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能ある狼は爪を隠した  作者: 音月 無異
1 落ちたメモは拾えずに
1/9

館の前

「……ん、あれ…………?」

「ここは……?」


一体ここはどこだ?

俺は会社にいて、仕事をしてた筈だ

それで、なんだか眠くなって…………

駄目だ、全く思い出すことができない

なんだか頭に霧がかかっているようで、はっきりしない


真っ暗な闇の中

目覚めると知らない場所に来ていた

誰が連れてきたのかと、そんな事を考えながら辺りを見渡す

すると、自分以外の誰かの人影が見えた

はっきりしない頭と目で見たもの

しっかりと確かめる為に近づいて確認する

どうやら人数は四人いるようだ

エプロン姿だったり、制服だったり

様々な人が寝ている


自分以外にも人がいる

それだけで、少しだけ安心する

一度起こしてみようか迷う

彼は、一番近くにいた制服姿の女性に声をかける


「あ、あの……」


細々として声で声をかけると、すぐに反応があった


「……ん、」

「 って、誰!?」


少々寝ぼけた顔をしていた彼女だったが、俺の顔を見た瞬間びっくりしたようで飛び上がった

セミロングの茶髪を肩より少し下に綺麗に束ねられている

この制服は…………

何処か見たことある制服の彼女

確か、この制服は俺の会社の近くにある名門校の制服だ

俺もここに通っていたなと思い出す


彼女は此方を警戒するように俺を見る

無理もない そう思う

こんな場所に連れて来られ、明らかに怪しい人が目の前にいるのだ


いや、俺は怪しい人ではないし、俺も此処連れて来られたのだが……


「け、けして怪しいものでは……」


そう弁明するが彼女は黙ったまま

信用はされてない

本当に違うんだけど、下手な動きをして更に怪しまれるのも嫌だ

ここはこれ以上余計な事はしないでおこう

すると、何処からか声が聞こえた


「二人ともだーれ?」

「ひっ」


全く気がつくことができなかった

足跡も気配もせずに背後にいつの間にか立っていた少年

茶色、なのだろうか

暗い色のランドセルを背負っているのだ

小学生見てわかる見た目をしていた


こんな小さい子までいるのだ

一体どうして

ますます不信感と疑問は大きくなっていく


「ごめんね 驚かせちゃったね」

「さっきまで周りを探索してたの!」


少年はゆったりとした口調で話し始める

かなりおっとりした少年だ

その喋り方はどこか大人びているというか、子供っぽさがないというか

小学生なのかを少し疑ってしまう


「そうなんですね にしても、此処は何処なんでしょうか……」


俺は、そんな大人びた少年にもしっかりと敬語を使い話した

ずっと上司に向かって敬語をしていたから

敬語よく出てしまう

此処は何処

純粋な疑問だ

全くもって知らない場所

どうしてこんな所にいるのか想像もつかない

一体何が起きているのだろうか


「あ、貴方達も気がついたら此処にいたんですか?」


ずっと黙っていた彼女が口を開いた

まだ警戒を解いていないようで、その表情は極めて険しい


「えぇ まぁ…… 会社で仕事をしていたんですけど、眠気が襲いかかってきて気がついたら……」

「僕もおんなじだよ」

「気がついたらこんな所にいたんだ」

「そうですか……」


とりあえず今起きているのは三人

起きていないのも三人

起こそうと思ったが、もし怖い人なのかと思うと勇気が出ずに起こすのを躊躇う

実際、先程のように思いっきり警戒されてしまったりするのもあれだ

すると、


「…… ここ、何処」

「あ、起きたよ!」


次に起きたのはエプロン姿に女性

女性は焦ったような、怖がっているような様々な感情が入り乱れている

何か事情があるのだろうか

深く介入するなんて事はできないが少し心配だ


「俺、いつの間に」

「あ、れ 私何して……?」



次々と寝ていた人達が起きてきた

短い髪を綺麗にセットした紳士的な男性

そして、腰よりも下であろうかなりの長髪で灰色のような銀色のようなメッシュを入れている女性 なんだか、何処かで見たこのあるような顔つきだ

一体、何処で見たのだろう

全員が起きて少し安心する

起こすのが怖く全員も起きるのを待つとなると、とても時間が掛かると思っていたから、こっちが起こすような事もなく時間をかけることもなく全員が起きた

また怖がられてしまったら、少しばかりこっちも悲しくなる

全員が立ち上がったのを確認し、俺は話し始める


「これで全員起きたようですね」

「全員?」


長髪の彼女を質問する


「はい」

