何よりも深い青
何処からともなく、誰かの声が聞こえた
誰かが話しておるのか?
気になって近づいてみると、一人の女性がこちらへ走ってきた
ぶつかりそうになるのを咄嗟に避ける
「おわっ いきなりどうしたんだ!?」
「ひっ ぁ すみません!!」
よく顔をみることもなく、去ってしまった
声的に走ってきた女性は十六夜だったのだろう
一体向こうで何が合ったんだろうか
誰かと口論でもしたのだろう
俺には関係ない
それよりも、一刻も早くここから脱出する糸口を見つけないといけない
長居している時間はない、妻と子どもたちを放っておくことなんてできない
そうでないと、俺がなんと言われるかがわからない
心の中でそう思うが、少し違和感がある
なぜ、彼はこんなことを思ったのだろう
とみは、近くの扉を迷いなく開けた
それには、少しばかりの焦りもあるのだろう
何か手掛かりがあれば良いのだ
それさえあればこのゲームを終わらすことができる証拠さえあればいいのだ
ベットや机を漁っていると、一枚の紙切れを見つけた
紙切れは、とみが今一番欲しいものだった
『社会人が人狼』
それだけ書かれた紙切れ
どうしてここにあるのかはさておき、これは良い証拠になるだろう
社会人、そう考えると服装的に俺とあおの二人が社会人だろう
俺は、人狼ではない
そうなると人狼はあおだ
もし、嘘だったらそう考える
そうなると、怪しまえるのは間違えなく、
「会議十分前になりました 広場に集まってください」
途中で思考を中断させられた
もう、二回目の会議の時間になってしまったのだ
心なしか、時間が過ぎるのが早い
時計も、窓もない時間感覚が狂いそうな室内
今何時なのか俺は果たしてわかっているのだろうか
二回目 それは、誰かの脱落が目に迫っているということ
「お!やっほぉ!! なんかいいものあったりした〜?」
「うーん ぼちぼちだな」
「会議はどんな感じでやる?」
「えっと、何か見つけたものがあったら報告、じゃない?そしたら本会議に入る形でも……」
「それはいいね」
次々とメンバーが揃っていく中、一人だけ揃っていない人がいた
彼女がきたのは、会議開始時間ギリギリで下を俯いたまま席についたのだ
「時間になりました 会議を始めてください」
そう、合図がなった
初めの会議とは違い、トントンと話し合いは進んでいく
初めは、情報交換
と、いっても特に目立った情報はないようだ
俺が、見つけたあの紙も信用はできそうにないだろう
これを出して俺はとっととこんなゲームを終わらせたいが、今出すことではないだろう
せっかくなら、本会議の時に出してしまおう
本来なら、これだけの時間があれば情報はいくつか出てきそうなものだ
だが、彼らの口から情報が図れることはない
どれだけ情報を知っていてもいうことはないだろう
続いて、話は本題に入っていく
初めに思い切ってこういうことは言ってしまった方がいいのだろうか、本当に早くこんなゲームを終わらしてしまいたいのだ
「……ちょっといいか?」
思い切って話してみることにした
この選択がどう動くかはわからない
だが、所詮これはただの遊びなのだ
ただの人狼ゲーム 本当に死ぬわけじゃない
俺は、そう普通に思っていた
「どうしたの……?」
全員の注目が自分に集まるのがわかる
「実は、探索している時にメモを見つけたんだ」
とみは、そのメモを机の上に出す
机には感覚があるため、メンバーは見えているのだろうか
いや、おそらく見えていないだろう
「……なんて書いてあるんですか?」
そこで、今まで口をつむいでいた十六夜が口を開いた
少し間を空けて、質問に答える
「……『社会人が人狼』」
「社会人」
「そうなると……あおくん?」
皆の視線が俺ではなくあおに集まる
「俺……?俺は人狼じゃないよ!」
あおは、少し声を荒げる
突然の証拠に場の空気は一転する
「けど……こうやってメモがある以上……」
「自作自演だとしたら?信用はできませんよ」
十六夜が冷たく発する
その瞳は人間には見えない何かを見つめているようだった
あおととみの争いが続く
どちらも人狼ではないと言い張るが、周りはとみを怪しんでいる
初めに人狼を疑ったものが疑われる
社会や学校生活においてもそれはよくあることだ
それは、とみ自身もよくわかっていた
俺は、本当に人狼ではない
どうして、あおでもないのか!?
