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いつのマニカ前世、二人ツナグ来世。~時超えの石~  作者: すみ いちろ
第一章 来世編。

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3.次の日。

「チーすっ! (ツナグ)! 相変わらず朝からシケた顔してんな? ギャハハ!」

「おは……よ? 空也(ソラヤ)は、相変わらず朝からテンション高いね」


 早朝の学校の教室。朝日が眩しい。

 電車とバスで高校まで乗り継ぐ僕の朝は、早い。なんせ、電車でもバスでも一本でも乗り損ねたら、大遅刻だ。

 ──木造の校舎にして木の床材の匂いが、立ち込める朝。

 新鮮な朝の光を南側の窓辺の席で迎える。この教室での僕の唯一の居場所。……のはずだと思ってた矢先。

 ドカドカと、駐輪場から階段と廊下を駆けて来た空也が、朝一で僕の背中を叩いた。


「痛って! 叩くなよ、空也……」

「挨拶だよ、挨拶。なー、お前ってさ? 本当、影薄いよな?」

「何? 朝から大きなお世話だよ。イジられたくないんだけど」

「ハァ……。俺と一番気が合う(ダチ)って、お前なのにさー。なんで、そんな湿っぽいの?」

「ハァ……。こっちこそ溜め息出るよ。それに、僕と空也って気が合ってんの?」


 こんな調子で。同じ中学からの付き合いで。とは言っても、駅からバスの僕とは違って、空也は体力作りとか何とかで駅から自転車を漕いで来る。

 ……何かと僕には、遠慮しない空也。大抵、空也の方から話し掛けて来る。

 それと、腐れ縁。どう言う訳か、高校でもクラスが同じだ。昨日、帰り道にカラオケ行った子にノリが少し似てる。──と、そう言えば……。


「お前ってさ? もう少し前髪切った方が良くね? そしたら、ワンチャン……」

「切らないよ。なんか、他人の目って怖いんだ……」

「ハァ……。俺のこの、曇り無き(まなこ)を見てみ? 怖くないだろ?」

「ハァ……。そうだね。空也は、特別かもね。空也は……」

「ハハ! 俺は特別か! 良いな、それ!」

「話し終わる前に、喋るなよ……」


 こんな風に。ザワついた朝の気怠いホームルームが始まる前の教室で。いつも、空也は僕に話し掛けて来る。まあ、良い迷惑でもないし。まんざらでもないけど。空也の他の友達が、教室に来るまでの少しの間だけの時間だから。

 机や椅子を動かす音が、引っ切りなしで。教室の前と後ろの入り口からは、クラスメートたちの話し声が入れ代わり立ち替わり聞こえる。何かと話題が……なんでそんなに尽きないのかが、不思議だ。

 

「なぁなぁ、昨日の転校生。どう、思う? 俺さ、めっちゃ……」 

「めっちゃ? えっと……。誰だっけ?」

「ハァ……。お前の思春期は何処行ったよ? 年頃の女の子に興味ない? 俺が(ツナグ)の親なら心配するぜ?」

「ハァ……。そりゃどうも。ご親切に」


 僕にしては、人生の大事件だった昨日の出来事……。青天の霹靂。いや、そんなことを言ったら、空也でさえ笑うだろうか。けれども、空也の口ぶりからして、物凄い驚くに決まってる。そんな気がして。

 僕は、空也に嘘を突いてしまったのかも知れない。

 いや、知らないフリをしていた。卑怯だろうか。どうにも、本当のことを空也に打ち明けられなかった。なんでだろう。なんか、一瞬で、空也に後ろめたい気持ちが生まれて。モヤモヤとしていた。どうしてだろう……。


 ──ほんの一瞬。僕と空也の間に、沈黙が流れた。

 その時。

 クラスのザワついた空気も止まった。担任かと思った。……違った。

 やがて、ヒソヒソと。クラス中の視線が集まる。

 目で追ってた。誰もが。空也も、もちろん。僕じゃない、その子を見ていた。

 

 『マニカ』だ──。

 

 マニカが、教壇の前を通り過ぎるのを、僕も目で追っていた。いつの間にか……だ。

 マニカの席は、僕の後ろだった。そんな近いのに、昨日……駅で出会うまで知らなかったなんて。


「おはよ。ツナグくん?」

「おは……よ」


 僕は、長すぎる前髪の隙間から、マニカが僕に笑いかけるのを見た。そして、僕も、そんなマニカの後ろ姿を目で追ってしまっていた。

 その瞬間──。

 ヒソヒソとしていたクラスメートたちのザワめきに、「え?」とか……「ウソ!?」の声が混じる──のを、聞いた。


(ツナグ)……?」

「え、いや。あの……。空也、実は──」


 ──他のクラスメートたちと同様に。驚きと動揺を隠せない空也の目の震えに、僕の言葉が詰まる。


(キーンコーン、カーンコーン……)


 ちょうど、チャイムの鳴る音がして。担任が、教室の前の入り口から入って来た。

 空也に対する弁明要求の機会を失った僕は、そのまま空也が僕とは少し離れた廊下側の席につくのを眼で追っていた。

 授業よりも、空也の後ろ姿に後ろめたい気持ちを感じて──。

 その日。学校では、そのまま。空也と僕は、ひと言も話せる機会が、なかった。








 


 


 

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