絶望の始まり
すみません!!
エピソードの順番間違えてました!!
ひとしきり笑い終わった後、ふ、と表情が抜け落ちる。今までの憎悪の対象が死んだのだ。すると途端に退屈になってきた。
退屈しのぎに、俺があいつに憎悪を抱くきっかけでも思い返すか。
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僕は世良勇人。つい最近まで普通の男子高校2年生だったが、勇者召喚によってここ、剣と魔法の異世界に呼び出された。
呼び出された理由は、厄災をまき散らしている魔王の討伐。彼らを倒すことで世界が平和になるという、ゲームではおなじみのテンプレだ。
最初は困惑していた。家でくつろいでいた時に、いきなり知らないところに飛ばされ、知らない大人に囲まれて、混乱していた所への第一声が、「勇者様、どうか魔王を討伐してくださいませ」だったからだ。
それが今や、飛ばされるなら僕が知っているゲームのどれかに飛ばされたかったなー。なんて思うくらいにはなった。
でもここの人はみんないい人だから、正直不満はない。それに、国としておかしい政治を行っていることもないようだ。魔王がいる、という事を除いて平和な世界だ。よかった。
最初の一年は、城で戦闘の基礎を叩きこまれ、王様が決めた優秀な人物と共に、勇者パーティーを名乗り、魔王討伐に旅立った。
それから数年。ようやく魔王を打つ目途も立った。召喚された時に言われたことなのだが、魔王を討伐すれば、元居た世界に帰れるらしい。もちろんこの世界にとどまることもできるのだが、僕は元の世界に戻りたかった。
突然僕が姿を消したのだ。その心労を想うと、いたたまれなくなる。
「浮かれているな」
そう茶化すのは、勇者パーティーに所属している斥候のラースだ。彼は人が良く、すぐに打ち解けることができた。まだ右も左もわからない異世界で、懇切丁寧に色々なことを教えてくれた、いい人だ。
「あともう少しで魔王を倒すことができるからね」
「そうだな。そして俺たちの旅も終わりかー。長かったな、えっと、もう3年になるんだっけ?」
「うん、そうだね」
僕がこの世界に来てから4年経つ。長いようで短かったと僕は思う。あの時は、何もわからなかったが、今ではもうすっかりこの世界にも慣れた。
「じゃあ、その時にお前は元の世界に帰ってしまうのか……。残ってくんねぇか?」
「うーん。僕、家族が心配だから。僕がいきなり消えて、気っと心配しているよね」
たった4年と手、この世界に愛着がない訳ではない。むしろ、自分の手で守った世界なのだ。愛着がない方がおかしい。
だが、そろそろ元の世界に帰りたい、と思っているのも事実だ。ホームシックにかかっているのかもしれない。
「おい、あまりユウト様を困らすな」
そういうのは、このパーティーのヒーラーのケープだった。彼は真面目だが、融通が利かない頑固な所がある。
「へいへい、分かりましたよ、僧侶様」
面倒くさがりなラースとの相性は悪かったが、パーティーの活動に支障をきたしたことはない。これを3年も続けていたのだから、この険悪な空気はもはや恒例と化していた。
「私、ユウト様が元の世界に帰られるのは、少し寂しいです……」
魔術師レーナ。彼女は初めて会ったときは何も言わずに物陰に隠れられてしまったが、今では会話ができるようになった。
「ありがとう。でも、家族も心配しているだろうから」
僕は笑顔でそう言った。すると、何故かレーナは顔を真っ赤にする。怒っているのだろうか……。
「ヒューヒューお熱いことで」
「か、揶揄わないで!!」
レーナは更に顔を赤くする。そんなやり取りが、あともう少ししかできないという事を考えると、僕は途端に寂しくなった、
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――数十日後 魔王城
魔王城に乗り込み、激しい戦闘を行った。魔王は確かに強かった。しかし、僕たちの絆の連携の方が強かったのは言うまでもない。
「世の中に混沌をもたらす邪悪な魔王よ、滅びろ!」
僕は魔王に聖剣を突き刺した。そして魔王は息絶えた。この世界から、魔王が滅び去った。
僕の持つ聖剣は、持ち主に大きな力を与える剣だ。だが、異世界から来た勇者しか持つことを許されない。癖の強い剣なのだ。僕は、城でこの剣を渡されてから、ずっと使っており、相棒の位置にいたのだが。こいつで戦うのも今日が最後だ。
「よし、国に帰ろう」
魔王の消滅を見届け、仲間に向けてそう言いながら振り返った。ラースは感極まったのか、抱き着いてきた。
ラースを体で受け止める。だが、僕を襲ったのは熱いくらいの痛みだった。
「え……?なんで……?」
そのまま倒れこむ僕を見下ろしながら、ラースは言った。
「いやー、思ったんだけどさ、お前がこのまま死んだらさ、この手柄を独り占めできるんじゃないか、て」
「は……?何を言っているんだ……?」
場違いなほどに眩しい笑顔を浮かべるラースを、初めて不気味に思った。笑顔だけでも十分に不気味だが、僕が何より不気味に思ったのはその目だ。今までに見たことがないくらいに濁ったその目は、僕のことがきちんと見えているのか怪しかった。
僕はラースの言っている意味がよくわからなかった。本当は、理解したくなかっただけかもしれない。
ここで、ラースの言葉に違和感を覚える。
独り占め……?ケープとレーナは……?僕はラースの後ろに目をやると。そこには鷹の翼を持つ、見たこともないくらいの美少女がいた。その足元に、ケープとレーナが倒れている。
「!!??」
ぱっと見、眠らされたかのように、外傷はない。だが、なんというか、存在感がない。まるでそこにいないかのような……。
そこまで思い至ると、ハッととある考えが思い浮かんだ。
「魂がない?」
「おお、なんでわかったんだ?普通なら、寝てるだけだと思うのに」
ラースが驚いたように言う。
彼らは、もう二度と目覚めることのない、夢の世界に旅立っていた……。
「ケープ……?レーナ……?ゴフッ……」
その事実を認めたくなくて、僕は二人の名前を呼んだが、反応があろうはずがなかった。
「何で……?なんでこんなことをッ…!」
「俺さ、お前らが邪魔なんだわ。お前はこの世界に残ったら、公爵を爵位がもらえるだろ?ケープは枢機卿の地位が。レーナは宮廷魔導士長の座が手に入る。――じゃあ、俺は?どうあがいても、お前たちへの褒賞よりもグレードが下がるだろう?それがたまらなく嫌だったんだよ」
そう言って、僕を冷たく見下す。
「だが、勇者パーティーの唯一の生き残りになれば、そんなこともなくなる」
「――!!」
「じゃあな、ユウト。俺のために死んでくれ」
僕は、生まれて初めて、心の底からの憎しみを抱いた。身を焦がすほどの怒りを覚えた。
「絶対に!絶対にお前を殺してやる!!お前も、その女も!!絶対にだ!!!」
「おお、怖い怖い。勇者様もこんな表情ができたんだな。でも、もう終わりだ。お前はもう虫の息。その上こっちは2人。勝てっこないさ」
そう言って、そのままラースと女はここを後にする。
「何度生まれ変わろうと!僕は決してお前たちを必ず見つけ出して敵を取ってやる!!!」
ラースは片手をあげ、そのまま立ち去った。僕は、視界が徐々に狭くなるのが分かった。しかし、その感覚も過ぐになくなる。最後に残ったのは、ラースと女への殺意だけだった。