去り行く夏
店長宅へお邪魔してから数週間が経ち、トンボが飛んで、夏の終わりを告げようとしていた。
時が流れるに連れて、店長の話は誰もしなくなっていた。
新しい店長はまだ決まらず、グロサリーの広本君が店長代理として頑張っていた。
今日も淡々と弁当や寿司、お惣菜などを作り上げ、陳列台に並べる。
昼休憩の後に外の喫煙所に行くと、いつもの仲良し三人組がいた。
精肉部門の岡崎君とレジの川口さん、そして店長代理の広本君だ。
その三人の他にパートのおばちゃんが二人いたが、私と入れ代わる形で持ち場へ戻って行った。
私が三人に「お疲れ様です」と挨拶をすると、広本君と岡崎君は「お疲れっす」と返してくれたが、川口さんは、微かに会釈するだけだった。
沈黙に耐えられなくて、「三人、いつも一緒で仲良しだね」と話しかけてみた。
すると「俺と広本はダチで、コイツは俺の彼女っす」と岡崎君が川口さんを指して言った。
「えー!二人、付き合ってたんだね。気が付かなかった」と、ちょっと驚いて言うと、岡崎君はニヤリと笑った。
川口さんは表情一つかえないで、電子タバコをふかしていた。
(この人苦手だわぁ)
以前、レジ担当の人から、新しく入ってきた人が続かないのは川口さんのせいだと言っていたのを思い出した。
(コイツ、根性悪いんだな。性格の悪さを隠さないなんて、清々しく意地悪な奴だ)と、変に感心していると、三人で帰りの時間を確認し合っていた。
仕事が終わったら、三人で遊びに出掛けるのかな?
私もタバコを吸い終えると持ち場へと戻った。
惣菜コーナーを確認すると、今日の売れ行きは今一で追加は作らなくて大丈夫そうだった。
今日も無事に仕事を終え帰宅の時間だ。
タイムカードを押しに事務所へ向かうと、先に沙織ちゃんがタイムカードを押していた。
「おー!お疲れっ!私、明日休みなんだぁ」と言うと、沙織ちゃんは「そうなんですね、、ゆっくり休んで下さいね」と微笑んだ。
従業員専用の出入口まで一緒に向かった。
沙織ちゃんが「送って行きますよ?」と言ってくれたので遠慮なく、車で家までもらった。
車の中で 「そう言えば、あれから店長の奥さんから連絡きた?」と聞いてみた。
「はい。告訴まで話はいってないそうなんですけど、弁護士さんからは頻繁に催促の連絡が来てるって言ってました」
「そうなんだ。やっぱ会社も証拠が無きゃ訴えようがないだろうね」と私は言った。
勤務先から自宅まで徒歩15分なもんで、すぐに家の前まで着いてしまった。
「ごめんね。近いのに」と謝ると、沙織ちゃんは「全然気にしないで下さい!明日はゆっくり休んで下さいね!」と笑顔で言ってくれた。
私も「有り難う!沙織ちゃん、明日も仕事頑張ってね。じゃあ!」と別れた。
街が夕焼けに染まり、ノスタルジックな雰囲気を漂わせていた。
夏の終わりを感じてなのか、沙織ちゃんの走り去る車を見送りながら、なんだか寂しい気持ちになっていた。




