悲しき対面
電話を切った後、私はしゃくり上げて泣いていた。
息子はすでに帰宅していて、私が大声で泣いてたので驚いて、リビングのドアを開け「お母さん?」と静かに心配そうに声をかけてきた。
私は何も答えたられず、ひたすら泣いた。
それでもなんとか立ち上がって、リビングへ入った。
「お母さんの……友達が……亡くなったんだ」と、途切れ途切れ息子に伝えた。
息子は、はっとした表情をして、すぐに悲しそうな顔になった。
私は「お母さん、これから友達の家に行って来るから。ご飯は、お父さんが帰って来たら、用意してもらって」と伝えた。
息子は頷いた。
暗めの服装に着替え、タクシーを呼んだ。
しばらくして、タクシーが家の前に到着したようなので、玄関に向かった。
息子は玄関まで付いて来て、私を見送った。
「気を付けてね」と一言。
タクシーで移動中、これは現実ではなくて、私は異世界にでも来てしまったんじゃないか、なんて非現実的な感覚に陥った。
いや、そうであってほしいと願ったのかもしれない。
沙織ちゃんの家に着いた。小さな一戸建て住宅だ。
沙織ちゃんの家には何回か来た事がある。
玄関へ、人が何人か入って行った。沙織ちゃんの訃報を聞き、駆けつけて来た知人か親戚なのだろう。
タクシーから降りて、玄関へ向かう。
会いたいけど、会いたくない、複雑な感情で、なかなかインターホンを押せない。
中に入ったら沙織ちゃんの亡骸が待っている……
ためらっていると、後ろから元店長の奥さん、エリちゃんが声をかけてきた。
「堀内さん?」声をかけられただけで泣いてしまった。エリちゃんも泣いていた。
エリちゃんは気丈にも「とにかく沙織さんと対面しましょう?」と私に言い、インターホンを押した。
インターホン越しに誰とも確認せずに「はーい、開いてますのでどうぞ」と女の人か対応した。
エリちゃんがドアを開けると、リビングのドアが開いていて、中から女の人がこちらを覗き「どうぞ」と私達に入るよう促した。
私達が中へ入ると、先程の女性が、「沙織の姉です。沙織の友達の方ですか?」と私達に質問した。
私は「はい、沙織さんにはとても仲良くしていただいて……この度は、本当に……」と言葉を続ける事ができなかった。
沙織ちゃんのお姉さんは、目を潤ませて「沙織はこちらです。どうぞ」とリビングに隣接する小さな和室へ案内した。
沙織ちゃんの遺体の傍らには、旦那さんが息子さんを抱いて座っていた。
私達は「この度は……」と言って頭を下げた。
旦那さんは私達に「来て下さって有り難うございます」とかすれた声で、小さく言った。
旦那さんは泣きつくして目が真っ赤になっていて、息子さんは旦那さんに抱かれて、眠っていた。
(こんな小さな子を残して逝くなんて……自殺なんて、沙織ちゃんはそんな無責任な事はしない)
旦那さんは泣き疲れたのと、昨日からの疲れで、疲弊しているように見えた。次々に訪れる来客に対応できなくなっているようだった。
そんな旦那さんの代わりに、沙織ちゃんのお姉さんが来客の対応しているのだろう。
沙織ちゃんの顔には白い布が掛けられていた。
お姉さんが「どうぞ、顔を見てあげて下さい」と言った。
私は顔に掛かっていた布をゆっくりと剥ぐった。
元々美人の沙織ちゃんだが、よりいっそう美しく見えた。
ただ寝ているだけのように感じた。
(沙織ちゃん、起きて!)
顔を撫でると、人間とは思えないほど冷たくてなっていた。
私はやっと、沙織ちゃんの死を受け入れた。
「こんなに冷たくなって」とつぶやき、大粒の涙をこぼした。
お姉さんは「これから枕経を唱えにお坊さんが来ますので、それまでこちらで、お茶でもどうぞ」と私達に告げた。
リビングへ戻ると、沙織ちゃんの両親と、旦那さんの両親が、ダイニングテーブルの方に座っていた。
沙織ちゃんの両親は私達に「家までわざわざお越し下さって有り難うございます」と頭を下げてくれた。
私とエリちゃんは恐縮した。
突然、娘を亡くしてどんなに辛い事だろう。
お姉さんにソファーに案内され、お茶をいただいた。
その間も、続々と親戚の方やら知人の方やらが訪問して来て、リビングも和室も人でいっぱいになった。
枕経も終わり、葬儀屋さんから明日の本通夜と葬儀の時間の説明があった。
来客は、それぞれ明日に備えて帰宅して行った。
私は旦那さんから、沙織ちゃんを発見した時の様子を聞きたかった。
でも、今はとても聞ける状況になかった。




