疑惑の死
帰りは旦那に迎えに来てもらい、エリちゃんには自宅まで送って行くので、旦那の車に一緒に乗るように誘った。
エリちゃんは少し遠慮した様子だったが、「すみません。では宜しくお願いします」と旦那の車に乗り込んだ。
私も後部座席に乗り込み、エリちゃんの隣に座った。
走り出した車の中で私は「沙織ちゃんが亡くなっる直前に私と会う約束をしていたんだけど、しかも向こうから会う約束を取り付けて来たんだよ?これから死のうとする人が、なんでそんな意味不明な事するの?不自然過ぎない?」とエリちゃんに話した。
エリちゃんは「もしかして、堀内さんに悩みを相談しようとしていたけど、その前に耐えられ無くなって自死してしまったとか?」と推理した。
「いや、いや、人の心はわからないけど、絶対に自殺じゃないって」とエリちゃんの推理を否定した。
「じゃあ、何らかの事故とかですか?」とエリちゃんは、私に何が言いたいのか、といった感じで言った。
エリちゃんは私の返事を待たずに、はっとした表情になり「あれ?なんか、うちの夫の時と状況が似ていませんか?」と意味深げに言った。
「他殺?」
二人、同時に呟いた。
運転している旦那は“他殺”という物騒な言葉に驚き、バックミラー越しに私達を見た。
エリちゃんは神妙な顔つきになり、「夫と沙織さんの死には何か裏がありますよ」と探偵みたいな事を口にした。
エリちゃんの家の前に着き、連絡先を交換して別れた。
翌日の沙織ちゃんの通夜には職場の人達も多数、参列した。
仲間が亡くなった事に、皆ショックを隠し切れない様子だった。
性格の良い沙織ちゃんだったから、親戚の他に、沢山の友人や知人が通夜の席に参列していた。
私は、葬儀を終えて、落ち着いた頃に沙織ちゃんの旦那さんに話を聞こうと思った。
初七日の日、休暇を取り、籠花を持って、沙織ちゃんの家へ出向いた。
旦那さんも、ご家族も大分、疲労から回復したように感じた。
六歳の息子さんは、ずっと旦那さんから離れずにいた。
幼い子供が突然母親を亡くして、その悲しみは計り知れなかった。
沙織ちゃんの祭壇に手を合わせた後、「今日は、旦那さんに少し話がありまして」と二人だけで話したい旨を伝えた。
旦那さんは息子さんを祖母に託して、二階の部屋へ案内してくれた。
旦那さんが部屋のドアを閉めたタイミングで本題に切り込む。
「沙織さんが亡くなったあの日、沙織さんは私に『会って話したい事がある』と連絡してきたんです。沙織さんは仕事が終わり次第、忘れた財布を家に取りに寄ってから、私を迎えに行くと言っていました」と話すと、旦那さんは「はい。スマホのメールの履歴を見ましたので、存じてます」と答えた。
「幼稚園のお迎えは旦那さんが行かれたんですよね?」 と続けて聞く。
「はい。息子の迎えは18時ギリギリになってしまい、家に帰るとあんな事になってて……」と旦那さんは答えた。
「 沙織さんは、お風呂の浴槽に入って亡くなってたんですか?」と発見時の様子を聞いた。
「いえ、浴槽の外で衣服を着たまま、浴槽にもたれるように座っていました。左手首から血を流していて、カッターが側に落ちていたので、カッターで切ったようです」と詳しく教えてくれた。
私は場面を想像して胸が締め付けられそうになった。
「私を迎えに来るのは16時半~17時くらいになりそうだと言っていたんです。おかしくないですか?職場から自宅へ寄って、私の家に来るには結構ギリギリの時間だと思うんです。 仮に事故だとしても、お風呂場にカッターを持って何かをする時間なんてないと思うんですけど」と疑問を投げ掛けた。
旦那さんは少し困ったようで「警察の検視の結果、争った形跡や盗まれた物などがなかったので、自殺で間違いないと判断されたんですよ」と言った。
「えっ?司法解剖とか、しなかったんですか!?」と私は驚いた。
旦那さんは「ええ、事件性がなければしないんだそうです」と答えた。
警察のあまりのずさんさに驚きを隠せなかった。
「いや、旦那さんっ?おかしくないですかっ!?」と私は少し噛みつくように言ってしまった。
私がそんな言い方をしたもんだから、旦那さんも「おかしいったって、警察が自殺で間違いないって言うんですから、間違いないでしょ?」と少しキレたように言った。私は「だって、自殺する動機に心当りありますか?」と今度は控えめに言った。
旦那さんは面倒臭くなったのか「わかりません。今日はこれで」と私に部屋から出るように促した。
(大切な人の事なのに……もっとちゃんと調べて欲しいと思わないんだろうか?)
少し、ふてったような旦那さんと私が二階から降りてくると沙織ちゃんのお姉さんが心配そうに待っていた。
「お邪魔しました。長々とすみません」と挨拶をして沙織ちゃんの家を後にした。