とみの心は乱れる
本来、人狼であるはずの人物が人狼ではないと言っているのだ
「いや、俺は人狼じゃないって!!」
「そもそも、ただのメモじゃないか!本当じゃないかもしれないんだぞ!?」
「そもそも、こんなにも不思議なものが見つかっている館に限って本当じゃないなんてあり得るんでしょうか」
十六夜がボソッと呟く
それを、とみは見逃さなかった
「……と、とりあえず落ち着きましょ?」
「ま、だ決まったって、わけじゃないですし」
すずらんは、二人を庇おうとする
でも、このままでは確実に俺が釣られてしまう
俺はまだ、役職すらカミングアウトしていない
誰も守れずに死ぬのだろうか
もうすでにとみの心はどん底の淵に堕ちかけていた
今になってとみを信用している人はどれだけいるのだろう
あおですらも、人狼ではないのだ
それに、あおは皆のまとめ役であり一日で好感も掴んでいる
そんな彼に俺の勝ち目はない
とみには、自分が自作自演ではないと言えることも人狼ではないことろ証明するもできない
証拠がないのだ
完全に、彼女らの目はとみを疑っていた
弁解をしようにも無惨に時間は過ぎていく
もう逃げられない
ただ、脱落するだけなのに
どうしてこんなにも体が震えるのだろう
とうとう、十分という時間がすぎてしまった
「時間になりました なかなか白熱していましたね」
「これのどこが白熱なんだよ!ふざけんじゃねぇ!!」
「落ち着いてください……」
謎の声はそう発する
無機質のくせに、少々めんどくさそうにだ
「投票までまだ時間がありますが、今すぐ投票するという手段もあります どうされますか?」
謎の声が提案する
きっと選択肢は一つだろう
「それでいいです とっととこんなゲーム終わらせましょ」
こうがそう発する
俺を吊ったって、このゲームは終わらないんだぞ
そんな戯言を言いそうになり諦める
もう何を言っても聞かないだろう
諦めるしか道はないのだ
ただ終わるのが長引く
それだけじゃないか
何を怖がっているんだ ただのゲームだろ
「了解しました 紙に釣りたい人の名前を書いてください」
皆が黙々と紙に書き留める
俺も、自分に投票をする
一体どうやって集計したのかは謎だが、声は一呼吸おいたように間をあけ発言する
「集計が終了しました 吊られるのは」
「とみ様です」
わかりきっていたこと
大丈夫だ これはゲームなのだから
それなのに、胸は段々と苦しくなっていく
「ごふっ ゲホっ」
いきなりの喉の激痛に見舞われる
息がしづらい 喉が焼けるように熱い
食堂から何かが逆流してくるのを感じた
血の味がする
ただのゲームじゃなかったのか
気がついた時にはもう遅く
とみは、その場に倒れ込んでいた
あたりは騒然とし、なんの音もなくたださっきまで生きていたはずの一人の男性を見つめていた
とみさんが吊られることになった
本当にとみさんは人狼なんだろうか
俺からしたら、とみさんも人狼ではない気がする
とみさんの吊られるのが確定した時、
「ごふっ ゲホっ」
突然のことだった
あたりには、鉄の匂いが漂った
理解が追いつかなかった
気がついた時にはもう遅く、血を吐いて彼は倒れていた
段々と血色がなくなっていく肌、彼の命が薄まっていくのを目の前で見物する
声が出ない
恐怖で足がくすみそうだ
一体何が起きているのだろう
「ひぁ……あぁ………」
「なに、これ……」
反応はさまざまだった
泣き出すものも、呆然とするものも
そんなのを横目に、一人だけいや二人であろうか
とても冷静にじっと死体を見つめている
子どもとは思えない、人間とは思えない目に狂気にまみれた目に誰も気づくことはなかった
とみは、蒼白より青くなり、人間とは思えなくなっていた