勇者召喚
「うわあっ!!」
「おお!これは!」
「成功だ!」
「勇者様だ!!」
「えっ。あ、あの……」
ある日突然、平和に暮らしていた日本人の青年が異世界に召喚されることは、案外ある出来事だ。
この世界では、過去にも何度も日本人に限らず地球人が呼び出されている。
この世界は定期的に世界の危機が訪れるらしい。別に勇者出なくとも対処できそうな問題だったり、勇者でないと対処できない問題だったり、――勇者が対処できない問題だったり。
世界の危機と言っているが、そのほとんどが大したことなく、今回の勇者も、大した理由なしに呼び出されている。
「勇者様!この世界の平和を脅かす魔王を倒していただきたい!」
「え、ゆ、勇者!?魔王!?――異世界召喚キター!!!」
……こういう反応もある。
「では勇者様、さっそく旅に出ていただくために準備を――」
これも、マニュアルが存在していたりする。そのマニュアル通りに事を運ぶのだ。
勇者は魔王を倒しに旅に出て、倒して戻ってくる。その勇者を異世界に帰すかどうかは本人次第。
こういうのを、何千年、何万年……気が遠くなりそうだ。
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神からもらった不老不死の体は、俺に多くの時間をくれた。そのおかげで、敵を討ちとれるほどの強さも得ることができ、無事先日その敵を討ちとることに成功した。
正直、復讐の後は何も考えていなかった。死なない体。復讐を遂げた後、自殺するのか、それともそのまま生きるのかなんか、頭に血が上りすぎて、考えもしていなかった。
前に彼女が「退屈だ」と言ったとき、その時は理解できなかったが、今になって理解できる。確かに、退屈だ。
どう暇をつぶそうか考えているときに、勇者召喚を感じ取った。異世界から勇者が召喚される。今までも完治していたわけだが、タイミングなのかよくわからないが何か惹かれる。だから俺は様子を見に行くことにした。
俺は元人間だからか、風貌は人間のそれだ。城の使用人の精神と記憶を弄り、侵入を果たす。どんな人間が召喚されるかは、見ものだ。野次馬しに来ただけなので、勇者を見たら帰るつもりだ。
俺を喚んだ国はもうとっくの昔になくなった。それどころか、その時にあった国は全てそれ以降に建てられて国によって滅ぼされ、更にその国もその次に建てられた国によってほとんど滅ぼされた。
人間の国には全く興味がなかったため、知るだけで終わった。国の存亡には興味はなかったし、これからも興味はないのだろう。ただの暇つぶしの道具にしそうだ。
「ああ、そうだ。せっかくだから直接話してみるか。ただ、悪魔と知られたら厄介だな」
という事で、俺は勇者召喚に立ち会うことにした。
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見た感じ、クラスの中心にいそうなイケメンの男子高校生。召喚されたばかりの俺と同じような空気を持っている。
調子に乗りやすそうで、正義感をうまくくすぐれば、簡単に奴隷になってくれそうなやつ。勇者召喚は、こういう人間を選りすぐっているのだろうか。
「おい、おまえ」
「はい、なんでしょうか」
お前呼ばわりされたことにいら立ちながら、それを表に出さないようにふるまう。
「勇者様をお部屋に案内して差し上げなさい」
「承知しました。では勇者様、こちらへ」
「は、はい」
俺は勇者を部屋まで案内した。素直についてくる勇者。おいおい、そんなに警戒心なくて大丈夫なのか?
俺は他の使用人に事前に勇者が使う予定である部屋を聞き出し、そこに案内した。
「こちらです、勇者様」
「うわあ、すげー!五つ星ホテルみたいじゃねえか!行ったことないけど」
割り当てられる部屋が豪華でも、仕事がクソじゃ全く意味がない。
「ではこれで」
俺は恭しく頭を下げた。全く、さっさと部屋の外にでるに限る。あほそうな人間だ。もう興味はない。
「なあ、ちょっと話そうぜ」
「はい?」
「だからさ、まだ俺こっちの世界のこと、よくわかんねえからさ、話そうぜ」
「いえ、私にはまだ仕事が残っていますので……」
「えー、いーじゃん」
めんどくせえ。無理だと言ったら無理だ。それすらもわかんないのか。
「……わかりました。では、何からお話ししましょうか」
「まずは、この世界にスキル、て存在するのか?」
「いえ、存在しません。ただ、魔法が存在します」
「魔法!俺も使えるのか!?」
「使うことができるでしょう」
「じゃあさ、銃とかは?あるのか?」
「ございません。全て魔法で賄えるため、必要性がないのが理由です」
「エルフはいるのか?」
「います。ただ、彼らは人間を含む他種族を嫌う閉鎖的な種族です。会う機会はないでしょう」
「じゃあさ、お兄さんの名前は?俺は神楽坂隼人。呼び捨てでいいよ」
「私の名前はユマンです。では、これから仕事がございますので」
「ああ、引き留めてごめんね。じゃあ、仕事頑張って」
俺は努めて淡々に受け答えし、適当な言い訳で外に出た。そしていじった精神と記憶を元に戻し、完璧に俺の痕跡を消して城から去った。
正直、あれを見ていると過去の自分の姿が連想され、あまりいい気分でもない。それだけでなく、今は敵を討った直後なのだ。なのに昔の自分に似ている人間なんか見たくもない。
失敗だったかな。そう思った。