混乱の朝
眠れないまま朝を迎えた。
頭がぼーっとする。
起きて来た旦那に「ごめん。お弁当作る気力がないわ。今日はコンビニで、お昼ご飯買ってもらえるかな?」と言った。
旦那も「眠れなかったの?弁当はいいけど、仕事行けるの?」と労ってくれた。
「仕事は行くよ」とぼそっと言った。
寝坊助の息子も昨夜の私の様子に、何かを感じ取ったのか、いつもと違って積極的に学校へ行く準備をしている。
私はぼーっと、ソファーに座っているだけだった。
(はっ!私も仕事に行く支度をしないと……)
何とか支度をして玄関へ向かうと、息子も同じタイミングで家を出るところだった。
息子は「行ってきます」と半年ぶりぐらいに聞くセリフを言ったのだ。
驚いたが、テンションは上がらず、職場へと向かった。
職場のスーパーマーケットにたどり着くと、従業員専用の玄関の前で、パートのおばちゃん達がガヤガヤ騒いでいた。
私は何事かと「おはようございます。何かあったんですか?」と誰ともなく聞いた。
私と同じ部所の山田さんが「広本君が来てないんだって。店の鍵、広本君がもってるから皆、中に入れなくて困ってんだよ」と教えてくれた。
「え?困りましたね……」それしか言えなかった。
ほどなくすると、彼女を乗せて岡崎君が出勤してきた。
皆が岡崎君の車に群がる。
車から降りて来た岡崎君に「ちょっと、あんた広本君の友達でしょ?何とか連絡して鍵開けるように言ってよ!!」とパート主任兼、レジの森谷さんが詰め寄った。
岡崎君も大勢のおばちゃん達に囲まれて、どぎまぎしながら「わかりました。ちょっ、待って下さいっ」と言ってスマホを手にした。
彼女の川口さんは助手席から降りて来ずに、ずっとスマホをいじっている。
二人が交際している事は皆知っているようだった。
岡崎君が「出ないっすね。俺、奴のアパートに行って来ますわ!」と車に乗り込み、川口さんを乗せたまま行ってしまった。
パートさん達は途方にくれ、いつまで待たなきゃならないのか、開店までに商品の準備が間に合わないなど、互いに愚痴り合っていた。
惣菜部はもう、開店に合わせて商品を出すことは不可能になった。
準備どころか、開店時間に店自体を開ける事ができなのではないかと思った。
パート主任は本社に連絡をして判断を仰いでいた。
そんな中、沙織ちゃんと同じグロサリーの小林さんが「ねぇ、西森さんも来てないんだけど」と沙織ちゃんの事を言った。
私が「西森さんはたぶん、今日は休むんじゃないかと思います」と言うと、小林さんは「えー!!広本君も西森さんも休みって、グロサリー、私と佐々木さん二人だけでやんなきゃならないの!?」と絶望していた。続けて「西森さん、何で休むの?」と聞いてきた。「私も詳しい状況はわからないんですけど……昨日、旦那さんから連絡があって、奥さんが体調不良だって……ひょっとして今朝、休む事を伝えに会社に電話入れてたんじゃないかな?この状況じゃ、電話鳴ってても誰も出れないですもんね」と私は苦笑いした。
小林さんと佐々木さんは「困った、困った」と嘆いていた。
まだ、本当の事は言いたくなかった。
噂の種にされるだけだから。
開店時間目前で本社の人が合鍵を届けに来た。
少しの差で、岡崎君が戻ってきた。
「あれ?本社の人、来てたんすね。広本、熱出して今日は休むっつてました」と言った。
皆、大ブーイングだった。
パートのおばちゃん達は「熱出したとしても、誰かに連絡ぐらい出来るでしょ」「友達なんだから岡崎君に連絡して頼めば良かったのに」などなど、文句を口にしていた。
私は寝不足で頭がぼーっとしていたので、このまま臨時休業になればいいのに、と願っていたのだが、叶わなかった。




