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いつのマニカ前世、二人ツナグ来世。~時超えの石~  作者: すみ いちろ
終章 今世編。

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34.鼎島。




 ──夏休み。

 無事。かなえさんへの奉納──。『鼎神社星夜祭り』を終えた僕は一週間。一学期を終えて先に帰省していたマニカの……お祖母さんが居る実家に滞在することになっていた。

 海に浮かぶ孤島──。かなえ島。瀬戸内海に面した小さな島。

 僕は緊張しながらも夜行バスに揺られ、携帯スマホで現地までの道順ルート地図マップを広げて確認していた。


(──かなり遠いな……)


 乗車してから数時間が経っても相変わらず。窓の外の景色は真っ暗だった。途中、物思いにふけりつつ……。延々と続く高速道路の外灯の明かりを眺めていると──。急激な眠気に襲われた。後ろの座席には誰も居ない。座席シートは遠慮なく倒せた。けれども、また……しばらくすると目が覚めて。ウトウトしながら、寝たり起きたりを身体に馴染まない座席の上で繰り返していた。いつの間にか日付が変わっていた。

 何度目かの冷房クーラーが切れた後……。少し開けた窓から吹き込む夜風が、ヒンヤリとして心地良かった。


「いろいろあったな……」


 かなえさん。真繋マヅナさん。摩尼伽マニカさん……。それに、空昉くうぼうさん、葉由利ハユリさん──。

 ……隣の座席シートには、空也ソラヤ葉月ハヅキは居ないけれど。

 あの日、あの時。

 僕もマニカも、空也も葉月も。どう言う訳か、現実世界に戻って来ていた。いや。お神楽舞いの真っ只中。その演奏が鳴り終わった瞬間に──。僕らは、鼎神社本殿の木組みの舞台の上に居たんだ。


(──世界は滅びなかった。鼎さんが消えて、崩壊した鼎石の〝時の力〟が世界に溢れ出すはずだったのに。……鼎石も元通りに戻っていた。なんでだろう……)


 そんな風に想いながら……。僕は傾けた座席シートの上で、何度目かの眠りに落ちた。

 あれ以来──。既視感とかデジャヴとか……。不思議な事は起こらなかった。マニカも、消えたりはしなかった。それに、夢でマニカと会う事もなかった。けれど──。その代わり。学校や帰り道で、マニカと一緒に過ごせる時間が増えたみたいに想えた。

 

 ……明け方。夜行バスから降りた僕は、背伸びをしつつも。眩しい太陽と眠気に目を渋らせた。……これから、更に。鼎島まで出航しているフェリー船乗り場まで目指さなきゃいけない。始発の市営バスに乗り換えて。

 けれども、大荷物を肩に背負う僕は、ドキドキとした胸の高鳴りと不思議な高揚感を抑え切れずにいた。


「……マニカに会えるんだ」


 早朝のバスターミナルは、夏休みともあってガラン……としていた。僕の住む街のバスターミナルよりも、行き先の番号表示が少なくて……。鼎島行きのフェリー船乗り場のある港行きのバスが、直ぐに分かった。

 僕は、大荷物を担ぎ込んで──。まだ乗客の居ないバスの車内に乗り込んだ。


(……終点までは降りなくて良いよね)


 一番前の席に座った僕は、そのまま窓ガラスに頭を傾けて。……しばらく、眠った。

 僕のズボンの右側ポケットには──。

 あの時、マニカがくれた白い紙〝処方箋〟が入れられてあった。それは、鉛筆でマニカが書いた自分の名前『宮月ミヤヅキマニカ』の文字。それが、小さく折り畳まれていて。僕は、マニカが手渡してくれた時のまま。四つ折りにして御守り代わりに、ずっと大事に持っていた。きっと、この〝処方箋〟がマニカに会わせてくれる気がして。

 

 青空に海──。窓ガラスに、目が覚めた僕の顔が映り込む。……眩しい景色が広がっていた。


(ようやく……か。遠かったな……。けど、鼎島はまだ海の向こう。今度は船に乗らないと……)


 港行き市営バスの終点。アナウンスが流れる。席を立った僕は、眠たい目を擦りながら運賃表を改めて確認する。終点まで乗っていたのは僕だけだった。支払った硬貨が、運賃箱に音を立てて次々に流れて行く。

 ──停留所に降りた瞬間。

 むっとした夏の暑さと生温い潮風に、僕の前髪が揺れた。風が強い。けれども、心地良い。……海の香りがした。僕の住む街には無い匂いだった……。

 港に着いたバスを降りてから僕は、フェリー運航会社の建物に直行し乗船券チケットを買い求めた。

 まだ、朝早かったけれど。チラホラと。それなりに、乗船客と思われる人たちが何人か居た。その直ぐ隣の売店で。その何人かが、お店の商品を買い求めていた。寂れた小さな売店だったけれど、僕も地域限定の食べ物や飲み物……それから小物グッズとかも幾つか買った。


(──マニカに笑われるかな……。そうだ。お土産……。一週間もマニカのお祖母さんにお世話になる訳だから……。一番高い高級和菓子を保冷バッグに入れておいたんだけど。崩れてないかな……)


 急に不安を感じた僕は、保冷バッグを開けて。中にある高級和菓子セットを確認した。あるにはあるけれど……。いや。もしかしたら、何度も鞄を傾けていた訳だから──。


(──しまった。やっぱり、個包装の焼き菓子にしておくべきだったか……)


 ──そんな事を考えてたら、あっと言う間に乗船時間になった。それからと言うものの。マニカに会うドキドキや胸の高鳴りよりも。胸につかえた不安が込み上げて来て……。せっかくの潮風を感じても、海に揺れる初めての船旅も……。なんだか落ち着く事が出来なかった。

 けれども、甲板に出て青空の光と潮風を浴びていると──。……目の前に〝鼎島〟が迫って来た。


(あれが……。マニカの生まれ故郷──鼎島。真繋マヅナさんや摩尼伽マニカさん、それに空昉くうぼうさんや葉由利ハユリさんが居た〝鼎島〟なんだ……)


 青空と海に沸き立つ白い入道雲。その真下──。

 緑に覆われた島の中心部に切り立つ黒い斜面。土肌と岩壁が剥き出しになった山の頂上。見覚えのあるその姿が、真夏の太陽の光を受けてか、ちょうど影を落とした様に見えていた。


「……鼎石。あの巨大な黒い石に会えるんだ。あ、砂浜……。あそこで、空昉くうぼうさんや摩尼伽マニカさんと、良く話してたっけ。マニカも……良くあの場所に行くのかな」


 太陽の光が眩しく海を照らす。キラキラとした波間。ゆっくりと旋回を始めたフェリー船が振動して……。鼎島の港に到着するアナウンスが船内に流れた。僕は、急に慌てるように大荷物を肩に担いで──。甲板と海を背にして、客室を抜けて……それから船内にある乗船の出入り口を目指した。










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