!」と胸ぐらを両手で掴み、激しく揺さぶった。
私の行動に、周りのパートさん達はびっくりして、一瞬時が止まったかのように固まっていたが、すぐさま何人かのパートさんが、私を森谷さんから引き離した。
惣菜部の山田さんが「森谷さんも、ちょっと言いすぎだわ」 と森谷さんを諭した。
森谷さんも自分が言い過ぎた事を自覚したようで、しゅんとして、私が掴みかかかった胸ぐらをバサバサと払った。
私はあまりの怒りに手が震え、呼吸も浅くなって、過呼吸のようになってしまった。
はぁはぁと、苦しくてうずくまると山田さんが、「堀内さん?水持ってくるかい?」と背中を擦ってくれた。他のパートさんが水を持って来てくれた。
誰かが「救急車呼ばなくて大丈夫?」と聞いてくれたが、私は「大丈夫です」と声を振り絞った。
水を飲んで、しばらく安静にしていると収まってきた。
山田さんは「今日はもう早退したら?」と気遣ってくれたが、私は「もう大丈夫です」と立ち上がった。
山田さんがまた背中を擦ってくれて「無理しないでよ」と言い、他のパートのおばちゃんちゃん達は、私を哀れみの目で見つめていた。