「けど、此処は本当に何処なんだ 気がついたら此処に……」

「何故か大きな家の前にいるもんね」


そうなのだ

俺もさっき気がついたのだが、俺達が立っているのは大きな館の門の前

屋敷は西洋風、赤黒い煉瓦で大きな門が作られ、鉄格子越しから見る敷地内からして、中は相当広いのだろう 奥に微かに見える館も赤黒い煉瓦で作られているようだ

門の前には狼に銅像が両端に威圧感を醸しだしながら佇んでいる

目には赤と白の宝石が埋まっていて神秘的なのだが、不気味にも感じる

なんせ、こっちを睨みつけて見えるのだ


とても怖い場所だと改めて認識する

何故、こんな趣味の悪い銅像を置いているのだろう


「あれ?これ、門が少しだけ開いて……」

「あ、本当……」


何故か少しだけ開いている門

俺らを誘い込んでいるのだろうか

なんだか変な感覚がする

入らなければいけないような、そんな気がしてくるのだ


「はいって、見ます?」


試しに入ってみよう

そう、問いかける


「え、でも」


すぐに帰ってきたのは制服の彼女の心配する声


「勝手に入るのはよくないんじゃないか?」

「けど、此処が何処だか教えてくれるかも!」


人によって意見がかなり割れる

確かに、制服の彼女が言いたいであろう不安もある

だが、ランドセルの少年がいうことも一理あるし、紳士的な男性が言っていることも正しい

これは、どうするのが正解なのだろうか

入ってみよう

そう自分から言い出したのだが、後からこれが本当に正解なのか揺らいでくる

そんな不安を一気に無くすようにメッシュ髪の彼女が発言する


「試しに、行ってみましょう?」

「で、すね」


思い切ったことになる

かなり不気味ではあるが、行動しないからには何も変わらない

俺は他の五人を引っ張るように門の扉を強く押した

扉は重たくそして冷たく、開けるのは大変だった

やはり中はとても広く、噴水と花壇がすぐに見られる

光が全くなく、とても暗いが噴水の水の色に違和感を覚える

この噴水の液体は果たしてちゃんと水なんだろうか

勘違いかもしれないが、微かに鉄の匂いがする


本当に不気味な場所だな

と、何回も思う


他の五人の様子を観察する

なんだか落ち着いているような気がする

怖くない、という訳ではないだろうがその表情はどこか落ち着いている

彼等はこの異常さにまだ気づいていないのだろうか

もしかして、俺だけが敏感に物事に恐怖を覚えているだけなのだろうか


また、広い敷地内に目を配る

これはまた、先程の噴水に負けないくらい大きな花壇に目がいく

花壇には沢山の花が植えられている

入り口の何処か整備されていない感じとは違い、花壇は綺麗に手入れされ、花はどれも輝くように咲き誇っている

それが更に不気味に感じる


あ、あの花は確か……


ホオズキ

どうしてこんな所に咲いているのだろう

そもそもこうやって花壇に綺麗に植える様な花ではない気がする

館の入り口にも様々な植物が植えられているようだ

あれは、確か月桂樹げっけいじゅとイトスギ

杉の木は普通に植えられているから大した違和感はない

ただ、月桂樹を植えていることに大きな違和感を感じる

今までで、月桂樹を植えているところは初めて見た


この館の住民は変わった趣味を思っているのだろうか

先程からホオズキや月桂樹以外にも余り都会では見慣れないような植物や置物が置かれている

館の周りには、人形だったり謎の置物だったり

様々なものが置かれている

手入れがされているものからされていないもまで、その差がかなり激しい

本当に趣味が悪いとしか言いようがないほど、異質であり不気味だ


「あれ……こっちのドアも開いて……」


どうやら館の入り口も開いているようだ

この館は無人なのだろうか

そんな訳ないと信じたいが、さっきから全くもって正気も人がいる気配も何も感じないのだ


「すいません!!誰かいませんか!」


試しに、中に向かって声をかけるがやはり返答は返って来ない

かなりの大声を出したつもりだ

俺が出せる最大の火力で

しかも、これだけの空洞があれば少しは俺の声が反響しても良いはずなのに、全く反響していない

メッシュ髪の彼女は、


「奥にいるんですかね」


と言う

そうなのかもしれない

一旦中に入ってしっかりを確認んしてみよう

そう決心する


「一旦、中に入って見ましょう」

「そ、そうですね」


エプロン姿の女性も俺の意見に賛同した

何かに引っ張られるようにして、俺達はこの屋敷に足を踏み入れることにした






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