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新たな門出

――僕は死んだのか……。



辺り一面、白い羽で覆われている大地に僕は立っている。空は雲一つない快晴で、神の祝福を喜んでいるようだ。



「君が違法の勇者、世良勇人か?」

「……あなたは?」

声をかけられて振り向くと、そこには端正な顔を持つ青年がいた。彼の背には純白の翼が生えている。


「私は、熾天使長ルシファー。今日は謝罪をしたく、君の下に来た」

「謝罪……?」

僕は、うつろな目をルシファーと名乗る天使に向けながら、ルシファーの言う事を繰り返した。


「悪魔の一人が暴走してね、君を殺してしまった。だから君はもう、元の世界に戻ることができなくなってしまった」

「な……!」

僕は衝撃の事実を明かされ、目がチカチカすると共に、急に今まで忘れていた途轍もない憎悪を思い出した。



――憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い……!!!!!あいつのせいで!!ケープもレーナも死んだ!!!僕も元の世界に戻れなくなった!!あいつが!あいつが悪魔と裏切ったせいで!!!!



「おや……これはすごい。まるで、悪魔のようだ」

憎しみにまみれていた僕は、ルシファーの呟いた声を聞き逃していた。



「もし君が望むなら。生き返らせてあげる。一つ特典も付けよう。――君は、自分とその仲間を裏切ったやつに復讐をしたいだろう?」

ルシファーが、そんな提案をしてきた。かなり魅力的だ。たが、代わりに何かを要求されそうで怖い。



「言っただろう?謝罪をしたい、と。元の世界に戻すことは不可能だが、この世界に生き返らせることはできる。さあ、どうだ?」

「――もし僕がそれを望まないとしたら?」

「記憶を消して、転生させよう。君の元居た世界に転生させてやってもいい。ただし、その場合は復讐ができなくなるが」

そりゃそうだ。記憶をなくし、更に別の世界に生まれなおすのだ。どうやって復讐できるのだろうか。


「……記憶を持ったまま元の世界には戻れない、と」

「さすがに無理だ。それに、君はもう死んでいる。この世界以外に転生する場合、赤子からのやり直しだ。どうせ、記憶も役に立たない」

「そうか――……」

家族とはもう会えない。それは、決定事項なのだ。



「――分かった。貴方の提案に乗る」

かなり長い時間考えたのかもしれないし、実際は数分だけだったのかもしれない。時間間隔が曖昧ではあるが、しっかり考えた末、この世界に生き返らせてもらうことにした。


「そうと決まればさっさと特典に何が欲しいかを言ってくれ。何が欲しい?」

「生き返るときは、死ぬ直前の状態なのか?」

「それが一番簡単だろう。どうした?他の種族にもなってみたいのか?」

「いえ……。では、不老不死にしてほしい」

「ほう?」

「人間の寿命は短い。悪魔相手に復讐するなら、恐らく一番足りないのは時間だと思って」

「ならば、そのようにしよう」

ルシファーがそう言うや否や、僕の意識の世界は暗転した。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



むくり。僕は魔王を倒したその地で目を覚ました。


「ごぼっごぼっ……ゴフッ!」

口の中にたまった血を吐き出す。鉄臭い味に顔をしかめつつ、あたりを見る。



――何も変わっていないな。



ラースとあの女がいないこと以外は。魔王は僕の持っていた聖剣を突き立てられたままだったし、ケープとレーナはあの時倒れたそのままの姿。あたりに散った血も瓦礫も、記憶と寸法変わらない。


「無事生き返った、のか」

自分の手を見つめ、命を奪うきっかけとなった胸の傷を見る。傷はふさがっており、自分が吐き出した血と、服に流した自分の血がなければ、まさか先程まで死んでいたとは夢にも思わなかっただろう。



「ケープ、レーナ。絶対に僕が――俺が、奴らに復讐する。たとえ望まなくとも……」


俺は横たわったままの旅の仲間にそう言い、丁寧に埋葬した。

両手を合わせ、2人の冥福を祈る。


そして、勇者の証である聖剣を、魔王の体から引き抜くために、目を向けた。



この場で起こった悲劇に見合わない程、美しく光る剣。神聖な力を持つ剣が、邪悪な心に染まった俺を受け入れるかどうかはあやふやだったが、俺はためらわずに今まで旅を共に過ごしてきた相棒に手をかけた。



「これからは、俺の復讐に付き合ってほしい。嫌なら、俺たちはここまでだ」

俺は剣に話しかける。すると剣は、そんな俺に答えるように純白の光を放ち、それを徐々にどす黒く染めた。

完全に黒く染まり、もはや聖剣などと呼べなくなった相棒に笑みを浮かべた。



「ありがとう。これからよろしくな」

俺は魔王の死体から相棒を引き抜き、その場から立ち去った。


これから始まる長い旅。それは、永遠に終わりは告げることはない。

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