6.次の駅。
「あぁ……。どんどん駅が遠ざかってく。最悪だ。どうしようか」
雪とともに流れてく、外の風景。
徐々にスピードを上げた列車の窓から、雪に覆われた僕の街が遠ざかる。僕は、そのまま閉め切られた冷たい扉の前で立ち尽くすしかなかった。
「ヤバくないか。どんどん雪が降って来てるし。もしかしたら、帰れなくなるかも」
僕は、扉の窓から見える雪の景色を見つめながら、一人不安になり、呟いた。
優柔不断──。
ハッキリしない、パッとしないどころか。マニカへの態度もそうだけど、この決断力の無さが悪い結果を招いてしまっている事実。
思い切って、マニカと一緒にマニカのお母さんの車に乗れば良かった。いろんな意味で、好機とか幸運を逃してしまってる気がした。僕の人生において。後悔した。けど、もう、遅い。
「いつもこうなんだよな。なんか、自意識過剰過ぎて。って、キモくないか? ヤバい。自己嫌悪感……。どうしよう。拭えない」
何やってんだろうって、想う。駅の電光掲示板には大雪警報の文字が、流れてたし。親に迎えに来てもらうにしても仕事で遅いし。親だって、この雪の最中、まともに家に帰って来られるか分からないし。
「あぁ……。こんな時、空也だったら」
遠ざかる外の景色を見ながら、空也のことを想う。空也のことも空也自身には伝えてないけれど。
……僕の憧れの存在だった。
いつも空也は、影が薄くて誰とも話せない僕に話し掛けて来てくれる。僕とは対称的で明るい空也。別に僕と関わってるからって、他の友達とも影響無さそうだし。羨ましい。
「空也みたいに生きれたらな……」
どんなに良いだろう。
さっきから、独り言が止まらない。これも、キモいか。キモいことだらけだ。
僕が壁にもたれ掛かりながら、出入り口の扉の窓から見える雪の景色を見つめていると──。徐々に、列車のスピードが落ちて来た。また、幾つかの駅を通り越したみたいだった。
僕の住む街からは遠く離れた別の街──。
溜め息をついてたら、列車が駅に止まり扉が開いた。冷たい雪の風が吹き込んで来て、僕の吐いた息が真っ白に消えて行く。
大勢の人たちが、足早に駅の改札口に向かってて。エスカレーターの出入り口付近が、とても混雑していた。
そんな中、一人。
駅のベンチに座る俯いた男子生徒を見つけた。
(──僕と同じ学校の制服?)
……空也だった。
清々しい短髪に刈り上げられた後ろの首もとが寒そうだった。うな垂れてる。両足を真っ直ぐに伸ばして。
「空也?」
「あ? お、繋じゃねぇか! てっきり、あの子と降りて……」
「見てたの?」
「いや、悪ぃ……。なんか、邪魔すんのもなって。それより、繋! 凄ぇな!? お前、いつの間に? だって、あの子、昨日転校して来たばかりだぜ? ちょ、馴れ初めとか教えろよ。あー、これが親の気持ちってヤツか」
「いや。いつ、僕が空也の子どもになったんだよ」
こんな風に。
空也との会話は、いつも通りだった。正直、ホッとした。胸を撫で下ろした。あのまま、空也とさえ気まずくなってしまったら、どうしようかと想っていたから。
雪が白く吹き荒ぶ駅舎の景色。けれど、やっぱり、空也と居ると心地良い。影が薄くて暗い僕の心に、明かりが灯される。こればかりは、本当に救いだ。空也は、僕の人生において希望の光で救世主だった。
そう言えば、夢の中の女の子──マニカに似た子の姿も、夢ではよく見ていた。けれども、それと同じくらい空也も僕の夢によく出て来る。え? でも……。既視感? なんか、前にもこんなことが、あったような? デジャヴってヤツなのかな。あれ? なんか、引っ掛かる。おかしい……。
「おー。それは、そうとよ? どうする? 俺たち、めっちゃ街から離れてるぜ?」
「まぁ、考えてても仕方ないよ。反対方面の列車を待つしか」
「だよな。んじゃ、向かいのホームに急ごうぜ? 今度は、乗り過ごさないようにな?」
「そうだね。空也も乗り過ごすことあるんだ? 珍しいね?」
「あー。たまにな? 考えごとしてたら、自転車漕ぎの疲れで、ドッとな!」
「空也が、考えごと……か」
やっぱり、引っ掛かる。明るく努めて空也は振る舞ってるけれど。もしかして、空也はマニカのこと……。
僕の思い込みだろうか。考え過ぎ? それにしても、やっぱり、モヤモヤが晴れない。けど、なんか、空也にマニカのことを聞くのも……逆に、僕がマニカのことを気にしてるみたいで恥ずかしい。何なんだ、この気持ちは。
既視感──デジャヴと言い、空也とマニカのことと言い……。引っ掛かることばかりだ。
けれども、今は。
隣に、空也が居てくれるだけで心強かった。僕も、冷静さを保っていられたから。何とか、なりそうな気がしてた。




